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野菜炒めが市場を席巻する? 「ベジ郎」が店舗数を伸ばすサステナブルな理由とは

三輪大輔フードジャーナリスト
(写真:イメージマート)

ありそうでなかった野菜炒め専門店

「ドライブスルー八百屋」を覚えているだろうか? 緊急事態宣言で飲食店が休業を余儀なくされたとき、行き場をなくした野菜が市場に溢れた。特に2020年4月に発出された一回目の緊急事態宣言の際は、史上初の事態とあって状況は深刻だった。そうした事態を打開するため生まれたのがドライブスルー八百屋だ。3密を回避しながらドライブスルー形式で野菜を受け取れるとあって、多くの消費者が利用し、テレビや雑誌などのメディアでも数多く取り上げられた。

緊急事態宣言中に行われたドライブスルー八百屋の様子(株式会社フードサプライ提供)
緊急事態宣言中に行われたドライブスルー八百屋の様子(株式会社フードサプライ提供)

それを全国で初めて行ったのが、他でもない株式会社フードサプライだと言われている。フードサプライは09年の創業以来、「YASAI LIFE LINE」という理念の下、既存の事業モデルに縛られない革新的な経営で卸売の可能性を広げ続けている。その最新の到達点が野菜炒め専門店「肉野菜炒め ベジ郎」だ。

「肉野菜炒め ベジ郎」の創業店でもある渋谷店の外観(株式会社フードサプライ提供)
「肉野菜炒め ベジ郎」の創業店でもある渋谷店の外観(株式会社フードサプライ提供)

野菜炒めは家庭でつくりやすい料理だと思われているが、火力の問題もあって店のクオリティを再現するのが難しい。それにもかかわらず家庭で手軽にできる料理だと思われて専門店はなかった。そのギャップがチャンスとなり、21年12月のオープン以来、口コミで人気が拡散。「食べログ」の検索数でも驚異的な数字をたたき出すなど、注目が高まっている。

同店の特徴は、たっぷりの野菜を使った進化系野菜炒めだ。味はもちろん、野菜や油の量もカスタマイズできる。また、味付けは、ポン酢、みそ、しょう油の中から選べるなど、専門店ならではの提案を行う。

野菜は「普通(400g)」でも「マシ(500g)」でも料金が変わらないため、圧倒的にマシを選ぶ人が多い。ご飯を大盛りにできる定食屋は多いが、野菜を大盛りにできる店はあまり見かけない。

見た目にもインパクトのある圧倒的なボリュームを誇る野菜炒め(株式会社フードサプライ提供)
見た目にもインパクトのある圧倒的なボリュームを誇る野菜炒め(株式会社フードサプライ提供)

現在、ベジ郎には、老若男女問わず、幅広い人が足を運ぶ。男女比も7:3くらいの割合で想像以上に女性客が多い。外観やメニューの見た目など、女性を狙ったつくりにしていないにもかかわらず集客に成功したのは、圧倒的なボリュームにもかかわらず、あっさりと完食できる点に隠されている。

22年4月には池袋に2号店をオープンさせ、ベジ郎はその勢いをさらに加速させている。

サプライヤーが飲食店を開業させた訳とは?

今回、なぜ野菜のサプライヤーが飲食店をオープンさせたのだろうか。その背景について、同社代表取締役の竹川敦史氏は次のように話す。

業界を革新させるアイデアを次々と形にする、株式会社フードサプライ代表取締役の竹川敦史氏(株式会社フードサプライ提供)
業界を革新させるアイデアを次々と形にする、株式会社フードサプライ代表取締役の竹川敦史氏(株式会社フードサプライ提供)

「われわれが卸売として飲食店を出店する狙いは大きく三つあります。それが生産者のため、飲食店のため、そしてお客様のためです。

まず生産者のためでいうと、コロナ禍でわれわれがドライブスルー八百屋を行ったように、多くの生産者が野菜の消費先の確保に困りました。今後も飲食店の需要がどこまで戻るか分からないので、消費先の確保はますます重要な課題になるでしょう。とはいえ、通常の飲食店だと、どんなに多くても野菜の消費は1日で10kgほどです。そこで野菜を大量に消費する業態をつくって、生産者が頭を悩ませている課題を解決しようと思いました。

次が飲食店のためです。ベジ郎の多店舗化は考えていますが、自分たちの手で広げていくつもりはありません。フランチャイズで外食企業様の業態ポートフォリオを豊かにする一つの手段として使ってもらいたいと考えています。中華料理店のランチなどで野菜炒めが提供されていますが、専門店として提供している店はありません。だからこそ、オープンから差別化された業態ができ上がるでしょう。

最後に、消費者のためです。現在、1日に野菜は350g必要だと言われていますが、日本人は平均で280gしか取れていません。その裏には、そもそも野菜を食べられる店が少ないという背景があると考えています。例えば、肉なら焼き肉や牛丼、魚なら寿司や刺身と多くの選択肢の中から選ぶことができます。しかし、野菜は肉や魚と同じように食べたい人は多くいるにもかかわらず、そのニーズに応えてくれる店がありません。こうした理由を踏まえて、われわれが野菜の卸売として野菜炒めの専門店をしようと思い、ベジ郎を開発しました」

こう聞くと「野菜炒めではなく、サラダ専門店でもいいのでは」と思う人もいるかもしれない。しかし、生野菜ではたくさん消費するのが難しいだけでなく、満腹感も得られない。一方で、野菜炒めなら野菜が温かいので、ある程度の量を食すことができる。店舗全体での野菜の消費量は1日に160kgから200kgで通常の飲食店の20倍近い。これだけ野菜を消費する飲食店は他に見当たらないため、生産者にとってもありがたい存在だ。10店舗、100店舗となったとき、生産者に与えるインパクトは、さらに大きくなるだろう。

店舗の野菜のストックも、すごい勢いで消費されていく(株式会社フードサプライ提供)
店舗の野菜のストックも、すごい勢いで消費されていく(株式会社フードサプライ提供)

今後の展望を竹川氏はこう描く。

「店舗数が増えたら、スーパーマーケットに卸せなかったりする規格外の野菜も積極的に活用できるようになるでしょう。また、収穫量が多くて値崩れしそうな野菜があれば、それを使ったフェアを行って大量に消費することも可能です。これまでの飲食店ではなかなかできなかった挑戦ができるため、卸売としてさらに生産者の役に立つことができるのではないでしょうか」

ベジ郎がオープンした数だけ、生産者の経営が楽になり、人々も健康になる。そんなサステナブルな循環が、ベジ郎を中心に生まれようとしている。

フードジャーナリスト

1982年生まれ、福岡県出身。2007年法政大学経済学部卒業。2014年10月に独立し、2019年7月からは「月刊飲食店経営」の副編集長を務める。「ガイアの夜明け」に出演するなど、テレビ、雑誌などのメディアに多数出演。2021年12月には「外食業DX」(秀和システム)を出版するなど、外食の最前線の取材に力を注ぐ。

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