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豪華スパーリング相手と高地キャンプに入ったタパレス。井上尚弥が警戒すべきはド根性

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ラスベガス・キャンプを打ち上げ母国へ移動したタパレス(写真:筆者)

ラスベガスからロス&マニラ経由で到着

 WBC・WBO世界スーパーバンタム級統一チャンピオン井上尚弥(大橋)と4団体統一戦を行う(12月26日・東京・有明アリーナ)同級WBAスーパー・IBF統一王者マーロン・タパレス(フィリピン)がラスベガスからロサンゼルス経由で8日、マニラに到着。さっそくバギオ市へ移動して調整を開始した。マニラから車で4時間強かかるバギオ市は標高1,540メートルに位置し、フィリピンのアスリートたちのトレーニング地として有名。同国の英雄、6階級制覇王者マニー・パッキアオも利用していたらしい。

 2ヵ月あまりに及んだラスベガス・キャンプでは彼のプロモーター、MP(マニー・パッキアオ)プロモーションズ社長、ショーン・ギボンズ氏が所有する「ナックルヘッド・ボクシング・クラブ」でジョナス・スルタン、ジェイド・ボルネアといったフィリピン勢とタパレスはスパーリングを重ねた。ちなみにスルタンは井上がバンタム級4団体統一王者に就いた最後のピース、WBO王座をポール・バトラー(英)と争った選手。ボルネアは今年6月、IBF世界スーパーフライ級王者フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)に挑戦した(マルティネスが11回TKO勝ちで防衛)。

 ラスベガスでは彼ら2人のほかメキシコ系の選手とスパーリングを行った。筆者が直接タパレスに聞いたところ、「スパーリングは週に3回、1回4から6ラウンド」と語っていたので、1回5ラウンドとして週3回だから15ラウンド。それを2ヵ月(8週間)続けたから15×8で合計120ラウンドになる計算。バギオ市で敢行する最終キャンプもスパーリングに主眼が置かれる。

世界1位、プロスペクトらがサポート

 バギオ到着から3日後、タパレスはスパーリングをスタートした。彼のエルネル・フォンタニーヤ・トレーナーは「マーロンは初日、素晴らしいスパーリングを披露した」と現地メディアに語っている。この日タパレスの相手を務めたのはヘルラン・ゴメス(フィリピン=24歳)。これまで11勝8KO1敗のゴメスはトレーナーとタイに在住しながら9月、初回KO勝ちでWBCアジア・シルバー・バンタム級王者に就いた逸材。この日はジョン・ジョン・エストラーダ(フィリピン=17勝14KO11敗1分)ともスパーリングを行った。この選手は今年7月、日本で渡邊海(ライオンズ=日本スーパーフェザー級11位)に初回KO負けしている。

 そして15日からWBCバンタム級1位ビンセント・アストロラビオ(フィリピン=26歳)が加わる。アストロラビオ(19勝14KO4敗)は2022年2月ドバイで2階級制覇王者のベテラン、ギジェルモ・リゴンドウ(キューバ)にダウンを奪って判定勝ち。今年5月、井上が返上したバンタム級タイトルの一つ、WBO王座をジェイソン・マロニー(豪州)と争い、僅差の2-0判定負け。しかし8月、敵地タイで常連上位ランカー、ナワーポン・ソールンビサイ(タイ)を11回TKO勝ちで下し、指名挑戦者の地位を手にした。アストロラビオ自身もタパレスとの手合わせを心待ちにしているという。

 さらに東京五輪フライ級銀メダリスト、カルロ・パアラム(フィリピン=25歳)。アマチュアで、現ОPBFフェザー級チャンピオン堤駿斗(志成)に勝っているイアン・クラーク・バウティスタ(フィリピン)のエリートアマ2人を招へい。また昨年大みそか、堤のプロ2戦目の相手を務めたピート・アポリナル(フィリピン)も加わる。いまだにアマチュアとしてパリ五輪を目指すパアラムとバウティスタはフェザー級でリングに上がる。

右から2番目がタパレス。左端がフォンタニーヤ・トレーナー。その隣がマナンキル氏(写真:Sanman Boxing)
右から2番目がタパレス。左端がフォンタニーヤ・トレーナー。その隣がマナンキル氏(写真:Sanman Boxing)

若手マネジャーが尽力

 彼ら豪華絢爛なスパーリングパートナーたちを集結させたのはタパレスの共同プロモーター、「サンマン・ボクシング」のJC・マナンキル氏。パッキアオの地元ゼネラルサントスシティに本拠を置く同プロモーションを運営するマナンキル氏はまだ29歳の若さ(今月24日で30歳)。そのマネージ力には恐れ入る。ライバルでありながらMPプロモーションズとの連携も怠りなく、もしタパレスが井上に勝てば、功労者に挙げられるに違いない。

 万全の体制で最終キャンプに入り、来月中旬に日本へ乗り込んで来る予定のタパレス。彼のベストファイトはムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)を2-1判定で攻略し一気に2団体統一王者に就いた一戦というのが一般的な見方ではないだろうか。私はあの試合はアフマダリエフに分があったと信じているが、直にタパレスに会ってから「井上の4団体統一戦の相手はアフマダリエフよりもタパレスの方が相応しい」と思うようになった。なぜ?と言われてもうまく説明できないが、試合前の盛り上がりは日本で何度もリングに上がり、以前スパーリングパートナーとして山中慎介、井岡一翔、亀田大毅、亀田和毅をサポートしたタパレスが親密度の点で勝る気がするのだ。

7年前の大逆転劇

 さて彼のベストファイト、私は16年7月、タイのアユタヤでプンルアン・ソーシンユー(タイ)に11回KO勝ちでWBO世界バンタム級王者に就いた試合を挙げたい。ドラマチックな逆転勝利だった。序盤は両者が持ち味を発揮してほぼ互角。5ラウンド、プンルアンにボディーを攻められたタパレスは2度ダウンを奪われるピンチ。辛うじて続行が許されたが、ロープに詰まり乱打を浴びる。ストップ寸前に追い込まれたタパレスはラウンド終了ゴングにこぎ着け、その後プンルアンと激しい打ち合いを繰り広げる。そして10回、王者にダメージを与えたタパレスが続く11回、逆に右から左ボディーでタイ人を倒し返し、フルカウントを聞かせた。24歳の時だった。

プンルアン・ソーシンユーvs.マーロン・タパレス(2016年7月27日)

 そんな劇的な王座奪取にもかかわらず、翌年4月の大森将平との初防衛戦では前日に体重オーバーの失態を演じ、試合でTKO勝ちしたものの、無冠となってしまった。また19年12月ニューヨークで行われた岩佐亮佑とのIBFスーパーバンタム級暫定王座決定戦で11回TKO負け。そして最新のアフマダリエフ戦……。いったいどれが本当のタパレスの姿なのか分からなくなる。

 それでも7年前、タイで絶体絶命のピンチからよみがえったタパレスのド根性は有利を予想される井上としても心に留めるべきだろう。井上とプンルアンでは実力が違い過ぎるという見方もできる。だが、あそこで頑張れなかったら今のタパレスはなかった。楽勝ムードが漂う中、死に体となったタパレスがもっとも危険だと助言したい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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