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クロフォード、井上尚弥とPFP上位を争うヘビー級王者ウシクが週末、強打者と防衛戦

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
会見のウシク&デュボア(写真:Piotr Duszczyk)

ウクライナの独立記念日イベント

 ロシアのウクライナ侵攻から1年半、ヘビー級のWBAスーパー・IBF・WBO世界統一王者オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)が今週土曜日26日(日本時間27日)隣国ポーランド・プロツワフのリングに立つ。3団体統一王者の2度目の防衛戦。挑戦者はWBAレギュラー王者ダニエル・デュボア(英)。会場のタルチェンスキ・アリーナは多くのウクライナ人ファンが集まり超満員に膨れ上がると予測される。試合はウクライナの独立記念日にちなんだイベントになる。本日、記者会見が開催された。

 凱旋試合と変わらないウシク(20勝13KO無敗=36歳)の相手を務めるデュボア(19勝18KO1敗=25歳)はプロデビュー後15勝14KO無敗の快進撃でヘビー級最大のホープと期待された。しかし20年11月、前WBOヘビー級暫定王者ジョー・ジョイス(英)にKO負けで初黒星。おまけにジョイスの左ジャブを浴びて左目眼窩骨折のアクシデントに見舞われた。回復して2連勝後、米国マイアミでWBAレギュラー王者に就き、昨年12月のケビン・レレナ(南アフリカ)との防衛戦では初回に3度ダウンを喫する大ピンチに遭遇したものの3回逆転TKO勝ちでサバイバルした。

 デュボアは戦績通りのハードパンチャーで、いまだにフレッシュな選手だが、ジョイス戦からディフェンスとスタミナ面の課題、レレナ戦では打たれ脆さが露呈した。サウスポーの万能ボクサー、ウシクに対し、どれだけ通用するか不安視する意見が多い。デュボアの勝利は“パンチャーズ・チャンス”(強打者であることのチャンス)だけという予想が主流だ。

2トップの壁

 それもそのはず、ウシクはウェルター級4団体統一王者テレンス・クロフォード(米)、WBC・WBO世界スーパーバンタム級統一王者井上尚弥(大橋)と並んでパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングで上位を占める現役最強選手の一人。7月第4週、珠玉のパフォーマンスを披露したクロフォード、井上が多くのPFPランキングで1位、2位を占める中、3位以下にシフトしたウシクの出来に注目が集まる。彼が権威があるとされる米国の「ザ・リング」のPFPなどで1位に返り咲き、あるいは2位に浮上する可能性はあるのだろうか。

 当然ウシクにはクロフォード、井上級の試合内容が要求される。それでも、ウシクが彼らを出し抜くことは至難の業だと思える。目の覚めるようなKO勝ち、センセーショナルな勝利を飾っても、3位に留まることになるだろう。それほど“2トップ”は抜きん出ている。

 前ヘビー級3団体統一王者アンソニー・ジョシュア(英)に連勝して評価されたウシク。彼にとってトップ奪回の道はWBC王者タイソン・フューリー(英)との4団体統一戦を実現させて勝つことしかない。もちろんウシクと彼の陣営は、それを熱望しているが、ウシクvs.フューリーが締結に向かわなかったのは、ひとえにフューリーが報酬に納得しなかったからである。

ジョシュア(右)を再戦で返り討ちにしたウシク(写真:DAZN)
ジョシュア(右)を再戦で返り討ちにしたウシク(写真:DAZN)

ファイトマネーは元UFC王者戦の方が多い

 ひとまずウシクとの4団体統一戦を見送ったフューリーは10月28日、サウジアラビアのリヤドで総合格闘技UFCの元ヘビー級王者フランシス・ガヌー(カメルーン)とノンタイトル10回戦を予定している。このカードが発表された当初はタイトルマッチ、すなわちフューリーの防衛戦になるとも伝えられた。しかし、さすがにそれは避けられた。ただしフューリーのファイトマネー、予想される興行収益はウシクvs.フューリーを超えるものであることが判明している。

 来年、ウシクvs.フューリーが実現する見通しは十分にある。だが、4団体統一王者に王手をかけている男(ウシク)であってもボクシングに関して初心者(ガヌー)に後塵を拝することになった。これはボクシング界全体から見ても大きな屈辱だろう。金メダルを獲得したアマチュア時代から真摯な態度を貫き、努力を惜しまなかったストイックな男ウシクが、常にエゴを押し通してフューリー戦を実現させたガヌーに及ばなかったのだ。

 デュボア戦でウシクがスペクタクルな勝利を飾ると予想しつつ、リングの経済法則の非情さに考えさせられる。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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