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井上尚弥に完敗したドネアは再び不死鳥になれるのか? メキシカン相手に4度目に挑む

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
激闘となった井上vsドネア第1戦(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

7月15日、ラスベガス

 前世界バンタム級4団体統一チャンピオン井上尚弥(大橋)が返上したベルトの一つ、WBC王座の決定戦が7月15日、ラスベガスで開催される運びとなった。対戦するのは1位ノニト・ドネア(フィリピン)と4位アレハンドロ・サンティアゴ(メキシコ)。13日、米国のボクシング専門サイト「ボクシングシーン・ドットコム」が伝え、同日、ドネアとレイチェル夫人がユーチューブで日程を容認した。会場はザ・コスモポリタン。

 ドネアvsサンティアゴは今年2月半ばにWBCがすでに王座決定戦として承認していた。逆算すると、5ヵ月経ってようやく実現することになる。井上が返上した4ベルトのうち、WBA王座には弟の井上拓真(大橋)が4月、リボリオ・ソリス(ベネズエラ)を破って君臨。WBO王座は5月、ジェイソン・マロニー(豪州)とビンセント・アストロラビオ(フィリピン)が決定戦を行い、判定勝ちしたマロニーが王座を継承。もう一つのIBF王座決定戦、エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)vsメルビン・ロペス(ニカラグア)は当初、ドネアvsサンティアゴのイベントで行われる話があった。だが今のところ、7月29日ラスベガスで挙行されるエロール・スペンスvsテレンス・クロフォード(ともに米)のウェルター級4団体統一戦のカードに組み込まれる予定だ。

ダメージは心配ないのか?

 決定戦出場のドネア、マロニー、ロドリゲスの3人を井上がKOで下し、しかもスペクタクルなシーンで締めくくったことが“モンスター”の破壊力を浮き彫りにする。同時に、もし井上がいなければバンタム級は群雄割拠の状況を呈していたのではと推測される。その中で2回TKO負けの惨敗を喫したものの、左フックという絶対の武器を持つドネアが、最強に君臨していたのではないかと想定するメディアもある。

 確かにドネア(42勝28KO7敗=40歳)がマロニーやロドリゲス、そしてロペスやアストロラビオと王座を争うなら、おそらく予想不利に甘んじることはないだろう。それだけの実績を積み重ねているし、パワーだけなら彼らに負けないと断言できる。かと言って、彼らに必ず勝てる保証もない。やはり加齢による戦力減退と井上戦のダメージは今後のキャリアに影を落としている。

 ダメージ――。ドネアは2014年10月、WBA世界フェザー級スーパー王者ニコラス・ウォータース(ジャマイカ)に6回KO負けを喫した。初のストップ負けで、痛烈なフィナーレだった。それでも5ヵ月後の再起戦を含めて以後4連勝3KOと復調した。もともと自己管理能力に長けており、フェザー級では減量苦がなかっただけにサバイバルするのは難しくなかったと思われる。だが、7年ほどの年月を経た今はさすがに状況が違う。

 1年前の井上第2戦で、ドネアが初回終了間際キャンバスに落下した時は長年のダメージの蓄積が感じられた。井上のパワーは規格外で、たとえラウンドが進行していてもドネアの勝ち目は皆無に等しかっただろう。とはいえ序盤で、それもファーストラウンドでかくも脆さを露呈するとは思っていなかった。続く2ラウンドもダメージを引きずるようにヒザが大きく揺れて劣勢。とどめの左フックを浴びて万事休す。あのシーンから“フィリピーノ・フラッシュ”ドネアがよみがえる姿は想像しにくい。

曲者サンティアゴ

 相手のサンティアゴは以前紹介しているので、下記の記事を参考にしていただきたい。デビュー後、ノックアウトの山を築いて台頭する選手が多いメキシコにおいて彼の27勝14KO3敗5分という戦績は脅威を感じるものではない。逆に強烈なインパクトがないことが彼の取り柄であり、簡単にドネアの餌食になりにくい理由ではないだろうか。

 ひと言で言えば、相手の長所を消すことが巧く、やりにくさで勝負するボクサーだと思える。相手のパンチが届く距離を出入りしながら、機を見て左右コンビネーション、右強打を決めてポイントをピックアップして行く戦法。ディフェンスも巧妙で、ダメージングブローは、ほとんど食らわない。ドネアが強打を叩き込むチャンスは、それほど多くないように思える。反対に一撃で試合を決めるパンチの威力はサンティアゴにあまり感じられない。

 記事を参照すると、以前もドネアと対戦する可能性はあったようだ。井上第1戦の後あたりだろうか。いずれにしても、27歳のメキシカンの方にフレッシュさ、勢いがあることは否定できない。レコードや試合の印象からパワーはないように見えても、常に上位にランキングされているだけに、ドネアとしても心して取り掛からないと井上戦に続き奈落の底に落ちる結末もあり得る。井上が米国初陣でストップしたアントニオ・ニエベス(米)をサンティアゴは昨年10月、7回TKO勝ちで下している。

昨年ニエベス(左)にTKO勝ちしたサンティアゴ。初戦はドローだった(写真:Esther Lin / SHOWTIME)
昨年ニエベス(左)にTKO勝ちしたサンティアゴ。初戦はドローだった(写真:Esther Lin / SHOWTIME)

40歳ドネアの復活はあるか?

 私はかなりラフな試合展開も予想している。アグレッシブに攻め込もうとするサンティアゴにドネアがフットワークだけで対処できずクリンチを駆使。そこでもみ合いが始まり、クリンチ際でお互いに手を出し合う……そんなシーンが想像できる。その後、立て直したドネアが伝家の宝刀、左フックを振り抜いて曲者サンティアゴを沈めるフィナーレも目に浮かぶのだが……。

 レイチェル夫人とのやり取りを見る限り、余裕しゃくしゃくの雰囲気を漂わせるドネア。それは充実したトレーニングとコンディションの良さの裏付けだろう。ユーチューブ収録日も八重樫東、田口良一など日本人選手との対戦が多い元IBF世界ライトフライ級王者ミラン・メリンド(フィリピン)と8ラウンドのスパーリングを行ったという。フライ級、バンタム級、スーパーバンタム級、フェザー級で世界王者に就いたドネアはサンティアゴに勝てば、2011年のフェルナンド・モンティエル(メキシコ)戦から数えて4度目のバンタム級王座獲得になる。

 レジェンドへの道を歩むドネアが有終の美と認識される勝利で返り咲きに成功するのか? いや、これが最終章だと言い切れないところが彼のキャリアの偉大さと耐久性を象徴している。不死鳥ドネアの底はまだ見えない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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