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井岡一翔、中谷潤人、ロマゴン、エストラーダ。今こそスーパーフライ級WBSSを!

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
4月、山内涼太(左)に圧勝した中谷潤人(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

エストラーダvsロマゴン3は正規王座戦に

 先週末、WBCのマウリシオ・スライマン会長は12月3日、米国アリゾナ州グレンデールで行われるフアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)vsローマン・ゴンサレス(ニカラグア)の第3戦をWBC世界スーパーフライ級王座決定戦として承認すると明言した。これはファンにとってグッドニュースである。両者の実績と人気からスーパーフライ級の頂上決戦と位置づけられるこのカードは、ひょっとしたら“無冠戦”としてゴングが鳴るかもしれなかったからだ。

 前回、昨年3月の第2戦で“ロマゴン”に2-1判定勝ちを収めたエストラーダはWBCとWBAスーパー王座を統一した。しかしロマゴンとの第3戦を優先したい両陣営とWBCの方針によりエストラーダは“フランチャイズ王者”へシフトされ、今年に入りWBAスーパー王座も放棄せざるを得ない状況に追い込まれた。ロマゴン第3戦は実質的に名誉職であるエストラーダのフランチャイズ王座だけが争われる状況だった。これまでのプロセスは自業自得とはいえ、スライマン会長の“鶴の一声”は好意的に受け取られている。

 WBCを動かしたのはスーパーフライ級のフル(正規)チャンピオン、ジェシー・ロドリゲス(米)の決断である。“バム”(強打する)のニックネームを持つロドリゲス(22歳)はタイトルを返上してフライ級に体重を下げ、2階級制覇を目指す決意を表明した。階級を軽いクラスに落とす選手はいるが、軽量級のトップボクサーでは珍しい。それでも彼は今年2月に王座を獲得した時点で、すでに“逆2階級制覇”について公言していた。今回の決断に関しても「115ポンド(S・フライ級)には問題なく落とせる。112ポンド(フライ級)の体重をつくることも難しくない」とアピール。スター候補は自信満々に近未来を語る。

エストラーダ(左)とゴンサレスはみたび対戦する(写真:Matchroom Boxing)
エストラーダ(左)とゴンサレスはみたび対戦する(写真:Matchroom Boxing)

ロドリゲス、中谷が相次いで王座を返上

 そのロドリゲス(17勝11KO無敗)は先週プエルトリコで開催されたWBO年次総会に出席。これは実力評価が高く人気がある王者がベルトを返上した場合、優先的にその選手を転向クラスの1位に抜てきする――というWBOのポリシーに基づいた行動だと思われる。ロドリゲスがWBOフライ級1位にランクされることはほぼ間違いない。そしてWBO世界フライ級王者は中谷潤人(M.T)。中谷vsロドリゲスというフレッシュで魅力的な対決が即実現する?

 だが、中谷(23勝18KO無敗=24歳)も王座を返上。ロドリゲスと入れ替わるようにスーパーフライ級で2階級制覇を狙うことになった。明日、さいたまスーパーアリーナで中谷はフランシスコ・ロドリゲス(メキシコ)と同級進出第1戦を行う。昨年WBO世界スーパーフライ級王者井岡一翔(志成)に挑んで善戦した“チワス”ロドリゲスを相手に中谷のパフォーマンスが注目される。

 ロドリゲス戦で結果を出せば中谷もWBOスーパーフライ級上位にランクされると予測できる。一方、井岡も前回の記事で記したように、大みそかに“バム”ロドリゲスの実兄、WBA世界スーパーフライ級王者ジョシュア・フランコ(米=18勝8KO1敗2分1無効試合)との統一戦が正式決定間近。井岡がフランコを破れば、WBOは中谷との指名試合を通達するかもしれない。ファンのお楽しみは意外と早く訪れる予感も漂う。

南米のマルティネスと3階級制覇王者の田中

 他方で井岡vsフランコの勝者にはIBF同級王者フェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)も食指を動かしている。今月初め前王者ジェルウィン・アンカハス(フィリピン)を返り討ちにして初防衛を果たした“プーマ”マルティネス(15勝8KO無敗=31歳)は「(スーパーフライ級で)イオカは長年無敗をキープするグレートなチャンピオン」とWBO王者を称賛。同じアジア人のアンカハスに連勝した自信なのか井岡攻略にも腕を鳴らす。

 マルティネスは井岡のほかにもロマゴン、エストラーダ、中谷と組み合わせても面白い存在だ。彼のビジネス・マネジャーは2014年にフロイド・メイウェザーと2度名勝負を演じたアルゼンチン人、マルコス“チノ”マイダナ。本人が語るように今が絶頂期で、相手次第で戦法を組み立てる柔軟性も持ち合わせている。

アンカハス(左)に連勝したプーマ・マルティネス(写真:Showtime)
アンカハス(左)に連勝したプーマ・マルティネス(写真:Showtime)

 このゴージャスなラインナップに元3階級制覇チャンピオン田中恒成(畑中)が加わるところがスーパーフライ級の充実度を増幅させる。田中(17勝10KO1敗=27歳)は20年12月、4階級制覇を狙って井岡に挑戦し8回TKO負け。しかし復帰第1戦で常連世界ランカーの石田匠(井岡)に判定勝ち。今年6月の最新戦で橋詰将義(角海老宝石)に5回TKO勝ちでWBOアジア・パシフィック・スーパーフライ級王者に就いた。

 田中は今年、海外トレーニングを志願し、ラスベガスでイスマエル・サラス、ロサンゼルスでフレディ・ローチと名将2人に師事して上達を図った。本人もレベルアップを実感しており、腕前を披露したくてウズウズしている。現在WBOスーパーフライ級1位をはじめ4団体すべてで上位を占める。とりわけWBOは今後、田中、中谷どちらを1位に据えるか非常に興味深い。明日の中谷のロドリゲス戦同様、田中が12月11日、名古屋で行うヤンガ・シッキポ(南アフリカ=WBO5位)との10回戦でどんな結果を残すか大いに注目されるところだ。

7人の侍によるWBSSが観たい

 もちろん、エストラーダvsロマゴン第3戦の勝者が誰と統一戦あるいはビッグマッチを成立させるかもスーパーフライ級戦線を左右する。今のところ、井岡vsフランコの勝者というのが既定路線に思えるが、そこにマルティネス、中谷そして田中が絡む展開も想像可能。来年、この7人がどのようなカードを成立させるか興味が尽きない。

 ちなみに“ネクスト・モンスター”中谷の後釜を狙う“バム”ロドリゲスはWBO総会でWBOフライ級1位の座を認められた。空位の王座は、これまで1位だったクリスチャン・ゴンサレス(メキシコ)と争う見込み。かなり高い確率でロドリゲスが2つ目のベルトを巻くとみる。その後、彼はフライ級の世界王者サニー・エドワーズ(英)、WBC王者フリオ・セサール・マルティネス(メキシコ)との統一戦を視野に入れている。

 いずれも観戦意欲を刺激するカードだが、体が成長期にあるロドリゲスがいつ、スーパーフライ級に戻るか予断を許さない。統一王者や比類なきチャンピオン(4団体統一王者)が誕生すれば、おそらく食指を動かすだろう。その時、同級は平定されているか、あるいは群雄割拠な状況なのか。

 それにしても井岡、中谷、田中の日本人トップにエストラーダ、ロマゴン、“プーマ”マルティネスにいずれロドリゲスが再度加わるであろうスーパーフライ級は何と絢爛豪華なことか。日本絡み、日本同士のビッグマッチが目白押しなことも特筆に値する。今こそWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)のような世界規模のイベントの実現が待たれる。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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