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村田諒太の宿敵を続々撃破した男がついにミドル級王者に。ゴロフキン後継者の見据える先

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
アリムハヌリ対ディグナム(写真:Mikey Williams/Top Rank)

ゴロフキンばりのフィニッシュ

 ラスベガスのリゾーツ・ワールドのイベントセンターで21日(日本時間22日)ゴングが鳴ったWBOミドル級暫定王座決定戦は、ランキング2位ジャニベク・アリムハヌリ(カザフスタン)が3位ダニー・ディグナム(英)に2回2分11秒KO勝ち。アリムハヌリとの指名試合を拒否してスーパーミドル級進出を目論んでいる正規王者デメトゥリアス・アンドラーデ(米)をチェイスするポジションを確保した。同日はアンドラーデが英国でWBOスーパーミドル級暫定王座決定戦に出場する予定だったが練習中に右肩を負傷したためキャンセルされた。

 アリムハヌリvsディグナムはサウスポー対決。初回からアリムハヌリの左強打がディグナムを襲撃。連打を食らった英国人は最後、右フックをもらってマットに横転。レフェリーはカウントを適用する。ここは踏みとどまったディグナムだが、2ラウンド再びアリムハヌリが自信満々、攻勢をかける。左オーバーハンドを浴びせ、左クロスを見舞うとディグナムは一瞬フリーズ。早い結末の予感が漂う。

 フィニッシュは見事だった。利いてロープへ下がった英国人にアリムハヌリが左2発から左アッパーカットをジャストミートすると失神したディグナムは背中から轟沈。レフェリーはノーカウントで試合を止めた。

 鮮やかなKOシーンは同じカザフスタンの先輩王者ゲンナジー・ゴロフキン(現IBF世界ミドル級王者)の全盛期を彷彿させた。戦績を12勝8KO無敗としたアリムハヌリ(29歳)はこれで6連続ストップ勝ち。WBO欧州ミドル級王者の肩書を持つディグナムは初黒星で14勝8KO1敗1分。英国以外で初めて戦ったディグナム(30歳)はキャリア不足を露呈したが、それを差し引いても“カザキ・スタイル”のニックネームを持つアリムハヌリの実力は卓越していた。

ベストパンチは次回までお預け

 プロ12戦目のアリムハヌリだが、アマチュアでは300戦以上のキャリアがあり、2013年の世界選手権ミドル級優勝の実績がある。プロ3戦目から米国を拠点に活動する彼は昨年、ロブ・ブラント(米)、アッサン・エンダム(カメルーン=フランス)と村田諒太(帝拳)と2試合ずつ対戦した元WBA世界王者2人をTKOで破りランキングを上昇させた。アンドラーデの決断次第で今後、正規王者へ昇格する可能性も出て来る。

 リング上の勝利者インタビューでカザフスタンの新しい星は「いいパフォーマンスを披露することを心がけた。でも今回、私のベストパンチをお見せすることはできなかった。それは次の試合までお待ちください」と豪語。ブラント戦、エンダム戦を上回るインパクトを残したものの、勝って当然、もっと骨のある相手と戦いたいと言いたげだった。

 「フー・イズ・ネクスト?」。次回の対戦相手を聞かれたアリムハヌリは即座にWBC王者ジャモール・チャーロ(米)の名前を挙げた。暫定王者に就いたことで自動的にアンドラーデに挑戦できるのだが、一度対戦を拒否された事情も影響してか、彼にとってアンドラーデは「二番手以下」という印象をうかがわせた。トップランク社&ESPN傘下のアリムハヌリとマッチルーム・ボクシング&DAZNと契約するアンドラーデでは締結が難しいという背景もある。だが、それだけアリムハヌリが敬遠されている証拠に思える。

ゴロフキンとの対決の可能性は?

 インタビューで通訳も務めたエギス・クリマス氏はワシル・ロマチェンコやオレクサンドル・ウシク(ともにウクライナ)らのマネジャーを務める業界の重鎮。同氏にサポートされるのは心強い。またトレーナーは殿堂入りしている元ジュニアウェルター級(スーパーライト級)&ウェルター級王者ジェームス“バディ”マクガート氏。同席したマクガート氏は「彼は試合のたびに向上している。最大の理由は学習することに貪欲だからだ」と愛弟子の圧勝に目を細めた。

 バックアップ体制が充実しているアリムハヌリが目標に掲げるのがミドル級の比類なきチャンピオン、4団体統一王者だ。まだ1団体の暫定王者に就いたに過ぎないが、今回のスペクタクルな勝利で一気にブレイクする可能性を秘める。チャーロ、アンドラーデそしてWBAスーパー・IBF統一王者に君臨するのが同胞ゴロフキン。“ビッグドラマ・ショー”と並んで“メキシカンスタイル”をトレードマークにするゴロフキンとの対決は実現するだろうか。今後の展開次第で一気に3団体統一戦となるゴロフキンvsアリムハヌリ。日本のファンも興味深い対決に向けてアリムハヌリは慎重な態度を示す。

 「私の国には『年下の者は年長者を命令できない』という言い伝えがあります。おそらく彼(ゴロフキン)は階級を168ポンド(スーパーミドル級)へ上げるでしょう。私の願望は160ポンド(ミドル級)の全ベルトをまとめることです」

 先輩をリスペクトとすると同時に一途に目標へ突き進む姿勢を強調する。ちなみにゴロフキンも最初に獲得した王座はWBAミドル級暫定王座だった。“カザキ・スタイル”というネーミングは“メキシカンスタイル”を意識したものだろう。ゴロフキンのキャリアと照らし合わせると、あと10年は活躍できそうな予感もする。

大御所アラム氏も絶賛

 いずれにせよ、強豪がしのぎを削るミドル級にアリムハヌリが新風を吹き込んだことは間違いない。チャーロ、アンドラーデ、ゴロフキン……どれもシビれるカードだが、WBOミドル級1位ハイメ・ムンギア(メキシコ)との一騎打ちも観戦意欲を刺激される。クリマス・マネジャーの腕の見せどころは尽きない。

 プロモートするトップランク社の総帥ボブ・アラム・プロモーターは「ジャニベクはミドル級のネクスト・スーパースターだ。今回のセンセーショナルなパフォーマンスにこのクラスの未来を感じる」と手放しで称賛。左利きという違いがあるが、サンダー(稲妻)とも形容される強打は先輩ゴロフキンを想起させる威容に満ちている。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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