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井上尚弥vsノニト・ドネア2が交渉中「相手の裏の裏をかく」ドネアの不退転の決意

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
再戦が待ち遠しい井上vsドネア(写真:YUTAKA / アフロスポーツ)

4月、日本で実現か?

 WBC世界バンタム級王者ノニト・ドネア(フィリピン)が今年の目標にアンディスピューテッド(比類なき)チャンピオンに君臨する――を掲げる。アンディスピューテッドとは4団体統一王者を意味する。最大のターゲットはIBF・WBAスーパー世界バンタム級統一王者井上尚弥(大橋)であり、ひとまず王座安泰となったWBO王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)との対決も再燃して来るだろう。

 2019年11月のWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)決勝以来の再戦となるドネア戦は米国メディアによると4月に日本開催が有力になっているという。井上も比類なきチャンピオンを目標にしているだけにカシメロは避けて通れない相手だが、やはりドネア2の方が現実的に思える。多くのメディアや団体から年間最高試合に選出された初戦の内容はファンの観戦意欲を刺激して止まないものだ。

スーパーフライ級もオプションにあり

 “アンディスピューテッド”に執心するドネアは一方で米国メディアに、バンタム級で井上、カシメロ戦が締結困難になった場合、115ポンドがリミットのスーパーフライ級に落としてベルトを統一することも選択肢にあると発言している。39歳という年齢、しかも軽量級という背景からにわかに信じられないが、「大きな可能性がある」と打ち明け、3月5日に予定されるスーパーフライ級のビッグマッチ、フランシスコ・エストラーダ(メキシコ=WBAスーパー&WBCフランチャイズ王者)vsローマン・ゴンサレス(ニカラグア)第3戦の勝者との対戦をほのめかす。

 ちなみにこれまでフライ級、バンタム級、スーパーバンタム級、フェザー級の4階級で世界王者に就いたドネアは、スーパーフライ級ではWBA暫定王者だった。実現すれば2010年7月以来のウエートとなる。減量に自信を隠せないドネアは「イノウエと対戦した時、実際は(バンタム級2ポンドアンダーの)116ポンドぐらいだった。計量前に水を少し飲み増やしてクリアした(公式ウエートは117.5ポンド)。だから115ポンドに落とすことは問題ないだろう」と明かす。最新試合の昨年12月のレイマート・ガバリョ(フィリピン)戦の時も同様な話をしていた。

ガバリョ(左)に4回KO勝ちを飾ったドネア(写真:Esther Lin / SHOWTIME)
ガバリョ(左)に4回KO勝ちを飾ったドネア(写真:Esther Lin / SHOWTIME)

攻略のカギは策略

 改めてドネアの節制ぶりと自己管理の周到さが浮き彫りになるが、もちろん井上戦を前提としても彼は不退転の決意を強調する。そしてリベンジのキーワードにストラテジー(策略)を挙げる。作戦計画と訳した方が適切かもしれないが、ベテランの醸し出す雰囲気は謀略に近いものを感じさせる。

 「第1戦から“何かを期待する”のレベル向上ではイノウエを攻略できないと認識した。彼のストラテジーの裏をかく、もしそれが機能しないなら、またその裏をかく……」

 同じくドネアは「イノウエの動きやテクニックは相当、頭にインプットされている。でもそれを想定して対処したら、ワナにはまってしまい墓穴を掘ってしまう」と警戒心をつのらせる。

ドネア有利の予想も

 総合力という点では28歳で全盛期に近づいている井上に軍配が上がる。しかし「経験と最近2試合のパフォーマンスを考慮すると再戦はドネア有利の予想が立ってもおかしくない」(ボクシングニュース24ドットコム)という見方もされる。同サイトは「リマッチではドネアがパンチの的中率で上回れば、初戦のように井上が重大な負傷に見舞われる可能性がある。モンスターの冷静さを失わせれば勝つチャンスが広がる」と見ている。これが米国メディア一般の意見だとは言えない。だがパワーが健在で、左フックという決め手を持つドネアは、どこまでも危険な香りを漂わせる。

3月5日に対戦するエストラーダとゴンサレス。これは第2戦(写真:Ed Mulholland/Matchroom Boxing)
3月5日に対戦するエストラーダとゴンサレス。これは第2戦(写真:Ed Mulholland/Matchroom Boxing)

 待ち遠しい井上vsドネア再戦。一方で上記のようにドネアはスーパーフライ級でも比類なき王者を目指している。それもエストラーダvsゴンサレスの勝者に標的を定めていることは注目に値する。計画されている井岡一翔(志成=WBO王者)vsジェルウィン・アンカハス(フィリピン=IBF王者)の勝者と対戦することだってあり得る。ドネアがスーパーフライ級で最後の花を咲かせ、井上がスーパーバンタム級に進出し2人の対決が消滅することだってあるかもしれない。

 他方でドネアがスーパーフライ級に食指を伸ばすのは一種のブラフではないかとも見られる。彼は断固否定するが、「バンタム級が一番、快適なクラス」という言葉に偽りはないと思える。それでもドネアが井上だけではなく、ロマゴンやエストラーダ、そして井岡と対戦するリングを想像するだけでワクワクさせられる。40歳間近で安住の地を見つけた男が比類なきチャンピオンという難題に挑む姿が感動を誘う。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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