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カシメロが王座はく奪なら井上尚弥vsドネアで4団体統一戦 そんな一石二鳥があり得るのか?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ノニト・ドネア・チーム(写真:Sean Michael Ham / PBC)

快勝の井上&ドネア 謎の失態のカシメロ

 井上尚弥(大橋)とノニト・ドネア(フィリピン)。2年前、さいたまスーパーアリーナで対戦し、世界規模の年間最高試合と称賛される激闘を演じた2人。その後ドネアがWBCバンタム級王者に就き、同級WBAスーパー・IBF統一王者の井上とのリマッチがファンの観戦意欲を刺激する。14日にアラン・ディパエン(タイ)に8回TKO勝ちで王座を堅守した井上。その3日前にWBC暫定王者レイマート・ガバリョ(フィリピン)に4回KO勝ちで防衛したドネアとも「第一目標はバンタム級の4団体統一」と明言しており、着々と舞台は整っていると言っていい。

 もう一人、井上のターゲットでもあり、一度消滅した対戦話が再燃する可能性もあるWBO王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)はドネアvsガバリョの同日、UAEのドバイでポール・バトラー(英)との指名試合が予定されたが、急病(胃腸炎)を理由に前日の計量に姿を現さず、試合はキャンセル。この事態に関して業界とメディアは、陣営からサポートを得られなかったカシメロが報酬など悪条件に嫌気がさしたと見ており、その真偽が問われている。

 WBOはカシメロと陣営に対して10日以内にドバイの医療機関が作成する診断書の提出を命じており、拒否すれば王座はく奪となる。そもそもカシメロvsバトラーの開催権利を入札で獲得したのはドネアのプロモーター、リチャード・シェーファー氏。今年夏、新プロモート会社「プロべラム」を立ち上げた人物である。そして入札に参加したのは同社のみ。カシメロのファイトマネーは日本円で900万円程度に抑えられ、最近の試合と比べると極端に低い。うがった見方をすれば、シェーファー氏はカシメロが報酬に不満を示す→試合をキャンセルする→タイトルはく奪と読んで入札に参加したのかもしれない。ただしカシメロ陣営だって参加するかもしれない。カシメロ側が参加しなかったのは私には謎である。

 おそらくカシメロ側のショーン・ギボンズ・プロモーター(マニー・パッキアオ・プロモーションズ社長)はバトラー戦を回避するか後回しにするため、WBOの首脳と掛け合ったと思う。だが、すでにバトラーはWBOから指名挑戦者にノミネートされており、事は思い通りに運ばなかった。それによってギボンズ氏とカシメロが不仲になった……。海外渡航が難しいせいもあっただろうが、ギボンズ氏が米国開催のドネアvsガバリョにアテンドしていたことがカシメロの失態を象徴していた。

暫定王者レイマート・ガバリョ(右)をKOしたドネア(写真:Sean Michael Ham / PBC)
暫定王者レイマート・ガバリョ(右)をKOしたドネア(写真:Sean Michael Ham / PBC)

次で4団体統一戦の可能性

 さて井上vsドネア2に戻ると、次回この対決が実現しても統一されるベルトは3本である。カシメロの王座が安泰、はく奪にかかわらず、井上とドネアにはWBOベルトが不足する。2人の4団体統一ロードは継続することになる。だが、近道、ウルトラCがあると明かしたのがシェーファー氏。ドネアがガバリョを倒した後の記者会見の席だった。

 改めて映像で確認してみると、「我々はWBOがどんな対応をするか凝視しなければならない。もしカシメロの王座をはく奪するなら、ドネアのタイトルとイノウエの持つ2つのベルト、プラス空位のWBO王座を争うチャンスが出てくる」と同氏は語っている。本当に実現するなら一石二鳥、ファンにはこれ以上の朗報はないだろう。

 でもそんなことが可能なのか。まず指名挑戦者のバトラーが黙っていないだろう。カシメロ挑戦が流れ、WBOが認定した暫定王座決定戦出場を拒否したとはいえ、正規王座決定戦が改めて組まれるなら当然、権利を行使するに違いない。相手も2位ルーシー・ウォーレン(米)、3位ジェイソン・マロニー(豪州)、4位ニコライ・ポタポフ(ロシア)……が占め、他団体の王者、井上とドネアが入り込む余地はない。

ビッグネームに弱い承認団体

 ではなぜシェーファー氏は井上とドネアによるWBO王座決定戦が可能だと洩らしたのだろう。

 それはWBOだけでなく、世界タイトル承認団体がビッグネームとビッグマッチ締結に寛容だからである。最大規模を誇るWBCもその傾向が強い。WBAも人気選手や注目選手を優先的に上位にランクする傾向がある。その点IBFは比較的ルールを厳格に押し通す。

 いずれにせよ、シェーファー氏はカシメロが無冠になれば、井上とドネアのネームバリューと実績によって、WBOを動かせると自負しているのではないだろうか。にわかに信じられないが、これまでも1位にランクされながらも有力なプロモーターのサポートがなく、いつの間にかランキングから名前が消えた選手は枚挙にいとまがない。

 ちなみにバトラーはサポートはしっかりしている。しかし問題は実力。元IBFバンタム級王者の肩書があるものの、カシメロが3回TKO勝ちで粉砕した前WBO王者ゾラニ・テテ(南アフリカ)に痛烈なKO負けを喫している。また1位に上昇した地域タイトル戦(今年6月)はメキシコの無名選手に2-1判定勝ちがやっとだった。カシメロが万全のコンディションでリングに上がれば、負ける相手ではなかったはずだ。カシメロが腐ることなく、「この1試合だけだ」と我慢して試合に臨んでいれば、井上とのミリオンダラー・マッチは手の届くところにあった。返す返すもカシメロの行動(もしかしたら本当に不運だったかもしれないが)が悔やまれる。

ドネアの打倒モンスター作戦とは?

 シェーファー氏は魅力的なオファーが届けば、ドネアが115ポンド(スーパーフライ級)に落としてローマン・ゴンサレス(ニカラグア)やフアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)に挑戦することも現実になるという。また122ポンド(スーパーバンタム級)に上げてビッグマッチを成立させる構想もあることを公言した。

勝利ポーズのドネア。後ろがシェーファー氏(写真:Sean Michael Ham /PBC)
勝利ポーズのドネア。後ろがシェーファー氏(写真:Sean Michael Ham /PBC)

 それでも同じ会見でドネア、シェーファー氏は「バンタム級で4つの王座を統一することが現在の最大の目標だ」と強調。それを受けてドネアは井上とのリマッチが決まったら「第1戦とは違った自分を披露したい」と一つのプランを口にした。

 「彼女(レイチェル夫人)から指摘されているのが足の位置。彼(井上)とリングで向かい合ったら、彼のフットワークを無効にしろと言われている。そして素早く彼の上体を見定めてカウンターを決める。イノウエとの初戦ではそれが出来なかった。今回はそれに取り組みたい。イノウエに勝つ最大のカギになるだろう」

 作戦まで明かしたドネア。夫婦一丸で打倒モンスターを目指す。次戦で実現する可能性はシェーファー氏の腕前次第か。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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