14日、米カリフォルニア州カーソンのディグニティ・スポーツパークでゴングが鳴ったWBOバンタム級タイトルマッチはファンの期待に背く凡戦に終始した。挑戦者で前WBAレギュラー王者ギジェルモ・リゴンドウ(キューバ)が徹底してフットワークを使い王者ジョンリール・カシメロ(フィリピン)の仕掛けを回避。あまりの消極戦法に会場はブーイングの嵐に包まれ、テレビ観戦のファンをシラケさせた。結果はカシメロのアグレッシブさが評価され、ジャッジ一人が115-113でリゴンドウを支持したものの、他の2ジャッジは116-112、117-111でカシメロ。2-1判定でカシメロが防衛を果たした。

 会場で取材した筆者のスコアカードは115-113でリゴンドウ。スコア的に序盤はシーソーゲーム、中盤は正確なパンチを当てたリゴンドウが優勢、終盤はまたシーソーゲームという印象を持った。同時に「あの戦い方ではリゴンドウは勝てないな」というのも率直な感想。それでも「とにかく勝ちは勝ち」ということか、ベルトを守ったカシメロは大喜びで、ビッグマウスを連発していた。

メキシコだったら無効試合

 いずれにしても、ファン待望のWBAスーパー・IBF統一バンタム級王者井上尚弥(大橋)vsカシメロというカード実現に前進したことは確かである。カシメロ陣営の動向を探る目的で彼のプロモーター、ショーン・ギボンズ氏(マニー・パッキアオ・プロモーションズ社長)の右腕で業界通のハビエル“グエロ”ヒメネス氏(58歳)にカシメロvsリゴンドウの2日後、話を聞いた。

――あの試合を観た感想は?

ヒメネス氏「何と言ったらいいのだろう。チャカル(リゴンドウのニックネーム)は困ったものだ。あの戦法を取られたらボクシングはルールを変更しなければならない。もしメキシコであんな試合になったら途中でノーコンテスト(無効試合)になるだろう。ブーイングが鳴りやまず、4ラウンドあたりでリングから降ろされる。以前もチャカルはそんなことがあったような気がするけど。彼は35歳あたりから下降線をたどっている」

――ギボンズ氏も不満をぶちまけた……。

ヒメネス氏「怒っていたよ。ボクシングに関わった人生で最悪の試合だったと。相手の勝利と記したジャッジにも不満だったよ。ランニングばかりで虐待されたようなものだったと」

逃げるリゴンドウ、追いかけるカシメロ(写真:Sean Michael Ham)
逃げるリゴンドウ、追いかけるカシメロ(写真:Sean Michael Ham)

カシメロは名将エディ・レイノソ氏に弟子入りか

――次は井上それともドネア?

ヒメネス氏「イノウエだね。すでにサインをしているからね。こちらは日本で開催されても構わないと思っている。ノニト・ドネアの名前が出てきたのはCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)でイノウエ戦がひとまずキャンセルされたためで、我々にはあまり重要ではない。もちろんこちらはアメリカで行われることに越したことはない。PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)のアル・ヘイモンとドネアのプロモーター、ボブ・アラムの交渉となる。まとまれば、おそらく12月頃に行われるだろう」

――井上戦に向けての対策は?

ヒメネス氏「チャカルとの試合で露見したエラーを直すためにカネロ・アルバレスのトレーナー、エディ・レイノソに師事することになる。オスカル・バルデス(WBCフェザー級王者=メキシコ)を6ヵ月間で別人のように変身させタイトルを獲得した手腕を我々は高く評価している」

――今回、試合会場にエディ氏がいました。

ヒメネス氏「ショーンが招待したんだ。正しい判断になると信じている。カシメロはゼロからのスタートとなる。今回の一戦でカシメロはカット・オフ・ザ・リング(相手に逃げ道を与えない戦法)がうまくできなかった。またクリンチ際でアメリカンフットボールのような肉弾戦も求められる。その辺の向上をエディに期待している」

オスカル・バルデスを王者に就かせたレイノソ・トレーナー(写真:Mikey Williams / Top Rank)
オスカル・バルデスを王者に就かせたレイノソ・トレーナー(写真:Mikey Williams / Top Rank)

ディシプリンに欠けたカシメロ

――話が戻りますが、今回カシメロのコンディションはよかった?

ヒメネス氏「去年の9月以来の試合ということで体重が一時ライト級までアップしていた。試合前もリミットを6ポンドぐらいオーバーしていて、スピードに影響した。今回もショーンがラスベガスに用意した家を拠点に調整したけどディシプリンが徹底していなかった。恋人を連れてきたし、兄弟たちも同居していたからね」

――ロサンゼルスでパッキアオのキャンプに同行した話も聞きましたが。

ヒメネス氏「わずかな時期だった。パッキアオもトレーナーのフレディ・ローチも次の試合で忙しいからね。ほとんどラスベガスのホルヘ・カペティーヨのジムで調整した。“クラブ・ジム”という雰囲気でジェシー・マグダレノ、アントニオ・デマルコといった元王者もいるけど、女性や子供の練習生が多い。正直、プロ選手には向かない。そのあたりもエディに託して鍛えてもらいたいと願っている」

防衛に成功したカシメロ。肩車するカペティーヨ氏(写真:Sean Michael Ham)
防衛に成功したカシメロ。肩車するカペティーヨ氏(写真:Sean Michael Ham)

カシメロの自信の源は?

 今回ヒメネス氏には井上が日本のテレビ中継のゲスト解説を務めたことも話題にした。すると「そうか!」と興味深そうな様子。そして「カシメロは左フックを振り回して仕掛ける代わりに右アッパーから入るのが得策かも」という中継中の井上のコメントを伝えると「その通り」と同氏。しかし「カシメロはあのパンチ(左フック)で強敵を倒してきたから、つい頼ってしまった。ただ、もっとコンビネーションを繰り出すべきだったね」と補足した。

――それにしてもカシメロの自信と不敵な態度と発言はどこから出て来るのでしょうか?

ヒメネス氏「やはりこれまで6連続ノックアウト勝ちしていたことだろう。でも平手打ちみたいなパンチを浴びせる相手(リゴンドウ)を最後まで捕まえられなかった。カット・オフ・ザ・リングの重要性を痛感したことだろう。それが一番の反省点」

やはりドーピングの達人は要注意

――最後に、ドネア戦キャンセルの原因とも考えられるコンディショニング・コーチのアンヘル“メモ”エレディア氏はチームに残っているのでしょうか?

ヒメネス氏「まだいるよ。ラスベガスのキャンプにも顔を出していた。カシメロとは主に夜、トレーニングしていた。まあ、評判通りの男だよ。テキサス工科大学で化学を専攻し彼の父も化学を修めた人で、学と血筋がある。でもキャンプでは時間にルーズで、ロードワークを途中で切り上げるなど選手に甘いところがある」

――化学とボクシングを関連づけると、どうしても薬物に結びつきますが……。

ヒメネス氏「彼はある有名なボクサーにステロイド剤の投与を持ちかけたことがあるらしい。私には煙たい存在だね」

 正直、ヒメネス氏は「彼とは関わりたくない」と言っている。「バンタム級はあと2試合」と日本のメディアのインタビューで語った井上。カシメロ戦が締結する場合、彼の陣営としても留意すべき事項の一つに挙げられる。“本当の敵”と言ったら言い過ぎだろうか。