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カネロ・アルバレスは誰と戦う?ゴロフキンとの第3戦も浮上、村田諒太の行方は?

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
カネロ・アルバレス(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

リングの中心カネロ・アルバレス

 「今、ミドル級からライトヘビー級までの選手でカネロ・アルバレスと対戦を望まない者はいない」

 こう語るのはリング誌など米国の複数のメディアに執筆するマイケル・ウッズ氏だ。当代一の人気を誇り、世界最強の肩書であるパウンド・フォー・パウンド・ナンバーワンと見なされるサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)とグローブを交えることは確かに魅力的な報酬に直結する。「カネロと戦った相手」という設定で浴びる注目度も大きい。昨年フリーエージェントを宣言して以来すでに3度リングに上がっているカネロが今後もコンスタントに試合をこなす姿勢を見せていることも対戦候補を刺激してやまない。

 現在、スーパーミドル級で全ベルト統一に邁進するカネロはWBAスーパー・WBC・WBO王者で、9月、IBF王者カレブ・プラント(米)とメジャー4団体統一戦に臨むことが有力となっている。来週にも正式発表と伝えるメディアもある。テクニックに定評があるプラントはカネロがスーパーミドル級に正式に転向して対戦したカラム・スミス(英)、アブニ・イルディリム(トルコ)、ビリー・ジョー・サンダース(英)よりもカネロを苦しめるのではないかと推測される。だが、これまでの対戦者をチェックするとカネロ優位は不動だと思われる。

ロシアの熊ベテルビエフ

 いずれにせよ、ソーシャルメディアでVIPとのゴルフ三昧の映像が流れるカネロが次戦に向けて始動するのは間近だろう。ここに来て相手はプラントが本命ながら、注目に値するビッグネームとの対戦がクローズアップされている。中でもWBC・IBF統一ライトヘビー級王者アルツール・ベテルビエフ(ロシア)は全階級を通じてもファンの観戦意欲を高揚させる屈指のカードだ。

 プロデビュー後16勝16KO無敗のベテルビエフは、そのレコードが示すように無類のパワーの持ち主。のっしのっしと相手に圧力をかけながら自慢のパンチを繰り出す。上記のウッズ氏は「ロシアの熊」と記すが、言い得て妙である。それでもアマチュア時代、連続してロシアのオリンピック代表選手になったようにスキルもそつが無い。どこまでも危険な匂いを漂わせる。

 「カレブ・プラントが対戦に応じなければ」という設定でベテルビエフを推すのが、エディ・ハーン・プロモーター(マッチルーム・ボクシング)だ。「もうカネロは160ポンド(ミドル級)に戻ることはないだろう。168ポンド(スーパーミドル級)でタイトル戦が決まらなければ、彼は上(ライトヘビー級)へ再度進行すると思う。チャンピオンたちも充実している」とハーン氏。自身が推進役を務めるストリーミング配信DAZNの番組で明かしたもので、2019年11月のセルゲイ・コバレフ(ロシア=当時WBO王者)挑戦に続くカネロの“冒険”をほのめかす。

 ハーン氏にはディミトリ・ビボル(ロシア=WBAライトヘビー級スーパー王者)が傘下にいる。しかし安定感は抜群だが、最近のパフォーマンスは「退屈な」という形容が当てはまる。ボクシングのセオリー「(両者の)スタイルが試合をつくる」からもベテルビエフがイチオシと言える。「ファンが好むチャレンジのような試合をしたい」というカネロのポリシーからもベテルビエフは格好の相手ではないだろうか。

カネロが敬遠し続けるチャーロ兄

 「私はミドル級だけどスーパーミドル級でもライトヘビー級でもクルーザー級でも……どこまでもカネロを追いかける」

 威勢よく語るのがWBC世界ミドル級王者ジャモール・チャーロ(米)。実弟のスーパーウェルター級3団体王者ジャメール・チャーロ(米)と「最強ツイン」と呼ばれるチャーロは「強いゆえにカネロに敬遠されている」と言われて久しい。カネロがスーパーミドル級へ舵を取ったため、ますます念願から遠のいてしまった印象もする。とはいえ、まだ31歳と若く、スーパーミドル級転向を決意すれば試合成立の可能性が増す。

 チャーロ(32勝22KO無敗)はフアン・マシアス・モンティエル(メキシコ)との最新の防衛戦で大差の判定勝利を収めたものの、ストップ勝ちは必至と予想された相手を仕留めることができなかった。終盤、反撃に手こずる場面も見られた。それでも鋼のようなボディーから放つパンチはパワフルで手数も多い。ミドル級とスーパーミドル級の体重差は8ポンド(約3.6キログラム)。ナチュラルウエートとなったカネロとのギャップを克服できれば番狂わせの確率が高まる。イベントの規模も全米の知名度からチャーロの方がプラントよりもビッグなものとなるだろう。

ゴロフキンとの第3戦は実現するのか?

 カネロと並んでチャーロが標的に据えるのが、ミドル級オールタイム・グレートの一人に名を連ねるであろうゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)だ。現在IBF王者のゴロフキンはチャーロ同様「スーパーミドル級に上がる」という条件でカネロが対戦候補の中に入れている。実現すれば第3戦。これまでと同じく対戦をより希望しているのはゴロフキンの方。カネロは「素通りしてもいい」あるいは「もう決着は着けた」というスタンスだ。

 それでも両者の第1戦のドローは限りなくゴロフキン優勢に思えたし、第2戦のマジョリティー・デシジョン(2-0)でカネロの勝ちも判定がどちらに転んでも不思議ではなかったように感じられた。たとえゴロフキンが階級を上げるハンディを強いられるにしてもファンにとって「カネロvsGGG(ゴロフキンのニックネーム)3」はスルーできない垂涎カード。後回しにしているカネロは「逃げている」と指摘されても反論できまい。

 カネロはゴロフキンとの2戦の後、最強ボクサーの称号が定着したようにすべてがグレードアップした。そのカネロと三たび対戦できればゴロフキンのモチベーションがマックスに達することは間違いない。アンチファンも少なくないカネロに対してゴロフキンのファンは世界中にくまなく分布している。彼らがGGGに期待しているのは、その執念だ。

最新試合でカミル・シェルメタを一蹴したゴロフキン(写真:Melina Pizano/Matchroom Boxing)
最新試合でカミル・シェルメタを一蹴したゴロフキン(写真:Melina Pizano/Matchroom Boxing)

ゴロフキン戦実現とアップセットの期待

 他方でゴロフキンには年末、日本でWBAミドル級スーパー王者村田諒太(帝拳)と対戦する噂が聞かれる。超大物同士の統一戦。実現すれば日本ボクシング史上、有数のビッグマッチとなる。5月に防衛戦の予定があった村田だが、コロナパンデミックの影響で中止となった。ゴロフキンと戦うなら1試合はさみたいところだろう。

 ちなみに最近のニュースでカネロはPBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)から3試合のパッケージ契約をオファーされたという。第1戦がプラント戦で、第3戦がゴロフキンということだ。そのペースで進めばゴロフキンとの第3戦は来年ということになるか。ただしカネロの最近3試合をプロモートしたハーン氏はPBCのオファーを拒否すると話している。

 ハーン氏とPBCの関係は今後の成り行きに任せるとして、村田がゴロフキンとの大勝負を制すれば、2団体統一王者として来年、カネロとの一騎打ちに前進するルートが拓かれる。その時カネロはスーパーミドル級リミットの試合を強要するだろうが、その価値は無限大。もちろんゴロフキンという要塞を攻略することは「至難の業」という言葉ではうまく表現できないほど難しい。それでも世紀のアップセットを実現した村田がカネロ戦へ突き進む姿を想像したくなる。ボクシングの魅力に引きずり込まれる理由がそこにある。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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