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「炎上系」YouTuberボクサーは救世主か。メイウェザー戦を目論むポール兄弟の狙い

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
延期となったメイウェザーvsローガン・ポール(写真:Fanmio)

ローガン&ジェイクのポール兄弟

 元パウンド・フォー・パウンド・キング、フロイド・メイウェザー(43歳)が人気ユーチューバーボクサー、ポール兄弟の兄ローガン・ポール(25歳)とエキシビションマッチを行うニュースが伝わってから2ヵ月。しかし今月20日に挙行される予定だったカードはひとまず中止となった。金の亡者を自認する“マネー”メイウェザーの「楽して儲ける」路線がとん挫したと思っていたら、ポールが「あくまで延期。新スケジュールは近々アナウンスされる」とメディアに通達している。

 ローガンの弟ジェイク・ポール(24歳)は昨年11月ロサンゼルスで行われたマイク・タイソンvsロイ・ジョーンズ・ジュニアのエキシビションのアンダーカードに出場。元プロバスケットボール選手で、NBAのスラムダンク・コンテストで3度優勝したネート・ロビンソンにKO勝ちを飾った。デビュー戦で同じユーチューバーを倒しているジェイクは2勝2KO無敗。4月17日にMMA(総合格闘技)選手のベン・アスクレンとボクシング試合を行うことが決まっている。

実力はジェイクが上

 ジェイクは兄がメイウェザーとエキシビションを行った後、今年中にメイウェザーと公式試合を実現させると息巻いている。昨年からジェイクをコーチする元クルーザー級世界ランカー、BJ・フローレスは「ジェイクとローガンは全く違う。ローガンはよりショーマンでテレビマン的な男。一方ジェイクはよりボクサーの気質があり優秀。兄よりもボクシングにシリアスに取り組んでいる」とESPNドットコムの取材で答えている。その辺が対メイウェザーでエキシビションと公式試合の違いに表れているのだろう。

 だが、いずれにしてもこの兄弟のナチュラルウエートはクルーザー級。90キロに近い。ウェルター級からスーパーウェルター級(約67キロから70キロ)でリングに上がるメイウェザーとは体重差が大き過ぎる。実現に向かうと、おそらく会場はアメリカ国内になる。試合を管轄する各州コミッションは、すんなりと許可を与えないに違いない。またエキシビションにしてもデビュー戦で同じくユーチューバーのKS1(本名オラジデ・ウィリアムス・オラトゥンジ)に判定負けで0勝1敗のローガンでは格差があり過ぎる。

勝利の雄叫びを上げるジェイク・ポール(写真:BoxingScene.com)
勝利の雄叫びを上げるジェイク・ポール(写真:BoxingScene.com)

若年層に絶大な人気

 どうして、こうもポール兄弟がもてはやされているのか?

 それは彼らがユーチューブや他のソーシャルメディアで発信する動画が子供や青年層に絶大な人気を呼んでいるからである。私はよく見ていないが、知り合いの家族に聞くと「とにかくおもしろい」と言う。アメリカの小学生低学年から大学生あたりまでの男女に2人は大ウケ。再生回数2000万回以上などというものもある。以前ケーブルTVの番組に出演したことも人気に拍車をかけた。

 名前が広く浸透した兄弟が更なる活動の場に求めたのがボクシングだった。高校時代にレスリングで活躍したらしいから格闘技の素地はあったのだろう。それにしても戦績2戦やまだ未勝利の段階で天下のメイウェザーに挑もうとする図太さには恐れ入る。もちろんAサイド(主役)はメイウェザーにしてもバナーには堂々と“マネー”と同じサイズの写真が載る。「ボクシングは収益アップのために彼らを必要としている、救世主ではないか」という声さえ一部で上がっている。

タイソン氏も絶賛

 タイソン氏はジョーンズとグローブを交えた後こう吐露している。「現実を語れば彼らはすごくボクシングに貢献している。ボクシングは彼らのおかげでもっている。ユーチューバーの男たちをリスペクトしよう。彼らはボクシングに生気を与えている」

 タイソンvsジョーンズのPPV(ペイ・パー・ビュー)購買件数が160万件(一説には190万件)まで伸びたのはジェイク・ポールが登場したのが大きかったといわれる。データでは購入者は今回初めてPPVを契約した人や普段、格闘技イベントのPPV中継に関心がない人の割合が大きかった。彼は晴れ舞台で人気を実証した。

 ジェイク自身は「ボクシングをもっと有名にしたい、成長させたい、(業界の)人々を成功させたいと私は願っている」とインタビューで答えている。また「彼はボクサーとして名声を博したい、レベルを向上させたいといったことに特に関心を抱いていない。代わりにソーシャルメディアの支持者を莫大に増やすアトラクションとしてボクシングを捉えている」(ESPNドットコム)という指摘もある。

 これは日々ジムで汗を流し明日の世界チャンピオンを夢見るボクサーと比較するとあまり真摯な態度とは言えない。だが、好意的に見ればボクシング界全体のことを真剣に考えていると理解できる。「ポール兄弟がボクシング興行に革命を起こす!」という見出しを掲げる記事も見受けられる。ただ業界の多くの人間は「そこまでドラマチックには変わらないだろう」(ベテランプロモーター)と見ている。それにジェイクが行う格闘技家との試合は「ボクシングが食い物にされる」と批判の声が起こって当然だろう。

2戦目で元バスケットボール選手ロビンソンをKOしたジェイク・ポール(写真:Joe Scarnici)
2戦目で元バスケットボール選手ロビンソンをKOしたジェイク・ポール(写真:Joe Scarnici)

メイウェザーと折半の報酬を要求

 格闘技家とのボクシング試合はメイウェザーが得意とするフィールドだが、ポール兄弟とりわけジェイクが今後その分野に乗り出しそうな予感もうかがえる。現にジェイクは2017年にメイウェザーと対戦したUFCのスター選手コナー・マクレガーとのボクシング試合を希望していた。実現すればメイウェザーvsマニー・パッキアオ、メイウェザーvsマクレガーとそれまでのPPV購買件数を大幅に塗り替えた2試合をさらに超えるレコードが達成できると吹聴していた。

 ローガンも負けずにエキシビションながらメイウェザー戦はPPVレコードが上記2試合を抜くと豪語。大した心臓の持ち主である。そして「レコードブックにカウントされる本当の試合がしたい」というジェイクはメイウェザー戦で50-50の報酬を要求。マクレガーでもメイウェザーの約3分の1だったから、いくらなんでもそれは強欲すぎる気がする。“マネー”も若僧になめられたものである。

 これまでユーチューバーとしてたっぷり稼いでいるはずだが、ボクシング転向はやはりビッグマネー目当てか。徐々にはびこって来るところは悪性のウイルスのようだ。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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