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新格闘技イベント参戦をベンチャービジネスと位置づけるフロイド・メイウェザーの本気度

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
2017年マクレガーにTKO勝ちしたメイウェザー(写真:ロイター/アフロ)

デカいことを成し遂げる

 ボクシング元5階級制覇王者フロイド“マネー”メイウェザー(米=43歳)が再び日本のリングに上がる運びとなった。来年2月28日、東京ドームで予定される新格闘技イベント「MEGA2021」に出場すると発表された。前回2018年の大みそかにさいたまスーパーアリーナで行われた那須川天心戦と同じくエキシビションマッチになる。

 このニュースは5日ほど前に米国でも流れたが、伝えるメディアは少ない。またスケジュールを2月28日と記すところは多くなく、イベントの内容も詳しく報じられていない。ただ「那須川との試合のようになるだろう」としか触れられていない。少なくともボクシングファンの間ではメイウェザーがどうしようと関係ない、興味が薄らいでいるのが現状だ。

 とはいえ、まだまだ彼は存在感を放っている。今回、メイウェザーは自称2410万件のフォロワーがあるインスタグラムを通じて「2021年、私は東京・日本へカムバックする。来年は日本でオリンピックが開催されるけど、私フロイド“マネー”メイウェザーとチームは東京ドームで大きなことを成し遂げる。どうか話を信用してほしい。今は準備の最中」と発信。抽象的な表現ながら意欲満々の姿勢をアピールした。

ジムで特訓中

 それ以前にメイウェザーは「テンシン・ナスカワとのエキシビションの勝利は一度限りのディールではない。それは日本でのベンチャービジネスの先駆けとなった」と明かしている。日本へ舞い戻ることは既定事実だったのだ。ちなみにディールとは取引のことだが、もっと直接的に言えば商売のこと。さすが“マネー”を名乗る男はソツがない。

 彼は本来なら今年のもっと早い時期に日本あるいはファーイースト(極東)でファイトしたかったとも言っている。コロナパンデミックで望みは叶わなかったが、常に自分を売り込む姿勢を崩さなかった。最近ラスベガスにある自身が運営するジムでトレーニングする姿がSNSで発信されている。それは現役時代と変わらないハードなものだと伝えるメディアもある。

WBCライト級王者デビン・ヘイニー(右)とジムで汗を流す(写真:Mayweather Promotions)
WBCライト級王者デビン・ヘイニー(右)とジムで汗を流す(写真:Mayweather Promotions)

パッキアオとデイビスが刺激に

 メイウェザーは膨大な収益を上げた2017年のUFCのスター選手コナー・マクレガーとの再戦を目論んでいたが、コロナ状況下では高い単価を設定したPPV(ペイ・パー・ビュー)イベントの開催は難しく断念せざるを得なかった。同じくボクシングマッチを希望していたUFC最強とも評価されるハビブ・ヌルマゴメドフ(ロシア)との対戦もヌルマゴメドフが10月、引退をアナウンスしたことでひとまず消滅した。その見返りに日本のマーケットに執心しているとも噂される。それが事実なら今後もかなりの回数、日本のリングに登場しなければならないだろう。

 一説にはマクレガーとマニー・パッキアオとのボクシングマッチが具体化することをけん制する目的で、アクティブに活動したいと決心したといわれる。パッキアオvsマクレガーに対して彼は嫉妬に近い感情を持っているとも推測される。また彼がメイウェザー・プロモーションズのエース格として売り出すジャーボンタ・デイビス(WBA世界ライト級スーパー&同スーパーフェザー級スーパー王者)が最新のレオ・サンタクルス戦でスペクタクルなKO勝ちを演じスターの扉を開いたことで、彼の自尊心が刺激されたとも噂される。愛弟子の快挙が「俺だってまだやれる!」という気持ちにさせたとみる。(下は参考記事)

「バカげたスーパーファイト」と揶揄されるパッキアオvsマクレガーが実現に向かう理由

 だがメイウェザーがいかに躍起になっても設定はしょせんエキシビションである。彼のポリシー、ローリスク・ハイリターン、イージーマネー(苦労せずに稼ぐ)が前提にある。数ヵ月前、こちら米国で話題となったユーチューバーとの対戦はさすがになさそうだが、ボクシング側の見る目は相変わらず「茶番劇、笑劇」の範ちゅうを出ない。ボクシングファンが一縷の望みを託すウェルター級周辺の現役の強豪たちとの対戦はもはや夢物語となってしまった。

タイソンvsダグラスから31年

 1日置いてチェックしてみると、メイウェザーの日本再上陸を報道するメディアはかなり増えている。日付も2月28日と明記しているし、イベント名も「MEGA2021」と記されている。そしてあのマイク・タイソンが2度戦ったスタジアム、東京ドームに登場することがオールドファンの関心を集めているようだ。世紀の大番狂わせといわれたジェームズ・バスター・ダグラス戦からちょうど31年になる。

 話は変わるが、メイウェザーが2007年に対戦した元6階級制覇王者オスカー・デラホーヤ氏(ゴールデンボーイ・プロモーションズCEO兼会長)が現役カムバックを画策している。相手にメイウェザーと2014年に2度戦ったスラッガー、マルコス・マイダナ(アルゼンチン)の名が挙がる。デラホーヤ氏、マイダナはメイウェザーに微妙な判定負けを喫した同士。マイダナは最終戦となったメイウェザーとの第2戦から6年あまりリングから離れている。もしメイウェザーが純粋なボクシング試合でカムバックするなら、せめてマイダナクラスの選手を相手にしてほしい――と望むファンは多い。それが実現しないところが彼らからそっぽを向かれる理由につながる。

 東京ドームのイベントは格闘技の大会だけにキックボクサー、総合格闘技家が相手を務めるだろう。それともアッと驚く意外な名前が登場するのだろうか。最新情報では総合格闘技家の朝倉未来(トライホース赤坂)が最有力候補だという。コロナ危機でどれくらい観客の入場が許されるのか定かではないが、ビジネスチャンスに執着するメイウェザーの感覚は鋭い。パッキアオ戦、マクレガー戦で常軌を逸する金額を稼ぎだした男がアスリート長者番付トップに君臨する日が再び訪れるかもしれない。ジャパンマネーとともに……。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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