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井上尚弥は別次元の衝撃をドネアに与える?海外の識者が占うWBSS決勝

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
試合発表で顔を合わせた井上とドネア(写真:ボクシング・ビート)

 いよいよWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)バンタム級決勝、井上尚弥(大橋)vsノニト・ドネア(フィリピン)が間近に迫ってきた(11月7日さいたまスーパーアリーナ)。最近3試合を1、1、2ラウンドで終えている井上と36歳という年齢からピークは過ぎていると認識されるドネア。勝敗予想は“モンスター”井上に大きく傾いているが、“フィリピーノ・フラッシュ”ドネアの強打はサプライズを起こす可能性を秘める。

 戦慄のパフォーマンスで知名度と評価を高めている井上。将来ボクシング殿堂入りが有力視されるドネア。この対決は海外のファンの間でも垂涎カードとなっている。旧知のラテンの有識者たちを直撃し試合展開と予想を語ってもらった。

モンスターは別次元の選手

 最初はメキシコのスーパースター、カネロ・アルバレスのメイン・トレーナー、エディ・レイノソ氏(42歳)。父ホセ“チャポ”レイノソとカネロをスターダムに押し上げた功労者。独学でトレーナーの腕前を上げ、チャンピオン級から指導を仰がれる。2018年WBCトレーナー賞を受賞。チャチャイ・チオノイや花形進と対戦したエフレン“アラクラン”トーレスの娘さんを妻としている。

「試合は多くの人が思うほど(井上に)簡単ではない。ドネアは経験豊富でカウンターという武器がある。井上はボクシング界のモンスターだけど経験が不足していると思う。非常にいい試合となり、井上が勝つと思うけど最近の彼の試合のようには行かないだろう。ドネアが勝つためにはスピードと運動量を駆使してカウンターを決めること。以前見せつけたパンチャーぶりを発揮すれば、ドネアは序盤のラウンド、非常に危険な試合を井上に強いるだろう。

 でも最後は井上の若さと勢いが勝負を決するに違いない。4,5ラウンドあたりから試合を支配し決着をつけると見る。繰り返すけど、みんなが予想するほど簡単ではないよ」

カネロ・アルバレス(左)のエディ・レイノソ・トレーナー(写真:筆者)
カネロ・アルバレス(左)のエディ・レイノソ・トレーナー(写真:筆者)

 続いてスポーツ専門テレビESPNで実況、インタビュアーとして活躍するベルナルド・オスナ氏。英語とスペイン語のバイリンガルで以前BWAA(全米ボクシング記者協会)から表彰された業績もあるメキシコ系。

「うぉー。ものすごいファイトが待っている。でもモンスターは別のレベル。私はドネアが残した功績を非常に評価している。なぜならいくつかの敗戦の後、キャリアを立て直し、再びよみがえったから。でも我々は井上のパンチ力、ボクシング(の才能)、勢いを無視することはできない。彼は絶頂期にあり、なぜモンスターと呼ばれるかを見せつけ、ドネアを痛めつけるだろう。

 もちろんドネアにもチャンスはある。ボクサーとしての経験、特にキャリアを再興し別の段階にシフトしたことは大きい。フットワークも健在だ。でも井上は存在が大き過ぎる。今の階級で敵う者はいない。おそらくドネアの経験が試合を長引かせるだろうが、7,8ラウンド周辺で幕が降りると思う」

ナチョ「5、6回で終わる」

 次にメキシコの重鎮、イグナシオ“ナチョ”ベリスタイン・マネジャー兼トレーナーをキャッチ。以前筆者のインタビューで「井上に勝てるのは井上本人だけ」と断言した同氏。ドネアは何ラウンドまで持つ?

「ハポネス(井上)はパンチ力が半端でない。KO決着、説得力のある勝利を飾るだろう。私は5,6ラウンドで終了すると思うね。

 それまでフィリピーノ(ドネア)は耐えると想像するけど、彼は負けが込んだ時期からアゴに不安を抱えているように感じられる。ドネアはアウトボクシングとカウンターに活路を求めたい。だけど井上は常に万全のコンディションで試合に臨むから勝利は固い」

世界王者レイ・バルガス(左)を擁するベリスタイン氏(写真:GBP)
世界王者レイ・バルガス(左)を擁するベリスタイン氏(写真:GBP)

 続いてプエルトリコの「プリメラ・オラ」紙のボクシング担当カルロス・ゴンサレス記者。同記者には井上vsエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)の時、取材をサポートしてもらい、ボクシング・ビート誌に記事を書いてもらった。

「ドネアは広範なキャリアを誇る、多芸なボクサーだ。何戦か負けを喫した後、キャリアを立て直した実績もある。彼のボクシングは対戦相手の長所を消し取ることにある。しかし彼の全盛期は過去のものとなった。その点、井上は現在、未来の選手だ。

 井上はハードパンチャーでハンドスピードもある。井上がドネアを出だしから攻め立てることに成功すれば、ノックアウトで決まるだろう。ただし試合が長引けば、井上はどんな対処をするだろうか。私はそのへんに注目したい」

井上が歴代日本人最強だ

 そしてロサンゼルスのトレーナー兼カットマンのルディ・エルナンデス氏(57歳)。元世界スーパーフェザー級王者ヘナロ“チカニート”エルナンデスの長兄で、海を越えて修行にやって来る日本選手のコーチとしても定評がある。

「かつてのドネアがそうだったように井上はスペシャルなボクサー。現在、絶頂期にあると思う。すべての人を納得させるかたちで勝つに違いない」

 最後に村田諒太と2度グローブを交えたアッサン・エンダムを指導したキューバ人トレーナー、ペドロ・ディアス氏。マイアミに電話すると、いつも通り熱弁を聞かせた。

「今、世界一のボクサーは井上だといっても過言ではないよ。技術、パワーが完ぺき。軽量級のパウンド・フォー・パウンド・ナンバーワンだと信じている。だからドネアにはチャンスはない。いい実績を持っているけどピークは2012年頃じゃなかったかな。ただしボクシングにはどんな可能性もあるから、ドネアがトーナメント初戦(ライアン・バーネット戦)のように負傷などが原因で勝つこともあるだろう。

 井上の強さの秘訣は実力はもちろん、いいプロモーター、トレーナーと素晴らしいチームに支えられている事実が見逃せない。日本の選手は勇敢な戦士の資質を持って戦う。何人もの優秀なチャンピオンを誕生させた国で私は井上を歴代最強の選手に挙げたい」

中国人シュ・ツァンを世界王者に導いたディアス・コーチ(左=写真:GBP)
中国人シュ・ツァンを世界王者に導いたディアス・コーチ(左=写真:GBP)

 彼らの口から何度も全盛期、ピークという言葉が聞かれたが、井上の頂点はまだ先にあるのかもしれない。何ともすごいことだ。最高の相手を前にモンスターは今回どんな衝撃を与えてくれるだろうか。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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