「俺の仕事じゃない」と断固拒否の講師、京都では失踪未遂 英語とプログラミングを同時に教える学塾の6年
水泳や体操、塾にピアノ――。習い事の傍ら、遊ぶ時間を確保しつつ、はやりのアニメやマンガの話題にもしっかりついていきたい。さまざまなコンテンツを効率よく学習・吸収するパフォーマンスが求められ、時間に追われる現代の子どもたち。少しでも時短ができるように子ども、そして親は必死な時代だ。
そうした中、人気の習い事である「英語」と「プログラミング」が同時に学べる塾が人気を集めている。
その1つ、「IT KiDS」で教える講師はさまざまなバックグラウンドを持つ外国人で国際色豊かだ。ビザの要件に伴う継続的な就労の難しさに加え、カルチャーギャップから来るトラブルは絶えない。「ビラ配りは断固拒否」、「出張先では一時失踪」と講師陣が織り成す珍道中の後日談とともに、運営ノウハウが溜まってきた。
今も文化の壁、価値観の違いなどからハプニングは絶えないが、通う子どもや親からは好評だ。
シャイだったあの子も変化
「OK! グッジョブ」。外国人講師の明るく流ちょうな英語が響く「IT KiDS吉祥寺教室」(東京都武蔵野市)。主に小学生を対象とし、プログラミングの仕組みについて英語を交えて教えている。
プログラミングが2020年度から小学校で必修化されて以降、「早くからプログラミングに親しんでもらおう、プログラミング思考なるものを身に付けてもらおう」と親の教育熱はますます高まっている。
レゴブロックを使ったり、独自のソフトを開発したりして、工夫を凝らしたプログラミング教室は増えている。ただ、IT KiDSのように英語も同時に学べる教室はそう多くない。
数少ないうちの1つ、「リトルハッカー」は日本、シンガポール、カナダの3カ国で教室を展開している。「国をまたいだプログラミング・コンテストの開催やプレゼンテーションなど、世界に開かれた教育の機会」を提供すると謳っている。
英語と相性の良いプログラミングを同時に学ぶことにより、(プログラミングと親和性の高い英語で取り組むことで)「効率の良い学習を行う」と訴求している。
プログラミングと同様、英語も2020年度に小学校で必修化された。そうした背景から、英語/英会話、プログラミングともに、子どもにさせたい習い事の上位にランクインするようになっている。
累計300人、先生は多国籍で多士済々
IT KiDSは武蔵野市や調布市など東京都内で教室を運営している。
2017年に事業を始め、受講生は累計300人に上る。小学生から通い始め、ファミコンゲーム「グラディウス」のようなシューティングゲームを制作できるレベルにまで熟達する子も多い。
受講者はまず、プログラミングの初歩が学べる「スクラッチ」から始めるのが一般的だ。その後、習熟度に合わせて検定を受けたり、より高度なPythonのコードを書いたりとレベルアップしていく。
講師陣はバイリンガル、トリリンガルの外国人。国籍は米国やイタリア、オーストラリア、インド、ベトナム、ミャンマー、韓国、中国など多彩だ。
保護者からは、人見知りや恥ずかしがりだった子どもたちが、国際色豊かな講師陣と交わる中で打ち解け、元気に挨拶する外交的な性格に変わったなど、好評を得ている。
異文化の壁
ただ、外国人を雇うことは容易でない。
まずはビザの問題だ。留学生がアルバイトとして働く場合、「資格外活動許可」を国から得る必要がある。
留学生はあくまで学業が本分であるため、一定期間で帰国してしまうこともしばしばだ。ようやく仲良くなれたと思ったころに本国へ帰ってしまい、「もう会えない」と残念がる生徒は少なくないようだ。
そうした寂しい思いをさせまいと、ITKiDSは外国人講師らができるだけ長く日本に居られるよう手助けをする。スタッフがビザの手続きに連れ添い、サポートを惜しまない。ビザを取得後に辞めてしまうケースもあるが、恩に着て続けてくれる外国人も多いという。
上首尾にビザが取れても御の字ではない。最大の難関はやはり「文化の壁」、文化や慣習の違いからくるギャップだ。
たとえば、イベント後に片付けや掃除をしようとあるスタッフに呼び掛けると、「海外では掃除をしてくれる人がいる。その人の仕事を奪うわけにはいかない」と“屁理屈”をこね、「講師以外の仕事はしない」と頑なだったそうだ。採用時に取り交わされる「ジョブディスクリプション(詳しい職務内容の記述書)」に示された、「決められた仕事」しかしないというスタンスは強いという。チラシ配りなどもやりたがらない。
出張先でも、仕事とプライベートを厳密に分け、出張先での仕事が終わったら好きに出掛け、連絡がつかずに失踪扱いになりかけた人もいる。「良くも悪くも個人主義で、日本人的でない」
国際理解の大切さ
「日本人の常識」とぶつかり合う「外国人の常識」。それに対し、IT KiDS代表の立石大介さんは、苦笑いはしつつも決して動じない。
立石さん自身、親が日本語の教師をしていた関係で、さまざまな国の人が家に出入りする環境で育った。そうした経験から、異文化に触れることで養われる多文化に対する理解力の大切さを身に染みて感じている。
IT KiDSの活動は6年を迎える。
地元密着を社是とし、地域に親しまれる教室を目指している。教室の1つがある調布市では地元の名刹・深大寺とのつながりもできた。普段は入れない深大寺の中で火起こしをするなど子どもたちにも好評だった。地道な活動が実を結び、京都府の小学校からも出張授業の声が掛かるなど、活動の幅を広げている。
立石さんは「英語とプログラミングは小学生にとってもはや避けては通れない。子どもたちには国際理解の大切さを学んでもらいつつ、『家庭内SE(システムエンジニア)』として活躍してほしい」と語った。