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北九州市とデンマーク、再エネとデジタルで覚書 エネルギー自給率700%の島がある国の強みとは?

南龍太記者
風力発電風車 福岡県北九州市(写真:イメージマート)

 デンマークの大使館と北九州市は先月、環境・エネルギーやデジタルの分野で協力していく覚書を結んだ。北九州市はデンマークが得意とする風力発電などのノウハウを吸収し、再生可能エネルギーの普及などに生かす。デンマークの先進的なITの知見も取り入れたい考えだ。

SDGsのまちづくり

 先月25日、東京・渋谷にある駐日デンマーク大使館・大使公邸でタクソ・イェンセン大使と北橋健治北九州市長が、「SDGsの目指す持続可能なまちづくりの推進」に向け、覚書を締結した。下記の各項目に沿って、両者間での技術、知見、経験に関する情報交換や発信、産業活動の推進に取り組む。

(1)目的:デジタル化、環境、エネルギー等の分野における技術、知識及び経験の相互共有・交換により、双方の発展に寄与すること

(2)協力・連携事項:

 ア 双方の技術、知識及び経験に関する情報の共有・交換に関する事項

 イ 双方における経済的及び産業的活動の促進に関する事項

 ウ その他上記の目的を達成するために必要と認められる事項

(3)共同行動計画:デジタル化、洋上風力発電分野等における活動について協議し、合意に至った内容を明記した共同行動計画を採択

締結式の様子(22年10月25日)
締結式の様子(22年10月25日)

デンマークの強み① エネルギー自給率

 デンマークは1980年代当初、エネルギー自給率がわずか3%しかなかった。世界的に低いとされる日本の自給率が現在10%余りであることに照らせば、当時のデンマークの乏しいエネルギー事情が想像できるだろう。

 デンマークは、1970年代の石油ショックにより、自動車の利用制限が課されるなど大打撃を受けた。エネルギー資源のほとんどを外国に依存していたためだ。

 そうした教訓から、デンマークはエネルギー政策を大きく転換した。油田開発や再生可能エネルギーに支えられ、自給率は劇的に向上。1997年には自給率が100%を達成、2010年には121%まで高まった。

 「2020年までにエネルギー消費の35%を再生可能エネルギーから供給」することを目標に掲げていたデンマークは現在、電力の50%超を再エネで賄う。エネルギー自給率は実に6割を超えている。

出典:環境省「諸外国における再生可能エネルギーの普及動向調査」

 そうした豊かなエネルギーを象徴するのがデンマーク南部に位置するロラン島だ。財政が悪化したかつての漁師の島は、一度は原発候補地となるも、反対派の声も踏まえて計画は撤回。一転して、再エネの一大供給地として生まれ変わった。

 年中海風が吹く地理的な好条件を生かし、風力発電設備が多数建設された。電力の余剰が出るときには島外に送電し、再エネの地産地消を後押ししている。ロラン島のエネルギー自給率は500%とも700%とも言われる。

 現在エスビャウ港やボーンホルム島が主要なエネルギー開発拠点になっている。

 今回覚書を結んだ北九州市もそうした知見を学び、洋上風力発電などの運用に生かしたい考えだ。

強み②デジタル立国

 デンマークのもう一つの強み、それはデジタル分野だ。

 デンマークと言えば、ブロック玩具大手「レゴ」のブロック発祥の地として知られ、クリエイティブな文化が受け継がれている。同国はまた、官民を問わずデジタルリテラシーが高いという側面も持ち合わせる。国連が発表する世界電子政府ランキングにおいて3回連続1位に選ばれるなど、世界で最も先進的なIT国家の1つとされる。世界的な人気を誇る、ゲーム開発プラットフォーム「Unity」を手掛けるユニティ・テクノロジーもデンマーク発の企業だ。

 北九州市は、積極的にDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進に取り組むべく、デンマーク側との交流を深めていく。

※ 注記のない画像は駐日デンマーク大使館提供

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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