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渡航者数9割減のフィリピン ハードロックカフェなどで観光の新施策 国交正常化65年の一環

南龍太記者
Philippines/Visayas, Boracay(写真:アフロ)

 フィリピン観光省と駐日フィリピン大使館は4日、新型コロナウイルス感染拡大で落ち込んだ観光需要を掘り起こそうと新施策を発表した。都内のレストランなどと組み、フィリピンにちなんだ料理を提供して異国情緒を感じてもらうとともに、将来的な観光を促す狙い。日本との国交正常化65年記念の一環。往来する渡航者数が一時期月に一桁台まで低落するなど苦境が続く航空会社も参画し、官と民、在日フィリピン人らが連携してアフターコロナの観光の在り方を探る。

長いクリスマス

 フィリピンは首都マニラのほか、美しい海やビーチで知られるセブ島などが日本人にも人気の観光地となってきた。観光庁がUNWTO(国連世界観光機関)などの資料を基にまとめた「国際観光収入ランキング」によると、フィリピンは2019年に98億ドルで世界26位となり、100億ドルの大台に迫っていた(日本は461億ドルで7位)。

 フィリピン政府は、東京・六本木にある「ハードロックカフェ東京」と「トニーローマ六本木」に協力を呼び掛け、各店はフィリピンとクリスマスを掛け合わせたテーマ「CHIRISTMAS FLAVORS OF THE PHILIPPINES」の新メニューを考案。

「ハードロックカフェ東京」と「トニーローマ六本木」(東京都港区)
「ハードロックカフェ東京」と「トニーローマ六本木」(東京都港区)

 祝いの席などで食べられる甘いお餅の「ビコ」や、伝統のスイーツ「ビビンカ」をウベ(紫いも)とピスタチオのアイス、ココナッツなどでアレンジした。主催者側は「フィリピンはクリスマスシーズンが世界一長く、9月から12月まで続く」と説明する。

ビコのメニュー(大使館提供)
ビコのメニュー(大使館提供)

ビビンカのメニュー(大使館提供)
ビビンカのメニュー(大使館提供)

 こうした特別メニューを注文すると、個数限定でフィリピンのオリジナルグッズがもらえるキャンペーンを実施。また、お店のツイッターやインスタグラムのアカウントフォロー、投稿することなどにより、グッズがもらえたり、抽選でフィリピンと日本の往復航空券が当たったりする企画もある。キャンペーンは11月6日に始まり、12月31日まで続く。

最も近い東南アジア

 4日にハードロックカフェ東京で開かれた発表会には、大使館関係者や日本在住のフィリピン人など100人超が参加して盛況。フィリピン大使館のロべスピエルボリバー次席大使は「フィリピン人は、クリスマスと食を人生で最も大事にする。この最も大事な二つを日本の友人の皆さまと共有したい」と話した。

あいさつするロベスピエルボリバー次席大使
あいさつするロベスピエルボリバー次席大使

 日本側からも、ASEAN諸国間との経済促進や人物交流を図る国際機関、日本アセアンセンターの平林国彦事務総長や、東京―マニラ間など両国間を結ぶセブパシフィック航空の松本知彦日本支社長が参加、賛同した。松本氏は複数の外資系航空会社でのキャリアを踏まえ、心優しく温かいフィリピンの国民性を紹介。コロナの収束を願いつつ、「日本から最も近い東南アジア、フィリピンにいつか是非来てほしい」と訴えた。

 発表会に参加した他の日本人からもフィリピンに対する好意的な声が聞かれた。セブ島を訪れたことがあるという女性は、現地の住民らの人懐っこい性格が印象深かったという。

厳しい状況、明るい兆しも

 新型コロナウイルス感染拡大に伴う渡航制限を受け、日本に来たり、日本から出国したりする人の数はいずれも激減。その煽りを受け、航空業界や観光業界は押しなべて厳しい状況にある。

(出典:日本政府観光局)
(出典:日本政府観光局)

 日本から海外への出国者数は、観光立国を掲げる政府の戦略推進もあって2019年に2000万人の大台に乗せたが、2020年は317万人に急減。内訳として、2019年に68万人超まで増加していたフィリピンへの渡航者の伸びは、20年3月に急ブレーキがかかり、低迷の長いトンネルに入った。

 一方、フィリピンから日本への渡航者も激減している。訪日外国人のインバウンド需要の高まりで2019年に61万人余りとなったが、コロナの感染拡大が深刻化して以降は前年同月比99.9%減の月が続き、20年5月に訪日した人数は1カ月で6人にまで落ち込んだ。

 ただ、最近は数百人まで戻ってきており、回復基調も見られる。ひと頃より感染状況が落ち着いているものの依然先行きの不透明さが拭えない中、両国とも政府や企業が連携しながら、観光需要復活の機会をうかがっている。

介護現場にフィリピン人

 新型コロナウイルス感染が拡大する前の2019年10月時点で、日本の外国人労働者全体のうちフィリピン人は中国、ベトナムに次いで3番目に多い17万9685人(10.8%)だった。在留資格として、かつては興行ビザによる渡航も目立ったが、近年は介護の現場で必要とされるフィリピン人が多い。超高齢化社会と人手不足も背景に、面倒見がよく優しいとされるフィリピン人の看護師・介護福祉士は歓迎され、重宝されていた。

 しかし、コロナ禍はフィリピン人の在留状況にも少なからぬ影響を与えている。増加傾向をたどっていた在日フィリピン人の数は、28万2798人と過去最多だった2019年末から一転、2020年末は27万9660人となり、8年ぶりに減少に転じた。

フィリピンの観光を盛り上げる標語
フィリピンの観光を盛り上げる標語

(注記のない画像は11月4日筆者撮影)

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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