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空飛ぶ病院は実現するか 100年前の人々が想像した未来とは?

南龍太記者
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

未来学の連載が始まった。

未来学という日本にまだ馴染みの薄い学問が広まってほしいという願いからだ。

未来学の根底にある思想は、未来を「自由に」想像するところから始まる。誰にも訪れる未来、暗く悲観的な予測もあれば、明るい希望もある。そんな自明なことを、大真面目に追究する学問だ。

連載第1回では、世界で今未来学がブームであり、日本にもかつてそのブームがあったこと、そして今再びブームとなる予兆、萌芽があると記した。

そうした事象と関係の深い、複数の書籍をご紹介したい。

遠い未来を思い描くこと

未来学の発祥、きっかけとなったのはSF小説『タイム・マシン』で知られるH・G・ウェルズら欧米のSF作家たちによる先見性に満ちた作品だ。

一方、江戸時代が終わり明治維新となって半世紀ほどの日本においても、『百年後の日本』と題した革新的な内容の書が1920年に刊行された。「船酔いしない薬の開発」、「人口増加の停止」、「思想の国際化」といったおよそ言い当てている予測のほか、「空飛ぶ病院」、「空飛ぶ警察」、さらには日本と朝鮮半島とをつなぐ「連絡鉄橋」など、さまざまなアイデアや空想が、文学士や博士、宮司、政治家ら多種多様な識者によって描かれている。

当時の人たちが夢想した100年後、つまり現代は、空や飛行機にまつわる技術を用いた想像図が目立つ。当時、世界を魅了し、世界観や移動の時間感覚などを一変させた飛行技術の台頭を象徴しているかのようだ。

現代で未来を想定する際に、AI(人工知能)やロボットが少なからず登場するのと似ている。

人は昔から夢想家だった

戦後、奇跡の復興を遂げて高度経済成長期を迎えた日本は、未来学ブームに沸いた時期があった。1970年前後だ。

詳細は連載に譲るが、そのブームのころから「199x年の日本経済」や「199x年の世界」、あるいは21世紀、「20xx年」といった、来る数十年後の時点で実現していそうなことを、あるときは当時最先端の英知を論拠に、またあるときは自由な想像力の赴くままに、未来に思いを馳せるような文献や論文が多く出回っていた。中には、戦争や環境汚染といった破滅的な世界の訪れを予測し、人々に警鐘を鳴らし、未来を変えるための行動を促す人々もいた。

特筆すべきは、その未来予想の内容は1990年前後を隔てて、趣旨が大きく異なることだ。すなわち1990年までは、米ソの冷戦できなくさい核戦争の脅威など、ディストピアとして悲観的に語られる未来が目立った。

それが1991年のソ連崩壊によってパラダイムシフトが起こり、世紀末から展望した21世紀、あるいはその先の地球のありようを俯瞰する未来予測が増えていった。重点テーマは地球環境といった全人類的なそれへと移っていくことになる。

加速する未来

そしてAIやビッグデータが一段と活用される現代、未来予測はより正確に、一方で複雑になり、また加速度的に進みつつある。

デジタルの世界の技術革新が指数関数的に続いていく前提に立てば、100年後の未来は現代の科学者やエンジニアが唱える信じ難いような予測さえ、一層も二層も上回るものになっているかもしれない。

100年前の日本人が描いた2020年の日本――。未来学は、その予測された未来が実際に到来したかどうかの当否よりも、未来を想像する行為それ自体にこそ、重きを置いている。もちろん、実際と予測のずれを検証する作業も、必要かつ尊いものだ。

2121年の日本、世界はどうなっているだろうか。それを考えるうえで、その間にある節目の年を見据えた予言の書、参考になるいくつかの文献を、本稿の最後にご紹介したい。

~参考文献~

  • 『2040年の未来予測』(成毛眞著、2021年、日経BP)
  • 『2050年の世界』(英『エコノミスト』編集部著、2012年、文藝春秋)
  • 『2050 近未来シミュレーション日本復活』(クライド・プレストウィッツ著、2016年、東洋経済新報社)
  • 『2050年 世界人口大減少』(ダリル・ブリッカー/ジョン・イビットソン著、2020年、文藝春秋)
  • 『2060 未来創造の白地図』(川口伸明著、2020年、技術評論社)
記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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