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太宰治が通った跨線橋、撤去か VRで保存?生家のARツーショット人気

南龍太記者
太宰治の足跡を紹介する文学サロン(2021年3月)

作家、太宰治が晩年を過ごした東京・三鷹。太宰が好んで通った跨線橋が今も残る。老朽化により撤去される可能性が高まっており、VR(仮想現実)を用いるなどして後世に伝える方法が検討されている。

跨線橋の東にある三鷹駅周辺にも、太宰がひいきにしたお店などゆかりの名所が点在する。ただ、ほとんどが建て替わるなどして現存せず、かろうじて案内板が設置されている程度だ。跨線橋のVRの検討に併せ、アナログな案内板などにデジタルを掛け合わせ、観光地を再活性化させるのも一考だろう。

他地域で進むAR(拡張現実)やAI(人工知能)による観光資源のデジタル化の取り組みとともに見ていく。

1929年築、老朽化進む

3月に入って全国紙が相次いで「三鷹跨線人道橋」撤去の可能性を伝えた。

築約90年と老朽化が進む跨線橋は、安全対策に必要なコストなどを踏まえ、維持管理が難しくなっていた。施設所有者のJR東日本が三鷹市に無償譲渡を提案していたが、折り合いがつかなかったという。

跨線橋を紹介する案内板(2021年3月)
跨線橋を紹介する案内板(2021年3月)

数十段の階段と約90メートルの通路から成る陸橋。その一部を除き、撤去される見通しが濃厚となってきた。保存に際してVRの活用が検討されているとも伝わる。

撤去報道に対し、ツイッターでは「一部保存されるならせめてもの救い!寂しいけど」といった声が聞かれた。

幼い頃に近くに住んでいたという作家の志茂田景樹さんも、報道を踏まえ、「この跨線橋の程近くの耳鼻科に通っていた その途中で1度 太宰治とすれ違った」と投稿。太宰との邂逅や、何度も補修が重ねられてきた跨線橋の様子を綴った。

そのすぐ南側の道路は「電車庫通り」という名称通り、線路上空の架線に1、2、3…と連番が振られ、中央・総武線、東京メトロ東西線、特急列車など色とりどりの車両が待機している。新型コロナウイルス感染拡大以前はいわゆる「撮り鉄」の鉄道ファンが熱心に写真に収める姿もあった。

跨線橋からの眺め(2021年3月)
跨線橋からの眺め(2021年3月)

友人を連れて案内するなど、太宰のお気に入りスポットだった跨線橋。だが、「橋の認知度は今ひとつだ」と市の関係者は話す。

跨線橋の通路(2021年3月)
跨線橋の通路(2021年3月)

点在する太宰ゆかりの観光資源

三鷹市は、太宰が晩年を過ごしたことから「太宰が生きたまち」としてPRしている。

太宰治文学サロンの方角を示した案内板(2021年3月)
太宰治文学サロンの方角を示した案内板(2021年3月)

市のウェブサイトによると、市内には19の太宰ゆかりのスポットがある。1日あれば全て歩いて回れる距離にある。近隣には他に、太宰の足跡を年表や三鷹で撮った写真とともに紹介する「太宰治文学サロン」や、昨年12月新設の「太宰の自宅を訪れた」感覚をイメージした「太宰治展示室 三鷹の此の小さい家」がある。市は太宰の顕彰事業に力を入れている。

太宰治文学サロン(2021年3月)
太宰治文学サロン(2021年3月)

19あるスポットのうち、案内板があるのは10カ所。ビルやマンションの外壁にぽつねんと設置され、目立たないものも多い。

太宰が編集者との打ち合わせに使ったという屋台の跡地(2021年3月)
太宰が編集者との打ち合わせに使ったという屋台の跡地(2021年3月)

太宰がよく通ったお店が並ぶ通称「太宰横丁」などを示す案内板(2021年3月)
太宰がよく通ったお店が並ぶ通称「太宰横丁」などを示す案内板(2021年3月)

太宰が入水した場所とされる玉川上水周辺。置かれた玉鹿(ぎょっか)石は故郷の青森県産(2021年3月)
太宰が入水した場所とされる玉川上水周辺。置かれた玉鹿(ぎょっか)石は故郷の青森県産(2021年3月)

ただ実際見てみると、当時を思わせる何かが残っているわけではなく、どこか味気ない。

今後、跨線橋をVRで再現する検討が具体化するならば、こうしたアナログの案内板もAR技術やQRコードを織り交ぜて活用できないだろうか。

太宰とツーショット

太宰の生家として保存され、国の重要文化財建造物にも指定されている「斜陽館」(青森県五所川原市金木町)は幼少時の暮らしぶりを偲ばせるつくりとなっている。直筆原稿や書簡の常設に加え、2016年度にはARを活用した展示を始めた。

斜陽館(特定非営利活動法人かなぎ元気倶楽部提供)
斜陽館(特定非営利活動法人かなぎ元気倶楽部提供)

訪れた客らはスマートフォンを手に、ARで浮かび上がった太宰と並んだ構図で写真を撮るなどし、「夢の2ショットが撮れました」と歓喜。太宰ファンらの間で人気を呼んでいた。

2020年3月末でARの展示は終了した。在りし日の太宰の面影を伝える展示などを、三鷹市が今後検討するのであれば参考になりそうだ。

最新技術の導入相次ぐ

他の自治体も文豪や武将など歴史上の人物にあやかった観光資源を、AIやVR、ARと融合させる取り組みが進む。

「森鴎外記念館」などがある文京区はコロナ禍を踏まえ「ご自宅で“旅行気分”・“観光気分”を味わえるVR静止画を公開」として、VRの取り組みを進める。QRコードを読み取ると、六義園など区内の観光名所をVRで散策した気分を味わえる仕組みだ。

先月終了したNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の主人公、明智光秀にゆかりのある京都、滋賀県、岐阜、福井の4府県の14自治体は「明智光秀AI協議会」を結成した。LINEなどと組んで2019年、多種多様なパターンの会話に応じられるAIの”明智光秀“が現代に蘇ったとして話題を呼んだ。

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コロナ禍で思うように外出できない日々が続く中、再び自由に史跡巡りや街歩きができるようになる日はいつになるだろうか。数年先を見据えた取り組みが静かに進む。

(特に注釈のない画像は筆者が三鷹市内で撮影)

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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