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新型コロナで再認識される地元ニュースの大切さ 米民間調査、ローカル重視の傾向目立つ

南龍太記者
(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスで先行きが見通せない中、感染源やワクチン開発をめぐって地球規模で情報が錯綜し、さまざまな憶測が飛び交って時に情報戦の様相も呈している。信頼に足るニュースソースは何か。米民間シンクタンクの調査で、米国民は全般的なニュースや中央政府の発表よりも、より自分たちに近いローカルの情報を頼りにしているとの傾向が明らかになった。

 調査結果に基づく米国の状況を踏まえつつ、日本のローカルニュースの今を考察する。

信頼されるローカルニュース

 政治や宗教、移民にジェンダー(性)など幅広いデータを扱う米民間シンクタンクのピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が今月公表した調査結果は、コロナウイルス感染拡大とともに不安が広がる中で、地域のニュースや情報がいかに重視されているかをあらためて示した。

コロナウイルス関連のニュースの扱いに関する調査結果(Pew Research Centerのサイトより)
コロナウイルス関連のニュースの扱いに関する調査結果(Pew Research Centerのサイトより)

 同センターは4月20~26日に米国の成人した男女1万139人を対象に調査を行った。

 コロナウイルスのニュースに関し、61%が「全国とローカル両方のニュースを等し並みに扱っている」との結果が出た一方、23%は同等でなく「ローカルニュースにより注意を払う」と回答した。「全国ニュースにより注目する」とした人は15%だった。

Pew Research Centerのサイトより
Pew Research Centerのサイトより

 同時に、コロナウイルス関連のニュースに接する際の主要な情報源を複数回答で尋ねたところ、「全国規模の報道機関」が56%で最も多く、「公的な医療機関や当局者」の51%、次いで「ローカルの報道機関」の46%という順に、信頼度は高かった。

中央よりも地元重視

 また6月4~10日に実施した別の調査(回答者9654人)では、「コロナウイルスのニュースに関し、常にあるいは大抵、正しく伝えている情報源」を複数回答で尋ねた。

 その結果、「CDC(米疾病対策センター)をはじめとした公共保健機関」が64%とトップで、「地元の知事・州政府」が53%、「地元メディア」が50%と続いた。一方、「メディア全般」が44%、「トランプとその政権」が30%の順に低く、ローカルの報道機関や政府を信頼する傾向が見られたといい、ピュー・リサーチ・センターは

米国人はコロナウイルスの情報に関し、メディア全般よりも、地域の報道機関の方が信頼できる情報源だと見ている

と結論付けた。

 なお、この傾向は黒人層ほど顕著だったとされる。同時に、黒人の回答者はその他の回答者に比べ、より入念にコロナウイルス関連のニュースをチェックするといった特徴が見られた。

加速するメディアの地域志向

 日本における同種の調査は確認されていないが、地元紙などローカルの報道機関が発信するニュースや情報が、受け手にとって重要なのは日本でも同じようだ。

 特に、既存のオールドメディアに対して新興と言える、ネット系メディアや各種キュレーションサイトは、読者の住む地域や出身地など関心の高いエリアにカスタマイズして情報を配信している。そうした動きは近年さらに顕著となり、加速している。

 例えば、ニュースアプリ「SmartNews」を手掛けるスマートニュースは1年ほど前、

北は「北海道」から、南は「沖縄」まで、(中略)地元メディアを中心に、ローカル情報を多数配信。事件や事故をはじめ、自然災害、政治経済、生活情報、地域密着の最新情報をまとめて見ることができます

出典:ついに47都道府県すべてのチャンネルがスマートニュースに!

との触れ込みで、より地域に特化したニュースを読者に届けている。

 ヤフーニュースも、都道府県別のニュース配信に力を入れ、「地方活性化に貢献」とPRしている。

ヤフーニュースのサイトより
ヤフーニュースのサイトより

 また、2000年に東京・渋谷のローカルな情報を発信する試みとして始まった「シブヤ経済新聞」が起源の「みんなの経済新聞ネットワーク」は年々、その対象エリアを全国各地に広げている。吉祥寺経済新聞や西多摩経済新聞、飛騨経済新聞といった地域密着型ニュースの配信態勢を整え、国内の対象エリアは100を超えた。さらにニューヨークやマニラなど海外にもそのネットワークを拡充し、痒い所に手が届く情報網の整備に余念がない。

日本のローカルニュースはどこへ

 こうしたネット系が台頭する一方、紙媒体が主体となる従来型の地元紙は、若者の新聞離れを受け、厳しい経営に立たされているところもある。

地元のニュースルームは資金繰りが厳しいにもかかわらず、米国人はパンデミックに関するローカルニュースが不足しているとは感じていない。

(Despite the financial difficulties facing local newsrooms during the coronavirus outbreak, Americans do not perceive a dearth of local news about the pandemic, according to the Center’s June survey.)

 米国のローカルニュースをめぐり、ピュー・リサーチは調査結果を受けてそう指摘もしていた。

 既に数々の統廃合、合併に次ぐ合併を繰り返してきた米国のローカルメディアと、日本の地元紙――。状況は大きく異なるため、単純に比べられない。ただ、日本の各地域に根差した報道機関がここ半年の間に伝えてきたコロナウイルス関連のニュースを見れば、前述のような調査を待つまでもなく、日本のローカルメディアの有用性、役割の大きさは明白だろう。

 現代は「情報は欲しいが、見聞きするニュースにお金をかけたがらない」といった風潮が漂う。

 現代に限らない。この背反するニーズを受け、従来型のメディアは過去のビジネスモデルからの脱却、変革が求められて久しい。

 そのシフトの試行錯誤を続けながら、かなりの年月が過ぎた。

 そしてその担い手たちは今日もニュースを届けている。模索が続く。

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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