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新型コロナウイルス、収束後の世界は? ポストコロナへ知恵絞る未来学者たち

南龍太記者
リニューアルした世界未来学連盟のウェブサイト

 感染拡大が続く新型コロナウイルス。対策をめぐり、人々の意識や生活様式は変化し続けている。これから世界はどうなるか。不透明感が増す中、先々に起こりうる出来事に備える学問「未来学」の学者や専門家らの間でも、議論が熱を帯びている。

ユネスコとも協働

 パリに本部がある国際NGO「世界未来学連盟」(WFSF; World Futures Studies Federation)は今月ホームページをリニューアルし、情報やレイアウトを見やすくした。これを機に、日本語版サイトのリンクも貼られた。内容は順次更新されていく。

 未来学とは何か。語弊を恐れずにつづめて言えば「来るべき未来を見据え、備える学問」だ。日本での本格的な普及は道半ばだが、世界では欧米を中心に研究が進んでいる。

 未来の一時点に起こることをぴたりと「こうなる」と言い当てるのではなく、いくつかある(そして無限にある)未来の可能性を想定し、それが実現するために必要となるAI(人工知能)やロボットなどの導入条件、実現した場合/しなかった場合の対処法を考える。

 政治や経済、環境、そして社会などさまざまな研究分野が学際的に重なる領域だ。そのため、世界未来学連盟には各国・地域から幅広い分野の学者や専門家が集まっている。ユネスコ(UNESCO; 国連教育科学文化機関)のパートナーでもあり、連携しながら未来の世界のありようを見据えている。

 メンバーの目下の関心事は、コロナウイルスとの向き合い方だ。既に起きている世界の変化の先にある更なる変化や、感染が収束した後の世界「ポストコロナ」をめぐり、「Covid-19危機―今後18カ月で考えられるシナリオ」(Covid-19 Crisis: Possible Scenarios for the Next 18 Months)や「Covid-19の不確実性」(Covid-19 Uncertainties)といったタイトルのメールがメーリングリストで流れ、活発に意見、議論が交わされている。

 世界未来学連盟にはどういったメンバーがいるのか。参加した経緯や現在の取り組みについて、本人の了解のもとに数人を紹介する。

バンカーから転身、Roger Spitz

 仏銀行大手、BNPパリバの投資部門でCEOや起業家などに助言を行ってきたロジャー・スピッツRoger Spitz氏は、銀行家として約20年のキャリアを経て、2015年にTechistentialを立ち上げた。経営者らへのアドバイザリー業務で培った経験を基に、地球規模の戦略立案のプラットフォームとして、米サンフランシスコを拠点に活動する。

Peter Bishop氏(本人提供)
Peter Bishop氏(本人提供)

 銀行家としてさまざまなCEOや創業者と出会ううちに、先見性のある戦略や未来に関する知識を究めたいと考えるようになった。

 今力を入れているのが、自身がトップを務める「ディスラプティブ・フューチャーズ・インスティテュート」(Disruptive Futures Institute; 破壊的未来研究所)を通じた教育の取り組みだ。

 DisruptiveはDisruptive Innovation(破壊的イノベーション)という組み合わせでよく使われ、既存の概念や常識を打ち破るような技術革新(イノベーション)に見られる破壊性を意味する。真空管に取って代わった半導体が、電子機器の小型化や高性能化に寄与してきたことなどがその一例と言える。「破壊」という言葉はネガティブな意味合いを持つが、ここではポジティブな使われ方をしている。

 Techistentialが助言機関としての役割が大きいのに対し、Disruptive Futures Instituteは教育機関としての側面が強く、

「破壊について習熟できる唯一の教育プラットフォーム」

(The only education platform that teaches you to Master Disruption)

「自分自身を破壊して未来に備えよう」

(Prepare for your future by disrupting yourself)

と謳っている。

 スピッツ氏は、銀行家としてスタートアップの発展が目覚ましいイスラエルの起業家らと交流したことが、未来学に傾倒していくきっかけとなったという。未来学の専門知識を身に付けようと、ヒューストン大学で未来学について学んだ。その際に師事したのが、下記のピーター・ビショップ(Peter Bishop)氏で、同じく世界未来学連盟の一員だ。

 

世界中の子どもたちに未来学を、Peter Bishop

 ビショップ氏はヒューストン大学で教鞭を執り、フォーサイト(Foresight; 先見性・洞察力)に関する講義を行ってきた。学生に限らず、IBMやネスレ、NASAといった企業や政府機関向けにもセミナーを開くなどし、未来学の普及に寄与してきている。

Teach the Future のサイトより
Teach the Future のサイトより

 現在は子どもたちに未来学について教える非営利団体「ティーチ・ザ・フューチャー」(Teach the Future)の代表を務め、「世界中のすべての学校に未来、そして過去を教えています」という。

未来思考プレイブックのギリシャ語版(Teach the Future のフェイスブックより)
未来思考プレイブックのギリシャ語版(Teach the Future のフェイスブックより)

 セミナーなどを通じて小中学校の児童・生徒らに未来学の基礎を伝授しているほか、未来学の教本「未来思考プレイブック」(Futures Thinking Playbook)を英語やイタリア語、オランダ語、ギリシャ語などの各言語で出版している。訳書は各国で未来学の教材として使われており、日本語版も近く公開される予定。

10代のフューチャリスト、ArsamとAndres

 最後に以前もYahoo!ニュースに登場したアルサム(Arsam)を紹介する。世界未来学連盟で最年少のフューチャリスト(未来的な思想を持った人たちの総称)として、未来学を学びたい世界中の子どもたちとつながるべく活動している。1990年代後半以降に生まれた「Z世代」(Generation Z)を掲げ、自らを「Gen Z Futurist」と呼ぶ。

 現在のパンデミック(大流行)を踏まえ、「コロナウイルスへの手紙」と題し、この深刻な感染症によって気付いたことを

あなた(コロナウイルス)は、子どもや多くの大人が7時に起きて学校や職場に通う必要がないことを、私たちに教えた。

(You taught us that children and most parents don’t need to get up at 7.00 in the morning and spend hours in traffic to go to a school or work.)

などとしてまとめた。

コロナウイルスへの手紙(Arsamのサイトより)
コロナウイルスへの手紙(Arsamのサイトより)

 結びには、

あなたは、未来について学ぶことは単に過去に注目するよりも大切だろうと、私たちに教えた。未来はもはや過去のものとは同じではない。過去に注目するよりも、最善の未来をつくり出そう。

(You taught us that studying about futures can be more important than just focusing on the past. the future is no longer the same as our past so let’s focus less on the past and create the best futures for all.)

と呼び掛けた。

 同じく10代のフューチャリスト、アンドレス(Andres)はこの考えに共感し、手紙をスペイン語に訳した。スペイン語を母国語とする各国の若き未来学研究者の卵を見つけ出そうと、日々普及活動に励んでいる。

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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