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新型コロナや黒人暴行死、宗教もジェンダーも 幅広いテーマ扱う調査機関、ピュー・リサーチとは?

南龍太記者

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う人々の行動や生活様式の変化、白人警官による黒人男性暴行死事件であらためて浮き彫りとなった米国の人種差別――。こうした事象の背景にあるものは何か、人々の意識はどう変わっているのか。政治や経済、気候変動、宗教、ジェンダーなど複雑なテーマを幅広く調査しているのが米国のピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)だ。不偏不党を謳(うた)い、国内外のメディアや研究機関から支持を集める。

 今回、センターの概要とともに、最近の調査結果を紹介する。

ピュー・リサーチ・センターとは

 ピュー・リサーチ・センターは各種調査・分析を手掛ける非営利組織で2004年に設立された。米ワシントンD.C.に本部があり、民間調査機関、世論調査機関、シンクタンクなどと呼ばれ、

世界を構成する問題、態度、トレンドを社会に伝える無党派のファクトタンク

を自任している。

 不偏不党を掲げ、その膨大なデータは保守系、リベラル系を問わず、内外のメディアに活用されている。時の政党や特定の宗派におもねることのない姿勢を貫く。

 その母体は、ピュー慈善トラスト(Pew Charitable Trusts)で、調査などのために年数百億円という巨費を用意している。一方、この母体が海洋問題などで積極的に提言していることは、あまり知られていないかもしれない。

多岐にわたる調査エリア

 ピュー・リサーチ・センターの調査は年間を通じて間断なく行われ、そのサマリーやリポートが連日のように新規公開されている。

 「世論調査」、「人口統計調査」、「コンテンツ分析」、「その他のデータに基づく社会科学調査」を主に担う。目下注目の「2020年米大統領選」のほか、「世界の趨勢とトレンド」、「インターネット・科学・テクノロジー」、「メディアとニュース」、さらに「ヒスパニックのトレンド」や「宗教と公共生活」などに重きを置き、テーマごとにニュースレターの配信も行っている。

ピュー・リサーチ・センターの主な調査エリア(同センターのサイトより)
ピュー・リサーチ・センターの主な調査エリア(同センターのサイトより)

 メディアはピュー・リサーチ・センターの調査結果を、

のようにそのまま記事の見出しや骨格にすることもあれば、記事で展開したい主張を裏付ける論拠とするケースも多い。

 今年5月の、黒人のジョージ・フロイドさんの暴行死事件を受けて広まったBLM(Black Lives Matter;ブラック・ライブズ・マター)に関する調査も多数実施し、そのデータは多方面で引用されている。

アフリカ系移民が多く住むニューヨークのハーレム地区。路上で販売されるBLMのTシャツ=20年6月、筆者撮影
アフリカ系移民が多く住むニューヨークのハーレム地区。路上で販売されるBLMのTシャツ=20年6月、筆者撮影

 メディアに限らず、ジェトロなど政府機関が政治や経済に関する調査結果を引用している例も目立つ。

コロナの調査も多数

 今年はコロナウイルスの影響に関し、各国・機関の対応を比較したり、さまざまに生じた変化の背景を探ったりといった調査実績を特に多く残している。

 「コロナウイルスへの対応をめぐり、米国人は自国より韓国とドイツを高評価」(Americans Give Higher Ratings to South Korea and Germany Than U.S. for Dealing With Coronavirus)では、各国・機関に対する評価を「素晴らしい」(Excellent)、「良い」(Good)「妥当」(Only fair)、「悪い」(Poor)の4段階で尋ね、結果をグラフ化して比較した。

コロナウイルスをめぐる各国・機関の対応の評価(ピュー・リサーチ・センターのサイトより)
コロナウイルスをめぐる各国・機関の対応の評価(ピュー・リサーチ・センターのサイトより)

 「素晴らしい」との回答が25%と最も多かった韓国は「良い」と合わせた高評価が66%、ドイツも同66%だった。

 一方、同33%と高評価が最も少なかった中国は、対応が「悪い」が37%、「妥当」が26%だった。WHOに対する評価は分かれ、「素晴らしい」と「良い」は計46%、「悪い」は24%だった。

 この調査は4月29日~5月5日に行われた。現時点で行えば、また別の結果になるにちがいない。日本の場合はどう評価されるだろうか。

悪化する対中感情

 貿易摩擦が激化して関係が冷え込む米国と中国だが、コロナウイルスの感染拡大以降はさらに、米国内で中国への不信感は高まっているようだ。

 3月3~29日に米国人に実施した対中感情調査(U.S. Views of China Increasingly Negative Amid Coronavirus Outbreak)では、「好ましい」(Favorable)が26%にとどまったのに対し、「好ましくない」(Unfavorable)は66%と大きく上回った。

米国人による対中感情の調査結果の推移(ピュー・リサーチ・センターのサイトより)
米国人による対中感情の調査結果の推移(ピュー・リサーチ・センターのサイトより)

 ピュー・リサーチ・センターによる同趣旨の調査は数十年にわたり継続されてきた。2000年代は「好ましい」が「好ましくない」を上回っていた時期もあったが、2010年代に入ると「好ましくない」との回答が増加傾向をたどり、今回の調査で過去最高となった。

米大統領選に向け

 ピュー・リサーチ・センターはこうした調査の際、より詳細な背景分析のため、支持政党や年齢層など回答者の属性に基づくブレイクダウンも示している。

 対中感情の意識調査を見ると、どの年の調査も大抵、50歳以上の高年齢層ほどネガティブな対中感情を抱いているのに比べ、ミレニアル世代の若年層18~29歳は10~20ポイントほど低くなっている。留意すべき傾向として、中国を「好ましくない」と捉える若年層が近年増加してきていることだ。

年齢層別の対中感情調査(ピュー・リサーチ・センターのサイトより)
年齢層別の対中感情調査(ピュー・リサーチ・センターのサイトより)

 3カ月余りに迫った大統領選、今後ピュー・リサーチ・センターによる選挙関連の調査は増えてくると見込まれる。

* * * * *

 米国が、世界が危うい方向に進まぬよう、偏りのないファクトタンクの役割に期待したい。

(参照:NHK放送文化研究所「ネットへの対応を迫られる米ニュースメディア~Pew Research Centerの現状分析から~」)

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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