ニューヨーク、新型コロナでマスク自動販売 根付くか自販機、あの機種の設計は日本人

(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの感染拡大を受け対面販売や接客が極力控えられる中、ニューヨークにマスク専用の自動販売機が今月設置された。ニューヨークなどの米国の主要都市には、これまでも医薬品やユニクロの衣類といったさまざまな自販機が登場、元祖はガムで自販機は130年以上の歴史を持つ。最も普及している1つ、地下鉄の切符の自動券売機は、日本人が設計したことはあまり知られていないかもしれない。

 メンテナンスの難しさなどから、日本に比べて自販機が定着していない土地柄、今回登場したマスク自販機の成否は――。1枚4ドルと高めの値段設定にしており、どの程度需要があるか注目される。一方、アマゾンのキャッシュレスによる新業態のお店など、ニューヨークに適した販売方法の模索が続いている。

1枚4ドル

 各種報道によると、マンハッタンで増えつつある空き店舗の入り口を利用し、1枚4ドルで売られている。

 感染が広がる前は、ニューヨークで健康な人がマスクをする習慣はほとんどなかった。しかし4月に口や鼻を覆う物の着用が義務付けられて以降、マスク需要が急増し、手に入りにくくなっている。

7ドルのマスク、20年3月
7ドルのマスク、20年3月

 1枚4ドルの価格設定の是非は販売実績に委ねるとして、長らく着用する習慣がなかったニューヨーク市民の中には、マスクが1枚いくらといった相場があまりピンと来ない人もいるかもしれない。この春にはマンハッタンの駅にある売店で7ドルのマスクもあった。

 なお、今回のマスクの自販機を手掛ける企業は、消毒液や手袋も展開していくという。いずれも需要が高まっている商品で、路上で売られているのをたびたび見掛ける。

マスクや手袋の路上販売。20年4月
マスクや手袋の路上販売。20年4月

1世紀超の自販機の歴史

 「安全上の理由などから自動販売機が普及してこなかったニューヨーク」とNHKのニュースも指摘していた通り、自販機は日本ほど多くない。ただその歴史は古く、ニューヨーク州自動販売機協会(New York State Automatic Vending Association)によると、1世紀以上前の1888年にニューヨークにある駅のプラットホームでガムの自動販売機が設置されていた。

郵便局の切手販売機。18年8月
郵便局の切手販売機。18年8月

 その後、1905年には郵便局で切手の自販機が登場、1930年代に氷で冷やされた瓶詰めのソフトドリンクの販売機が出始めた。切手自販機は郵便局内にあって監視できるために壊されるなどの心配が少なく定着しているが、飲み物の場合、日本のように路上に置かれている自販機を見掛けるのは稀だ。

地下鉄券売機デザインは日本人

 そうした「安全上の」懸念を抱えながら、1999年にニューヨークの地下鉄の券売機は導入された。設計を手掛けたのはニューヨーク在住でAntenna Design New York Inc.代表の日本人デザイナー、宇田川信学さんだった。

 以前行ったインタビューの記事から抜粋すると、

デザインの考案は「非常に難しい作業だった」という。

いたずらをされるといった安全上の理由もさることながら、「公共空間の機械は壊れている」との先入観が人々の間にあり、券売機が抵抗なく使われるにはどうすべきかと苦心した。地下鉄の乗客も含め、ニューヨーカーの行動を連日、観察したそうだ。

当時の一般的な自販機のように、先にお金を入れてから商品を選ぶ、というスタイルはなじまないと考えた。試作機で反応を確かめると、案の定「先に支払うのは嫌だ」との声が噴出。同時に用意していた第2案、すなわち「お店に入り、欲しい物をかごに入れ、最後にお金を払う」方式で進めることとなった。

ニューヨークの地下鉄の自動券売機
ニューヨークの地下鉄の自動券売機

破壊行為を想定した安全対策として、ハード面も工夫した。筐体は頑丈さを重視してステンレス製にした。

問題は色付きの箇所。塗装でははがれやすく、プラスチックだとたばこの火のいたずらで溶けてしまう。そこで宇田川さんはホーローを採用する代替案を提示。結果、導入当時の艶は未だに失われていない。カードや切符の受取口が赤や青、黄、緑と色分けされているのは、タッチパネルと連動して操作しやすくするため。結果的にカラフルになった。

非接触型を導入したニューヨークの改札。20年4月
非接触型を導入したニューヨークの改札。20年4月

 昨年2019年にはニューヨークもようやくスマートフォンなどに対応した非接触式改札「OMNY」が導入された。

こんな物まで自販機に

 21世紀に入ってもやはり、飲料系の自販機はなかなか根付いていないが、最近もさまざまな物を自販機で売る試みが続いている。

 2017年にはユニクロがニューヨークなど米国の主要都市にある空港やショッピングモールに、衣類の自動販売機を設置して話題を呼んだ。ヒット商品の機能性肌着「ヒートテック」やダウンジャケットを売っていた。

ニューヨークの地下鉄構内にあった空っぽの自販機。20年3月
ニューヨークの地下鉄構内にあった空っぽの自販機。20年3月

 また米ドラッグストア大手のCVSファーマシーは、医薬品や日用品を提供する自販機を全米の各都市の空港などに展開してきた。19年にはニューヨークの地下鉄構内にも設置して実証実験が始まり、2年ほどかけて手応えを確かめるとしていた。ただ、コロナウイルスの影響で駅の利用者は激減しており、実証結果は当初の想定とは異なるものとなりそうだ。

 一方、自販機ではないが、アマゾンはニューヨークにもキャッシュレスによる実店舗「アマゾン・ゴー」を2019年5月にオープン。アマゾン・ゴー自体はこれが12店舗目だったが、キャッシュレスに加えて初めて現金決済にも対応した点でユニークだった。背景には、市内に増えていたキャッシュレス決済の店が、クレジットカードや銀行口座を持たない人が利用できず差別的だという声に配慮した。

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 新型コロナウイルスの影響で外出の自粛や規制が求められ、必要な物を買うのに苦労する生活が長引きそうなニューヨーク。従来型の店舗か、自販機か、ネット通販か――買い手も売り手も模索を続ける。

(写真は筆者撮影、いずれもニューヨーク市内)