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ノーベル平和賞候補、グレタさんが見られなかったデモ行進から見えた気候変動問題

南龍太記者
気候変動のデモ行進に参加するグレタさん、9月20日ニューヨーク市(写真:ロイター/アフロ)

 昨夏独りで始めた温暖化対策のストライキが世界中に広がったスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさん(16)。まもなく発表されるノーベル平和賞の有力候補の1人だ。受賞すれば史上最年少となり、注目が集まっている。先月の国連総会に合わせて温室効果ガスを排出しないヨットで渡米し、総会では温暖化対策に関わる各国のリーダーらに向け、涙ながらに思いの丈をぶつけたのも記憶に新しい。

 そのスピーチに先立ち、ニューヨーク・マンハッタンで主導したデモを取材した。ただ、行進していたはずの彼女をついに見つけることはできなかった。出発地点で登場を待っていたが、現れなかった。後に、一部報道であったような「先頭に立った」姿とは違い、グレタさんは両脇、前後を取り巻きに囲まれ、護衛されるようにして限られた場所を歩いていたと知った。

 彼女はなぜそうしなければならなかったのか。そこから気候変動をめぐる問題の複雑さがあらためて見えてきた。

グレタさんが、いない?

 9月20日、国連の気候変動サミットを前に世界各地で行われた気候変動問題への対応を訴えるデモ「未来のための金曜日」。主催者発表によると、約150カ国で計400万人が参加した。

 主要メディアなどの報道では、グレタさんは「行進の先頭に立った」と報じられたが、私が知る限り、先頭にはいなかった。行進が始まる前からスタート地点でしばらく登場を待ったものの、見つけることはできなかった。

デモ行進の出発地点、9月20日ニューヨーク市
デモ行進の出発地点、9月20日ニューヨーク市

 後に各メディアが報じた行進中の写真や動画の多くは、グレタさんを関係者らしき大人が手や紐で規制線のようにガードし、他人が容易に近づけないようにしている光景だった。

The Newyorkerのサイトより。行進の様子は3分30秒以降 ※URLは予告なく変更になる可能性があります)

 ルートも通常のデモ参加者とは違ったようだ。相当厳重な警備態勢が敷かれていたという。どうりで出発地点で待っていても一向に登場しないわけだ。

現場は熱狂、ネットは中傷

 グレタさんはその日、デモ行進後に辿り着いたマンハッタン南端の公園の集会で、集まった何万という児童、生徒ら聴衆を熱狂させた。

会場に集まったでデモ参加者ら、9月20日ニューヨーク市
会場に集まったでデモ参加者ら、9月20日ニューヨーク市

 一方、その3日後の「国連気候行動サミット」では各国のリーダー、大人たちに向かって「あなたたちは私の夢を、私の子ども時代を奪った」と激しい口調で敵意をむき出しにした。

 そんな彼女に対し、ネットなどの受け止めは賞賛ばかりではなく、

「精神を病んでいる。両親や国際的な左翼に利用されている」(米FOXテレビコメンテーター、後に謝罪)

「無知な子ども」(英国労働党コービン党首の兄)

「攻撃的」「怖い」「傲慢」…など

の声があった。そうした一部、反感を持つ人との衝突を避けるため、グレタさんは人目に付く先頭で大手を振ってデモ行進することができなかったとみられる。

 ただ、グレタさんが批判された理由はもっと別にありそうだ。気候変動への対策や予測に懐疑的、批判的な人はもともと一定数いる。「今後急激に地球温暖化が進むとすれば、それは本当に人為的な活動の結果なのだろうか」、「46億年の歴史を持つ地球は今偶然に、何か大きな気候変動の局面にあるだけなのではないのか」と。

 グレタさんへの批判は、そうした懐疑派の人たちが上記のような「利用されている子ども」「無知な子ども」「感情的な子ども」といった分かりやすい攻撃材料を見つけ、なじっているという構図のように映った。

 また、「温暖化対策のために二酸化炭素の排出削減が急務」というマジョリティーの見方に対し、その同調圧力に屈したくない、与(くみ)したくないという抵抗感の表れのようにも映る。グレタさんの同調「圧」が強いだけに、懐疑派からの反発も生じやすいのではないだろうか。

激しい怒りの後ろに子どもたち

 ただ、激しい口調で目に涙を浮かべながら思いを吐露したグレタさんの後ろには、彼女に寄り添い、支持する何十万、何百万という同年代の子どもがいることを忘れてはいけない。

 ニューヨークのデモに参加した子どもたちに普段心掛けていること、取り組んでいることを取材すると、「プラスチック製品を極力使わない」という声が多くあった。つまり原料となる石油の消費に対する「NO」である。「地球温暖化につながるから」という理由もさることながら、「誤食してしまうウミガメやクジラなどの生物を、海洋に流れ出たプラスチックゴミの誤食から守りたい」といった観点から、脱石油を叫んでいる人も少なからずいた。そうした発想が「氷が解けて行き場を失う北極のシロクマを救いたい」といった考えに結び付き、増幅したうねり、大きな波となっていたようだ。

デモ行進で掲げるサインを自作した高校生、9月20日ニューヨーク市
デモ行進で掲げるサインを自作した高校生、9月20日ニューヨーク市

 プラスチックは分解されずに海を漂い、餌と間違って食べたとみられる動物の胃からたくさん見つかっている。これは原因が明白な、すぐに解決すべき問題で、温暖化とは毛色の違う話だ。一方、海水温の上昇や氷河の崩壊による種の絶滅の危機は、温暖化の影響が指摘されている。

 1つ言えるのは、現在多数派となっている温暖化の原因と対策の考え方について納得していようがいまいが、世界の潮流は石油や石炭といった化石燃料からの着実な脱却だ。

※ ※ ※ ※ ※

(続く、写真はトップを除き筆者撮影)

記者

執筆テーマはAI・ICT、5G-6G(7G & beyond)、移民・外国人、エネルギー。 未来を探究する学問"未来学"(Futures Studies)の国際NGO世界未来学連盟(WFSF)日本支部創設、現在電気通信大学大学院情報理工学研究科で2050年以降の世界について研究。東京外国語大学ペルシア語学科卒、元共同通信記者。 主著『生成AIの常識』(ソシム)、『エネルギー業界大研究』、『電子部品業界大研究』、『AI・5G・IC業界大研究』(産学社)、訳書『Futures Thinking Playbook』。新潟出身。ryuta373rm[at]yahoo.co.jp

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