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杉田水脈氏を更迭しない岸田政権、人権や差別の問題「軽視」象徴

松岡宗嗣一般社団法人fair代表理事
(写真:アフロ)

杉田水脈・総務大臣政務官が2日、過去に「LGBTは生産性がない」と月刊誌に寄稿した件や、「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさん」などとブログに投稿したことについて謝罪・撤回した。報道によると、松本剛明総務大臣が杉田氏に対し、発言を撤回・謝罪するよう指示したという。

杉田氏はこれ以外にも、さまざまな差別や問題発言を繰り返してきた。今国会で、何度も発言について問われてきたが、頑なに謝罪や撤回をせず答弁を拒んできた。

ようやく上から指示されて撤回に至るという点からも、考え方が変わったとは到底考えられない。また、前述の発言を撤回するのであれば、他にも謝罪すべき差別・問題発言は数多くある。

本来は議員を辞職するレベルの差別や問題発言を繰り返してきた人物であり、そもそも政府の要職に就いてしまっていること自体が問題だ。これは岸田政権の任命責任の問題でもある。

謝罪・撤回を頑なに拒否

今年8月、第2次岸田改造内閣の人事が発表され、総務大臣政務官に杉田水脈氏が就任することが明らかになった。

旧統一教会との関係が問われた改造内閣だったが、むしろジェンダー平等や性的マイノリティの権利保障に反対する旧統一教会の思想と強く合致するような人物が政府の要職に就いてしまう状況に疑問を抱く。

差別発言を咎められることなく、むしろ出世できてしまうことに絶望的な気持ちになった--。こうした人事に対して批判の声が多数あがっていた。

10月からはじまった臨時国会では、杉田氏が初答弁した衆議院の「政治倫理」に関する委員会をはじめ、さまざまな場所で、同氏の過去の発言の問題が追及されていた。

参議院内閣委員会で「男女平等は、絶対に実現し得ない反道徳の妄想」という発言が問われると、杉田氏は「総務大臣政務官なのでコメント差し控える」と答弁を拒否。参議院の政治倫理・選挙制度に関する特別委員会で「LGBTは生産性がない」寄稿について謝罪と撤回を求められると、「不快に思われた方がいたなら、重く受け止めている」と言い、謝罪と撤回を拒否した。

むしろ問題発言を重ねる

そして11月30日の参議院予算委員会では、性暴力被害者に対する「女としての落ち度があった」との発言や、この件に関するTwitterの侮辱投稿へ何度も「いいね」を押した問題。性被害者について「女性はいくらでも嘘をつける」と発言した件、さらに「女性差別というものは存在しない」「男女平等は絶対に実現しない、反道徳の妄想」「LGBT支援なんかいらない」「弱者ビジネスに骨の髄までしゃぶられてしまう」「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。日本国の恥さらし」など、数々の発言についての問題が追及された。

しかし、杉田氏はほとんどの発言について頑なに謝罪・撤回を拒否。むしろ「女性として落ち度があった」と発言した件については、検察が不起訴としていたことから「当時は性暴力というのはなく、性暴力被害者というのも存在しない」などと発言。「女性差別は存在しない」という発言の意図は、「命に関わるひどい女性差別は存在しない」という意味だったなどと問題発言を重ねた。

「男女平等は絶対に実現しない、反道徳の妄想」についても、「当時は別の政党に所属していたから」などと言い訳をし、「LGBTは生産性がない」「LGBT支援なんかいらない」「弱者ビジネスに骨の髄までしゃぶられる」などについても、「当時から差別する意図はない」と、全く回答になっていない答弁ではぐらかした。

「チマチョゴリやアイヌの民族衣装のコスプレおばさんまで登場。日本国の恥さらし」についても明らかにヘイトスピーチと言えるものだが、「当時、一般人だった私がこのような感想を持つのは仕方がない」などと答弁した。

国会での質疑やメディアではあまり触れられないが、杉田氏は日本軍「慰安婦」の問題についても、過去に著書で「慰安婦像」を「建つたびに、一つひとつ爆破すればいい」などと述べ、「慰安婦」について扱った共同研究について「日本の国益を損なう反日研究」などとSNSに投稿している点も追及されるべきだろう。

擁護する岸田首相の矛盾

いずれにせよ、これまであげた発言だけでも十分議員を辞職すべきレベルのものだが、むしろ政府の要職に就いてしまっている現状は、明らかに“特異”な状況だ。

国会では杉田水脈氏の登用について、岸田首相の任命責任が問われたが、首相は「任命責任については、この人事は適材適所ということであります」と答弁。さらに、岸田内閣が「多様性」を尊重するという方針を掲げており、「内閣の一員である以上、この方針に従ってもらわなければならない」とする一方で、「以前の言動については、政治家として本人が説明責任を果たすべき」と答弁した。

マイノリティの人権を侵害し、差別や問題発言を繰り返すような人物が「適材適所」と捉えられていること自体が問題だが、岸田首相の論理においても、杉田氏は総務大臣政務官として不適格であると言える。

岸田政権が「多様性の尊重」を掲げ、その方針に従う必要があるのであれば、杉田氏の過去の発言内容は明らかに「問題」であり、謝罪・撤回しなければその「差別的な考え」は変わっていないということになる。これは政策に影響する可能性が大いにあり、つまり内閣の方針に従っていない。

さらに、過去の発言は本人が説明責任を果たすべきだ、というが、杉田氏は頑なに謝罪撤回をせず、はぐらかすような答弁を続けている。全く説明責任を果たしていないため、岸田首相の論理にあてはまらない。

政権の掲げる方針に従わず、説明責任を果たしていないような人物を政府の要職に登用しているのは岸田首相だ。まさに政権の任命責任の問題であり、岸田首相が自ら主張する論理に従えば、杉田氏はすぐに更迭されなければならないだろう。

たかが「言葉」じゃない

杉田氏の過去の発言が何度も取り沙汰されると、「野党はいつまで杉田氏を吊るし上げるのか」といった批判が起きる。筆者も“同感”だ。こんな人事がまかり通って良いわけがなく、国会で「政策」の審議をするためにこそ、岸田首相は即座に杉田氏を更迭すべきだろう。

「杉田氏をやり玉にあげても根本的な問題は解決しない」という意見もある。これに対しては、むしろ「杉田氏すら罷免しない/できないような政権が、ジェンダー平等や性的マイノリティの権利を保障するとは到底考えられない」と言える。

「たかが過去の発言を、そこまで追及すべきなのか」と思う人もいるだろう。しかし、これは単なる言葉の問題ではない。

政治家が何度も差別や問題発言を繰り返し、何のおとがめもなくむしろ出世できてしまうという今の状況は、「これくらい言っても良いのだ」と、社会全体の差別発言に対する「許容範囲」を広げてしまう。

差別を受けるマイノリティの立場にとって、一つひとつの言葉は命や生存、尊厳に関わってくる問題だ。これらを放置することは、社会の差別を温存し、むしろ助長する効果をもたらしてしまう。

これは、すでに「また杉田氏の発言の問題か」という前述のような印象を広げている時点で、差別発言への“慣れ”を生み出してしまっており非常に問題だ。

杉田氏の総務大臣政務官という立場は、「行政施策の評価」や「統計」などを担当している。また、国会でも言及されていたが、SNSにおける誹謗中傷対策のキャンペーン「#NoHeartNoSNS」を管轄しているのは総務省だ。

性暴力被害者を侮辱する投稿に何度も「いいね」を押すような人物が、こうしたキャンペーンを管轄する立場にいることは明らかに問題で、誹謗中傷の防止ではなく、むしろ助長することに繋がりかねない。

「統計」については、「ジェンダー平等」も多数関わってくる。5年に一度実施される「国勢調査」では、同性カップルがパートナーとしてカウントされない問題などがある。

「男女平等は絶対に実現しない、反道徳の妄想」「LGBTは生産性がない」などと発言しているような人物がこれを管轄しているとなると、統計に大きな悪影響を及ぼされる可能性がある。

政府の要職に就くような人物が、「女性はいくらでも嘘をつける」「女性として落ち度があった」など、過去に何度も性暴力被害者に対するセカンドレイプとも言えるような発言を繰り返すことは、総務省だけでなく、行政の性暴力被害の問題に対する姿勢そのものの信頼を低下させるだろう。

岸田政権が掲げる「多様性の尊重」は、差別や問題発言を重ねる杉田氏が政府の要職に居続ける限り、「信用」することはできない。都合の良い言葉だけであり、実際には尊重するつもりがないと思わざるを得ない。

政権の人権・差別の問題「軽視」を象徴

すでに岸田政権では、旧統一教会との関係が指摘された山際大志郎・前経済再生担当大臣が辞任、「法務大臣は死刑のはんこを押す地味な役職だ」と発言した葉梨康弘・前法務大臣が更迭、そして杉田氏と同じ総務省の寺田稔・前総務大臣は「政治とカネ」をめぐる問題で辞任している。

これらの人々が辞任する一方で、杉田氏が更迭されないのは、政権が「人権」や「差別」の問題を軽視していることにほかならない。

上からの指示で「LGBTは生産性がない」などの発言を謝罪・撤回した杉田氏だが、「表現を取り消し」ても、マイノリティの人権を侵害した事実は無くならない。また、前述のように差別や問題発言は他にも数多くあり、「LGBT」発言のみを撤回すれば良いわけではない。

繰り返しになるが、これは本来、議員を辞職すべきような人物を政府の要職に登用している岸田政権の任命責任の問題であり、首相はすぐに杉田氏を更迭すべきだ。

一般社団法人fair代表理事

愛知県名古屋市生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、GQやHuffPost、現代ビジネス等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。著書に『あいつゲイだって - アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など

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