東京都足立区の自民党・白石区議の「同性愛広がると足立区が滅びる」発言の撤回から1週間。今度は埼玉県春日部市議会での差別発言が共同通信で報じられた。

先月18日の春日部市議会で、パートナーシップ制度を求める請願に対し、無所属・井上英治市議が反対意見の中で、「LGBTへの差別など市内に存在しない」「小学校や中学校でレズビアンやゲイについて教える必要はない、もっと分数とか英語とか勉強することがある」などと発言した。

LGBTへの差別は市内に存在しない

全国60以上の自治体で導入されているパートナーシップ制度。春日部市では導入されていないが、LGBTの当事者らが同制度の導入を求めて提出した請願についての採決が、先月18日に春日部市議会行われ、賛成多数で採択された。

しかし、これに反対した無所属・井上英治議員は、議会で「LGBTへの差別など市内に存在しない」などと発言した。

井上市議は「この請願は差別を解消して欲しいと言いながらも、教育委員会のいじめ相談窓口や法務局の人権相談制度を活用もせず、市内には存在しない差別があると言っています」

「(性的マイノリティへの差別は)春日部市には存在しないことが明らかになっています。請願の理由は存在していないのです」などと、春日部市に性的マイノリティに対する差別はないと主張。

さらに、「(同性カップルが)入院同意を断られるとか、現行の公正証書で解決できる事柄をあたかも大問題かのように取り上げ、制度制定を求めています」と述べた。

「差別はない」の欺瞞

なぜ「春日部市内には差別はない」などと言い切れるのだろうか。

今回パートナーシップ制度導入の陳情を行った「レインボーさいたまの会」も井上市議の発言を「看過できない」と声明を発表。

LGBT法連合会が提示する性的マイノリティの直面する「困難リスト」を、「井上市議は一読したことがあるのだろうか」と疑問視し、「根拠を提示せず『春日部市に存在しない差別だ』と主張していること」に抗議した。

連合が行った調査では、職場でLGBTに関する差別的取り扱い(解雇や退職勧奨など)を見聞きしたことがあるLGBTの当事者やLGBTを身近に感じている人は約4割、性的指向や性自認に関するハラスメントについては約6割にのぼっている。

井上市議は「法務局の人権相談制度を活用もせず」と述べているが、確かに法務省人権擁護局の2018年度における「人権侵犯事件」の救済手続きが開始した件数は、性自認に関するものが12件、性的指向が5件だった。

しかし、この人権相談窓口を一体どれだけの人が知っているだろうか。その一方で、厚労省の補助金事業の電話相談窓口「よりそいホットライン」のセクシュアルマイノリティ専門ダイヤルへの電話数は、2018年度で約3万件にも及んでいる。

埼玉県も今年1月にLGBTに関する意識調査を実施。回答者の約1割が「性的マイノリティが、職場・学校において嫌がらせをされたり、からかわれるといった事例が実際に起きている」と回答している。

「春日部市内には差別はない」などと言うことは到底できないだろう。

「あたかも大問題かのように」という差別意識

また、井上市議の発言の中にあった、同性カップルが「入院同意を断られる」といったケースについて「現行の公正証書で解決できる事柄をあたかも大問題かのように取り上げ」と発言した点も非常に恣意的だろう。

実際に、同性パートナーが新型コロナウイルス感染の疑いで別の病院に移った際、「家族ではないから」と転院先の病院を教えてもらえなかったなどの事例が報道されている。緊急時に病院で家族として扱われないことが「あたかも大問題かのように」というのは差別意識がにじんでいる。

「公正証書で解決できる」と言うが、そもそも異性カップルであれば家族として扱われ、なぜ同性カップルはお金もかかる公正証書を発行しなければならないのだろう。まさにこれこそが「不合理な差別」と言えるのではないか。

レズビアンやゲイを教えるより分数や英語を教えるべき?

さらに井上市議は、教育についても「小学校や中学校の子どもたちに、レズビアンやゲイを教える必要はありません。子どもはもっと分数とか英語とかもっと勉強することがたくさんあります」と発言。

なぜ、多様な性のあり方と分数や英語を比べる必要があるのか、どれも教える必要があるのではないだろうか。

いじめに悩む性的マイノリティの子ども・若者も多い中、単なる偏見でこうした多様な性のあり方に関する教育を制限しようする発言は極めて悪質で問題がある。

これだけでなく、井上市議は今回の請願について「(請願の)狙いは明らかにLGBT条例の実現、選択的夫婦別姓、同性婚(という)憲法違反の実現」だと述べた。

LGBT条例というものがそもそも何を指すのかは述べられておらず、さらに同性婚を「憲法違反」とも発言している。憲法24条は同性婚を「禁止」はしていないというのが通説で、日本政府も憲法が同性婚を禁止しているという見解はとっておらず、あくまでも「想定されていない」という考えに留まっている。

事実に基づかない偏見

足立区の白石区議は、20日に自身の差別発言を撤回・謝罪したばかりだ。今回の井上市議にも共通する問題は、まず事実として適切な情報を元にしておらず、単なる偏見によってマイノリティをおとしめようとする発言だということだ。

「差別は存在しない」などを言い切れること自体が、この問題を全く理解・認識していないことを表している。社会の差別や偏見に直面するマイノリティの困難を理解しようともしない姿勢は、政治家として極めて問題だろう。

足立区の白石区議の件を報じた際も同じことを書いたが、こうした差別的な考え方の人物が、この程度の知識で議員を務められてしまう現状に強く憤りを覚える。

このような議員が教育に関する政策について「レズビアンやゲイを教える必要はない」などと語ること自体、いじめ被害に悩むLGBTの当事者をさらに追い込むような行為だ。

井上市議の発言の中盤では、同性婚は共産主義に繋がるという点を延々と述べられていた。イデオロギーについて論じることは自由だが、性的マイノリティの当事者にとっては、社会に残る根強い差別によって困難に直面する課題であり、一人ひとりの生活や命に関わる切実な問題だ。

議員が、議会という場で、性的マイノリティの課題について「大した問題ではない」「差別は存在しない」などと勝手に決めつけることは、少なくとも政治を行う立場として極めて悪質で、辞職すべきレベルではないかと考える。

政治家の差別発言、いつまで続くのか

足立区の白石区議の差別発言を擁護する声には、「高齢者だから理解がなくてもしょうがない」「そんなに叩かなくても良いのでは」という声が挙げられていた。

確かに適切な認識を持たない一般市民の高齢者が差別発言をしてしまった場合は、問題を指摘しつつ、できるだけ丁寧に憶測や偏見を解いていきたいと思う。しかし、足立区の白石区議や今回の井上市議は、性的マイノリティの市民の生活に直接的に関わる「議員」という立場だ。到底許されるものではないだろう。

さらに、現実に生きている性的マイノリティについて、そもそも理解しようとも、会おうともしない、偏見による差別発言を垂れ流すような議員に、いつまで性的マイノリティの当事者は「私たちはここにいます、私たちのことを理解してください」とお願いに回らなければならないのだろうか。

いつまでこの”お願い”を続ければ、少なくとも事実や適切な認識をもとに発言をしてくれるのだろうか。政治家であれば、憶測で発言をする前に、実際に当事者と会って、その生活実態や困難を抱える声に耳を傾けるべきではないだろうか。