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名古屋市がパートナーシップ制度導入へ。全国に広がる自治体の動き、進まない同性婚の法制化

松岡宗嗣一般社団法人fair代表理事
(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

名古屋市が「パートナーシップ制度」を2021年度に導入する方針を発表した。

自治体が性的マイノリティのカップルの関係を公的に認証する「パートナーシップ制度」。9月1日時点で59の自治体で導入されており、制度を利用するカップルの数は、今年6月時点で1000組を超えた

人口約230万人の名古屋市で導入されることは非常に画期的であり、名古屋市出身でもある筆者としても歓迎したい動きだ。しかし、政令指定都市という枠組みで見ると、実は今回の発表は遅すぎると言える。

政令指定都市では、すでに札幌市、福岡市、大阪市、千葉市、堺市、熊本市、北九州市、横浜市、新潟市、さいたま市、相模原市、浜松市、京都市、岡山市、川崎市で同制度が導入されている。

今月11日には、東北ではじめて青森県弘前市が導入を発表するなど、パートナーシップ制度導入は全国的にますます広がりを見せている。

「自治体にパートナーシップ制度を求める会」作成(Twitter@partnership_)
「自治体にパートナーシップ制度を求める会」作成(Twitter@partnership_)

パートナーシップ制度は結婚ではない

よく「渋谷では同性カップルでも結婚できるんだよね」と聞かれることある。

日本では同性婚が認められていないため、法律上同性のカップルは結婚することができない。

パートナーシップ制度は、自治体が性的マイノリティのカップルをパートナーとして認める制度だ。あくまで”認証”にとどまるため、相続などの法的な効果は発生せず、婚姻とは異なる。

ただ、特に地方では性的マイノリティがカミングアウトすることは難しく、”いないもの”として扱われやすい。そんな中、自治体がパートナーシップ制度を導入するということは、行政が性的マイノリティの当事者の存在を認めるという点でも、非常に重要な制度と言える。

法的な効果はなくても、パートナーシップ制度の広がりを受けて、住宅購入の際の共同ローンや生命保険の保険金受取人を同性パートナーに指定できるようにするなど、企業の取り組みも進んでいる。社内規定を変更し、同性パートナーを配偶者として扱い福利厚生を適用する企業も増えてきている。

導入自治体の増加、求められる”実態”

2015年に渋谷区・世田谷区で初めてパートナーシップ制度がスタートしてから、導入自治体数は3年で「9」と微増だった。

しかし、2018年からは当事者らが自治体にパートナーシップ制度導入を求める陳情書や請願書を一斉に提出するアクションを起こし、2019年で31自治体、2020年9月時点で59自治体と急増している。

また、昨年10月には東京都渋谷区が、同性カップルの区職員に慶弔休暇や介護休暇などの福利厚生を適用することを発表した。

さらに、今年に入って豊島区は、「子の看護のための休暇」や「出産支援休暇」など、出産・育児関係も含めた7つの休暇制度を利用可能とし、世田谷区や文京区も同様の取り組みを行なっている。

また、鳥取県ではパートナーシップ制度を導入していないが、県職員の同性カップルにも福利厚生を適用することを認めた。

一方で、東京都では同性カップルへの福利厚生が適用されないことに対し、同性のパートナーがいる都職員が改善を求めたが、東京都はこれを却下した。都は2018年に条例で性的指向や性自認による差別禁止をうたっているにもかかわらず、差別的な取り扱いを続けている。

今年7月に行われた都知事選では、主な候補者4名のうち、小池都知事のみがパートナーシップ制度の導入を明言しなかった。

全国的なパートナーシップ制度導入の広がりに加えて、性的マイノリティのカップルの存在を”認証”するだけでなく、実態として異性カップルと同等に扱う動きの広がりも求められている。

そもそも「同性婚の法制化」を

そもそも同性婚が認められていないため、どれだけパートナーシップ制度の導入が広がっても、同性カップルは法的な権利を得ることはできない。逆に言うと、パートナーシップ制度が全国の自治体に広がれば、同性婚を法制化するための大きな後押しとなる可能性はある。

昨年2月には、同性婚を認めていない現行の民法は憲法違反だとして、複数の同性カップルが国を相手取り「結婚の自由をすべての人に訴訟」を起こした。しかし、国はこれに争う姿勢を示している。

一方で、厚生労働省が委託して行われたLGBTに関する職場実態調査によると、企業が国や自治体に求めることとして一番多かった回答が「ルールの明確化」だった。

国が同性婚を認めないために、自治体は「パートナーシップ制度」を導入し、企業も配偶者の定義を広げるなど、制度設計に苦慮しながら、同性パートナーへの福利厚生などを適用している。

同性婚が法制化されれば、こうした苦慮をしなくても、日本全国で同性カップルの関係性が保障され、制度が利用できるようになる。先の委託調査はこのような状況を表したものとも考えられるのではないだろうか。

約7年半の安倍政権から菅政権へと移行したが、政権が変わっても同性婚を認めないというこれまでの国の姿勢は引き継がれるのだろう。同性婚訴訟の判決や、パートナーシップ制度が全国に広がりきる前に、同性婚は法制化されるのだろうか。

一般社団法人fair代表理事

愛知県名古屋市生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、GQやHuffPost、現代ビジネス等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。著書に『あいつゲイだって - アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など

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