批判殺到の「噛まれたら同性愛感染」映画、問題点は?上映停止を求める声も

筆者スクリーンショット撮影(作成)

噛まれると同性愛者に目覚める、同性愛は快楽で異性愛が本当の愛ーー。今月14日から公開された同性愛蔑視を含む映画「バイバイ、ヴァンプ」に対し、上映停止を求める声が上がっている。

「町中が同性愛者になってしまう」差別的な表現の数々

映画の設定は、ヴァンプと呼ばれる吸血鬼に噛まれた人間が「同性愛に目覚める」というもの。劇中では「同性愛は快楽で、異性愛が本当の愛」と表現され、同性愛への”感染”が町中に広がりかけるところで、最終的に主人公が吸血鬼を改心させ、同性愛に”走った”人たちが元に戻るというストーリーだ。

筆者も映画を確認した所「学校中、町中が同性愛の街になってしまう」「同性愛に走るわけにはいかない」「あいつは正真正銘のホモだ」「俺は死んでもソッチにはいかない」「尻を狙われている」「(女性同士のキスに対して男子生徒が)レズっていいよな」など、偏見に満ちたセリフの数々だった。

そもそも、噛まれると同性愛に"目覚めて"しまう、それが”感染”していくという設定自体、同性愛に限らず、人種や障害など、社会的マイノリティの属性をあてはめてみると、いかにこれが差別的であるかが見て取れる。

さらに、お笑い芸人のゴリさんが演じる同性愛者の教師役が、銭湯で嫌がる生徒に身体を密着させるシーンや、男性器を強調させるシーン、女装をした生徒に向かって「お前キンタマぶらさがっているのか」「今すぐ脱げ」など露骨なハラスメントが描かれるシーンもあった。

吸血鬼に噛まれ、同性愛に”走った”人間は、突然同性同士でキスや身体を交わらせる演出がされ、同性愛者を性的な快楽のみを求める存在として描かれている。

公開停止の判断はなし

予告編が公開されると、性的マイノリティの当事者を中心に多くの批判的な声が寄せられた。(現在は公式サイトから予告編は取り下げられている)

「この作品はあくまでフィクション、コメディである」と作品を擁護する意見もあるが、長い間、広辞苑でも同性愛は”異常性欲”と説明されてきたように、メディアで同性愛は嘲笑の対象として描かれてきた。

未だ多くの当事者はカミングアウトが難しい現状であり、ゲイやバイセクシュアル男性は、異性愛者の男性と比べて自殺企図率が約6倍という調査もある。当事者を追い込む要因の一つにこうしたメディアの差別表現があるだろう。単に偏見を助長する映像が公開されることには憤りを感じざるを得ない。

上映停止を求める署名キャンペーン

現在、映画の上映停止を求める署名キャンペーンが立ち上がっている。発起人の高校生、今田恭太さんは、これまで様々な差別に悩み、傷ついてきたという。予告編をみて「悪寒を覚えました」と語る。無意識の嫌悪や差別の根底には「同性愛に対する間違った認識がある」とし、「この映画が放映されることが怖くなりました」と話した。

今田さんは映画の公開停止を求めているが「人を傷つけかねない部分を含む箇所を一部編集して再放映することも一つの可能性」だと訴える。

16日に、映画公式サイトから「同性愛を差別する作品ではない」とコメントが発表されたが、何が問題なのかを全く認識していないものであった。さらに、17日に放送されたAbemaTV「AbemaPrime」で、本作エグゼクティブディレクターの吉本暁弘さんは「コメディなのだから肩の力を抜いて」「(同性愛を)面白おかしく見てほしい」などと発言。

「愛には様々な形がある」と一見肯定しているように見せかけて、同性愛は愛ではなく性欲だと位置付け、ホモネタ等で嘲笑するような脚本や演出には「差別の意図」の有無にかかわらず、観た人への偏見を植え付け差別を再生産していく可能性がある。むしろこうした悪気のない無意識の偏見こそが問題なのではないか。

現在のところ、映画の上映停止や中止といった判断はされていない。

行政が侮蔑的な映画に「協力」

映画のロケ地である茨城県猿島郡境町が「協力」として公式パンフレット等に掲載されている。劇中では境町役場も使用されており、多くの一般市民も映っている境町で開催された花火大会については、同性愛への感染が広がる場面として使用されている。

茨城県には昨年4月から条例で性的指向や性自認に関する差別を禁止しており、これは表現を規制する条例ではないが、行政が差別的な作品に加担してしまっているという状況には問題があるだろう。

先月末に開催された映画完成披露試写会では、境町長や境町観光協会会長が登壇し挨拶をしている。まず企画や台本を見た時点で何も問題は感じなかったのか。今後「協力」表記を取り下げるといった対応はしないのだろうか。

境町観光協会の担当者は、台本や内容は事前に確認したが、差別の意図はないと語る。「協力」を下げるかどうかについては「お答えできない」とした。

本作は、映画倫理機構の審査を「全年齢対象」として通過している。機構の映画倫理綱領には「社会的弱者および少数者の権利を尊重する」とあるが、審査基準に疑問が残る。取材に対し映画倫理機構は「一つ一つの作品の審査については答えられないが、作品の審査基準自体については委員会で議論し更新していくことはある」と語った。

全国7つの映画館で公開されている本作だが、既に上映している東京のユナイテッド・シネマや、21日より公開予定のHUMAX CINEMAは「個別の事案については回答できない」とした。

誰も問題に気づかなかったのか

2017年にはフジテレビの番組で「保毛尾田保毛男」という同性愛を揶揄するキャラクターが再登場したことで多くの批判を集め、最終的にフジテレビの社長が謝罪するに至った。

この映画には、制作や配給会社、タレント事務所、協力した行政や上映館など、多くの人たちが携わっているが、こうした昨今の性的マイノリティの表現をめぐる”炎上事件”について触れたことはなかったのだろうか、誰もこの映画の表現に疑問を持つことはなかったのか。

近年はLGBTに関する社会運動の広がりや認識の変化から、性的マイノリティを肯定的に描いたり、未だ根強く残る差別や偏見について考えさせられるようなドラマや映画など、様々なコンテンツが生み出されるようになってきている。

そんな中で、既存の偏見や差別をそのままに再生産するような映画が2020年に公開されてしまったことに驚きを隠せない。映画はこのまま上映を続けられてしまうのだろうか。