同性婚訴訟から1年、「想定していない」国はいつまで言い訳を続けるのか

婚姻の平等を求めて複数の同性カップルが全国で一斉に提訴した「結婚の自由をすべての人に」訴訟の提起から今日で1年。「同性婚」の法制化の機運は高まっていると言えるだろうか。

札幌、大阪、東京、名古屋に、昨年9月福岡地裁が加わり5つの地裁で訴訟は進行中。さらに昨日、東京地裁で新たにトランスジェンダーのカップルが追加提訴することが発表された。各地裁によって進行は異なるが、来年の春頃から地裁判決が出始めると言われている。

一貫して国側は、憲法は同性カップルの結婚を「想定していない」ため、民法で同性婚を認めていないことは憲法違反ではないという主張を繰り返す。さらに、婚姻制度は「子どもをつくるための制度だ」と言う主張まで繰り出され、異性カップルであっても、子どもを持てない/持たない人々がいることや、同性カップルでもすでに子育てをしている人たちの存在を無視し、多くの批判を呼んだ。

筆者が傍聴した東京地裁の弁論期日で、原告代理人の質問に対して、国側の代理人弁護士はただひたすら「(同性婚は)想定されていない」と一つ覚えのように繰り返していた。もはや合理的な反論をすることはできないと宣言しているように見えた。

東京地裁の裁判長、原告カップルの陳述は「邪魔だ」

弁護団によると、各地の裁判官がこの訴訟にのぞむ態度はバラバラだ。特に東京地裁の裁判官は、憲法に関する議論は抽象的なものなので、原告カップルの陳述は「夾雑物(邪魔)」と言ったという。一人ひとりの同性カップルの話を聞かなくても、自分は実態をわかっていると言わんばかりのような態度に憤りを覚えた。一方で、札幌地裁の訴訟は、裁判官の訴訟に対する姿勢が真摯で、他の地裁より進行も早いという。

どこか一つの地裁で「違憲」判決が出ることを期待したいが、一般に憲法訴訟は、地裁・高裁で違憲判決を勝ちとる見込みは高くない。東京弁護団共同代表の寺原弁護士は「最高裁で戦うための材料集めの側面もある」と語る。地方裁判所は訴訟中の5地裁以外にも、各都道府県に設置されている。

提訴して1年が経ったが、まだまだ同性婚法制化への道のりは序盤だ。

世論と国会の情勢は

同性婚に対する世論は変化しているか。

2015年の国立社会保障・人口問題研究所らの調査によると、同性婚賛成は約5割だった(2~30代に限定すると約7割が賛成)。単純に比較はできないが、昨年発表された「全国家庭動向調査」では、既婚女性のうち、7割が同性婚を法律で認めるべきと答え、電通によるインターネット調査では、約8割が同性婚に賛成している。

自治体のパートナーシップ制度の導入自治体は増え続け、今年2月時点で34になった。導入自治体の人口を合計するとそのカバー率は約2割だ。1月末に大阪府でも同制度が導入されたが、吉村府知事は「同性同士も婚姻できるよう、本来は国がきちんと整備するべきだ」と述べている。国が同性婚を法制化すれば、法的効果のないパートナーシップ制度は不要になるだろう。

国会での議論はどうか。

1月20日に始まった今国会の代表質問で、安倍首相は同性婚について、現行憲法下では同性カップルの婚姻は想定されておらず、極めて慎重な検討を要する、と従来通りの回答を繰り返した。さらに30日の参院予算委員会でも、ゲイを公表している石川大我議員の同性婚に対する質疑に同じように回答した。

同性婚は憲法で「禁止されている」の嘘

未だ根強く残っている同性婚と憲法の関係性に対する誤解の一つとしてあるのが、憲法24条1項にある「両性の合意」は男女のことを指しているから、同性婚は”禁止されている”のではないかというものだ。

そもそも憲法は拷問の禁止のように、禁止するものは「禁止」と明確にしている。憲法ができた1946年当時、世界で同性婚を法制化している国はどこにもなかった中で、確かに同性カップルの結婚を想定することは難しいだろう。「両性の合意」は、それまで結婚は家長によって決められていたものを、当事者二人の合意でできるものとするために明記されたもので、これは同性婚について何も規定していない。

同性婚は想定されていないーー。これに対する反論はシンプルだ。同性カップルは実在しており、想定すれば良い。訴訟を通じて問われているのは、憲法制定時に想定されていなかった(いたけれど見えなかった)人々が「見える」ようになった、その存在を無視し続けるのか、しないのかだ。

その答えは明白だろう。いまや世界では約28の国と地域で同性婚が法制化され、国内でも34の自治体でパートナーシップ制度が導入されている。もう同性カップルの存在は「想定されていない」という言い訳は通用しない。

憲法14条は法の下の平等をうたっており、異性間にのみ婚姻の自由が保障されているのは不合理な差別だ。憲法24条1項の「婚姻の自由」は、むしろ同性カップルの婚姻も保障していると言えるのではないか。

憲法は同性婚を禁止していないということは、婚姻に関する民法を改正すれば、同性婚は可能になる。すでに昨年6月、野党が婚姻平等法を国会に提出している。与党がこの法案の議論に応じれば、今国会でも同性婚を法制化することはやろうと思えばできるのだ。

同性婚が憲法改正論のエサとなる可能性

自民党は、憲法改正論の中で「同性婚」を論点の一つとして提示するようになってきている。これは一見喜ばしいことのように見えるが、注意が必要だ。なぜなら、同性婚が他の論点を隠しながら憲法改正への意識を向けるための「エサ」として使われてしまう懸念があるからだ。

昨年、自民党の下村博文衆議院議員が、憲法改正の対象となり得る議論のテーマの一つとして同性婚を挙げ、自民党女性局は先月、憲法改正に関する冊子の中で同性婚を認めるアイルランド憲法などの例を紹介した。

もし、本気で同性婚を法制化する気があるのなら、憲法改正論ではなく、上述した通り、今すぐ野党の提案した婚姻平等法を審議すれば良い。そもそも自民党の提案する憲法改正草案の24条では、異性愛を前提として「家族」の責任や規範を今より強化する内容となっている。これは同性婚の法制化をむしろ今より遠ざける内容ではないだろうか。

つまり、「本当は同性婚を法制化する気はないが、憲法改正論に目を向けさせるためのエサとして同性婚が使われてしまっている」と思われても仕方がない状況だ。

ただ、自民党内でも同性婚に対する意識は変わってきていると言える。昨年の参院選で、自民党候補者のうち同性婚”反対”の割合は、2017年時点で6割だったのが昨年は4割弱に減った。(賛成は未だ9%と著しく低いが)

「LGBTは生産性がない」という文章や、今年も「結婚しなければいい」というヤジで批判を集める杉田水脈衆議院議員をはじめ、同性婚反対の議員の声は根強い。一方で、森法務大臣は、30日の参院予算委員会で、同性婚について「私は決して否定的なことを言っているのではなくて、国民的な議論を国会でもしてもらいたい」と必ずしも反対ではないことを滲ませている。さらに小泉環境大臣も国会での同性婚の議論を歓迎している。党内でも意識は変わりつつあるのではないか。

国はいつまで言い訳を続けるのか

「結婚の自由をすべての人に」訴訟の最高裁判決が出るのは2023年頃と予測されている。もちろんその前に国会で同性婚が法制化されれば、最高裁判決を待たず婚姻の平等を実現できる。しかし、今の政治状況を見るとその歩みは遅い。

世界を見渡してみると、もはやLGBTの当事者が国会議員になるのではなく、フィンランドのように、同性カップルに育てられた子どもが首相になるような国が出てきている。

世界から注目を集める2020年のオリンピックイヤー。前回2016年のリオ五輪では、LGBTの選手が50人以上と過去最多だった。ラグビー女子選手の同性カップルによる表彰式後のプロポーズも話題となった。

国はいつまで同性カップルの結婚を「想定していない」と言い訳をし続けるのだろうか。

(写真は筆者撮影)