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強豪国の国際大会がアメリカで開幕。パリ五輪前哨戦でなでしこジャパンが挑む2つのタスク

松原渓スポーツジャーナリスト
パリ五輪に向けてハイレベルな戦いに挑む(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

【パリ五輪に向けた重要な実戦の場に】

 なでしこジャパンが毎年参加してきた4カ国対抗戦「SheBelieves Cup(シービリーブスカップ)」が、4月6日からアメリカで行われる。

 この大会は、毎年春にアメリカで開催される国際親善試合で、FIFAランク上位の強豪国が集結し、ハイレベルな激闘を繰り広げてきた。アメリカは女子サッカー人気が非常に高く、代表戦は2万人近い観客が入る。

 今大会の出場国はアメリカ(FIFAランク4位)、日本(7位)、カナダ(9位)、ブラジル(10位)の4カ国で、いずれもパリ五輪に出場が決まっている。

 日本は、今年2月に行われたパリ五輪アジア最終予選で朝鮮民主主義人民共和国との一騎打ちを制し、7月のパリ五輪出場権を獲得。3月21日に行われた組み合わせ抽選会では、グループCでスペイン、ブラジルおよび、CAF(アフリカ)女子五輪予選トーナメントを勝ち上がったチームと対戦することが決まった。

厳しいアジア最終五輪予選を勝ち抜いた
厳しいアジア最終五輪予選を勝ち抜いた写真:アフロ

 日本は2019年にシービリーブスカップに初参加し、過去3大会の成績は3勝6敗。池田太監督体制で臨んだ昨年大会は、ブラジル(0-1)、アメリカ(0-1)、カナダ(4-0)と1勝2敗だったが、得失点差で準優勝だった。

 池田監督はベスト8に進出した昨夏のワールドカップ後に、チームづくりの転機となった大会に昨年のシービリーブスカップを挙げた。3バックでの手応えをつかんだことが大きく、格上のアメリカ相手にもボールを支配し、最終戦で東京五輪王者のカナダに3点を奪って勝ったことで「本大会に向けて見通しが立った」(池田監督)と話していた。

2023年大会はW杯への転機となった
2023年大会はW杯への転機となった写真:REX/アフロ

 昨年までは4チーム総当たり形式だったが、今年からはトーナメントで2試合が行われる。中2日で時差を伴う移動があるため、パリ五輪と状況が似ている。

「移動してトレーニング、短い時間で次のチーム、対戦相手を分析して試合に向かう流れを体感できるのは、スタッフを含め、(五輪に向けた)いいシミュレーションになると思います」(池田監督)

 日本の初戦は、米南東部のジョージア州アトランタにあるメルセデス・ベンツ・スタジアムで行われ、アメリカ女子代表と対戦する(日本時間7日1:37キックオフ)。その後、中2日で米中東部のオハイオ州コロンバスに移動。Lower.comフィールドで、カナダかブラジルと対戦する(日本時間5:07キックオフ)。

 池田監督はメンバー発表の場で、今大会の目的と、五輪までの展望についてこう語った。

「五輪に向けてやれることを増やしていく積み上げを進めなければいけないし、同時に、限られた人数で戦う部分の(メンバーの)見極めも含めて、シービリーブスカップと5月末の活動(海外遠征)の両方を総合的に考えていきたいです」

写真:森田直樹/アフロスポーツ

【メンバー22名から、五輪では18名に】

 今回選出されたメンバーは22名で、国内組(WEリーグ)から9名が選ばれた一方、海外組が13名と過半数を占める。欧州組は11名。アメリカからは、NWSL(米女子プロサッカーリーグ)のポートランド・ソーンズでプレーする杉田妃和と、ミシシッピ大でプレーするGK大場朱羽が招集された。

 日本はワールドカップ以降、4-3-3と3-4-3のフォーメーションを併用してきた。

 杉田はチームでも代表でも、中央でプレーする機会が増えている。2月のアジア最終予選では出場機会がなかったが、「3バックでも4バックでも、後ろから押し上げながら、自分たちのペースでボールを動かしたい」(最終予選時のコメント)と話し、ベンチでもしっかりとチームの歯車を動かすイメージを描いていた。

杉田妃和
杉田妃和写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ

 ボランチは長谷川唯と長野風花のコンビがチームの軸だが、林穂之香も調子を上げている。また、最終予選で存在感を発揮した18歳の谷川萌々子も、今大会で強豪相手に力を発揮できるか注目したい。

 前線は田中美南、藤野あおば、植木理子の3人がファーストチョイスになりそうだ。一方、今大会で注目したいアタッカーの1人が、WEリーグで新記録となる7試合連続ゴール中と絶好調の清家貴子。左右両サイドでプレーでき、浦和では守備での貢献度も増している。代表では途中出場が多いが、流れを変える重要なピースになっている。レギュラー定着を目指す上で、重要な2試合となる。

清家貴子
清家貴子写真:西村尚己/アフロスポーツ

 また、今大会ではケガで代表から離れていた宮澤ひなたと浜野まいかが復帰。出場機会があるかはわからないが、攻撃をスピードアップしたい場面や、点が欲しい場面でピッチに立つかもしれない。

 サイドは、左ウィングバックの遠藤純が膝のケガで長期離脱しているが、最終予選でその穴を埋めた北川ひかるが今大会でも再招集。リーグで結果を出している上野真実も続けて招集されている。チームでの活躍と「代表で力を発揮できるか」は別問題だが、北川と上野に関しては、年代別代表からプレーしてきた選手が多く、連係はスムーズ。また、プレースタイルも他の選手と被らないため、チームに新たな風を吹かせている。その力を強豪相手にも発揮してほしい。

北川ひかる(左・右は長谷川唯)
北川ひかる(左・右は長谷川唯)写真:森田直樹/アフロスポーツ

 右ウィングバックは清水梨紗が不動の存在感を放っているが、リーグで好調を維持している守屋都弥も再招集。クロスの質が高く、国内では運動量もずば抜けている。五輪18枠に残るためには複数ポジションでプレーできることも重視されるため、今大会はセンターバックやウィングでの起用もあるかもしれない。

 守備陣では、最終予選で活躍したセンターバックの高橋はながケガで今大会は招集されていないが、熊谷紗希と南萌華の2人を軸に、リーグ首位(暫定)の浦和で急成長中の石川璃音(20歳)、最年少(18歳)の古賀塔子の若い2人に期待がかかる。

石川璃音
石川璃音写真:YUTAKA/アフロスポーツ

【パリ五輪に向けてチーム作りを進めるライバルたち】

 初戦で対戦するアメリカは、お馴染みのアレックス・モーガンやトリニティ・ロッドマン、マロリー・スワンソンらスターに加えて、20歳のコルビン・アルバート、16歳のリリー・ヨハネスら、若い実力者たちも招集されている。代表の新監督には、女子サッカー界で様々な金字塔を打ち立ててきたエマ・ヘイズ監督(現チェルシー監督)の就任も決まっており(シーズン終了後の6月から指揮を執る予定)、パリ五輪で王座奪還に向け、国を挙げて高いモチベーションで今大会に挑んでいる。

アメリカ女子代表
アメリカ女子代表写真:ロイター/アフロ

 カナダは昨夏のワールドカップでグループステージ敗退に終わったが、昨年12月以降の国際親善試合は6連勝を含む7試合負けなしと好調。うち6試合が無失点と、守備が堅い。守備の軸となるカデイシャ・ブキャナンを筆頭に、各ポジションに身体能力に秀でた選手が多く、昨年大会のリベンジも狙っているだろう。

 ブラジルとは昨年、3度対戦しており、結果は日本の1勝2敗。昨年12月の親善試合では、ブラジルはフォーメーションや選手の配置などを変えながらチームの底上げを図っていた。メンバーが変わってもスキルフルなプレーや局面のしたたかさなどの個人戦術の高さは変わらず、勝負どころを逃さない印象がある。

 チームの底上げとメンバー選考。2つの重要なタスクをこなしながら、強豪3カ国に結果を残すことができるだろうか。

 初戦のアメリカ戦は日本時間の4月7日(日)1:37キックオフ。JFA TVにてライブ配信される。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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