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アジア競技大会、サッカー日本女子代表が連覇達成!個の底上げを証明する大会に

松原渓スポーツジャーナリスト
北朝鮮との決勝戦に臨んだ日本女子代表(写真:ロイター/アフロ)

 中国・杭州で行われているアジア競技大会の女子サッカーで、日本女子代表が史上初の連覇を達成。決勝までわずか1失点と堅守を見せていた朝鮮民主主義人民共和国女子代表(北朝鮮)から4ゴールを奪い、4-1で快勝した。

 日本女子サッカーの底上げを証明する結果だ。今大会はパリ五輪予選を戦うなでしこジャパンの国際親善試合と日程が重なったため、日本は国内組・若手主体の即席チームで臨み、U-19女子代表の狩野倫久監督が指揮を執った。

 その中で、日本はグループステージを3連勝、23得点無失点の圧倒的な強さで首位突破。試合を重ねるごとに連係を積み上げ、ノックアウトステージではフィリピンと中国から計12得点を奪い、5大会連続の決勝進出を果たした。

 北朝鮮は、2017年にU-17W杯とU-20W杯で二世代でダブル優勝。A代表は東アジアE-1選手権で2013年から3連覇した強豪国だ。今大会は4年ぶりの国際大会復帰となったが、そのブランクを感じさせない強さで、準決勝では、なでしこジャパンが今月末のアジア2次予選で対戦するウズベキスタン女子代表を8-0で破っている。

 ただし、同国は、男子(U-22代表)が同大会の準々決勝でラフプレーを連発。女子の準決勝・韓国戦でも危険なプレーが見逃され、物議を醸した。海外からの批判の声も大きく、チームの空気にもそれは影響したかもしれない。

 笑顔の日本と、硬い表情の北朝鮮。試合前の両国の選手たちの表情は対照的だった。

 ただし、37,000人を超える観客が入ったスタジアムの雰囲気は、日本にとって超がつくほどのアウェー。その中で球際の強さを見せる北朝鮮に対し、日本は前半から押しこまれる時間も多かったが、「プレーは熱く、心はクールに」という指揮官の言葉を体現。

鮮やかなボレーシュートでGKの頭上を抜いた中嶋淑乃
鮮やかなボレーシュートでGKの頭上を抜いた中嶋淑乃写真:ロイター/アフロ

 前半10分、山本柚月の左足のクロスに、タイミングよく左サイドから抜け出した中嶋淑乃がワンタッチで合わせ、中国戦に続き先制。熱気あふれる会場に沈黙をもたらした。

 だが、その後も押される時間が続くと、39分にはビルドアップのミスからショートカウンターを受ける形に。最後は今大会11得点のキム・キョンヨンに決められ、試合は振り出しに戻った。

 その後は一進一退の攻防が続き、日本は粘り強い守備から千葉玲海菜や小山史乃観がしたたかにゴールを狙う。

 1-1で迎えた後半、日本は65分に勝ち越しに成功する。左コーナーキックを獲得し、谷川萌々子の質の高いキックに、交代で入った大澤春花が飛び込んでゴールネットを揺らした。

大澤春花(左)と谷川萌々子
大澤春花(左)と谷川萌々子写真:ロイター/アフロ

 さらに、69分には谷川が魅せる。エリア外で相手のプレスを鮮やかに切り返してかわし、しなやかな身のこなしからワンステップで左足を振り抜くと、カーブのかかった強烈なシュートが決まった。

 71分には千葉が裏に抜けてニアから強烈なシュートでゴールを撃ち抜き、4-1。

 終盤は猛攻を仕掛ける北朝鮮のラフプレーも目立ったが、チーム最年少の17歳のセンターバック・古賀塔子が大ピンチの場面でファインプレーを連発。守護神のGK浅野菜摘を含め、最終ラインで体を張って守り抜いた日本が勝ち切った。

4点目を決めた千葉玲海菜(一番右)
4点目を決めた千葉玲海菜(一番右)写真:ロイター/アフロ

なでしこジャパン入りを目指す選手たちがアピール

 粘り強い守備で流れを引き寄せ、少ないチャンスをものにする勝ち方は、今夏のワールドカップでなでしこジャパンが見せた戦いぶりにも重なった。

「このチームで3週間やってきて、このチームが大好きなので、みんなで(金メダル)取れて嬉しいです」

 試合直後のフラッシュインタビューで中嶋がそう振り返ったように、急造チームでも短期間でまとまれる協調性の高さは、カテゴリーを問わずなでしこの強みだ。

 何より、今大会の一番の収穫はなでしこジャパン入りを目指す選手たちが力強くアピールしたことだろう。

 ジャカルタで行われた2018年の前回大会は、日本は海外組を除く主力で臨み、ノックアウトステージはすべて1点差の接戦だった。今大会の日本は「なでしこジャパン」の呼称を使えないという制限もある中、代表の意地とプライドをかけて戦い、ノックアウトステージも3試合で16得点と圧倒的な攻撃力を見せつけて頂点に立った。

 今夏のワールドカップの結果を見ても、アジアのライバルである韓国や中国が足踏みしている感はある。だが、それを差し引いても、相対的に日本の個の底上げを感じさせる大会だった。やはり、国内リーグがプロ化された影響は大きいだろう。

若い選手たちも躍動した
若い選手たちも躍動した写真:森田直樹/アフロスポーツ

 10番を背負った塩越柚歩を筆頭に、中嶋、千葉、大澤、上野真実、脇阪麗奈ら、WEリーグで活躍する中堅世代の面々に加えて、小山や山本、天野紗ら、昨夏のU-20ワールドカップ準優勝メンバーも存在感を発揮。

 最終ラインで全試合に先発した古賀と後藤若葉の安定感は印象的だった。また、攻撃面では18歳の谷川が決勝でも1ゴール1アシストと、大器の片鱗を遺憾なく発揮。日本人離れしたフィジカルと両足の精度の高いキックを活かした展開力、強烈なシュートを持つ大型ボランチは、近いうちになでしこジャパン入りが有望視される。

谷川萌々子
谷川萌々子写真:森田直樹/アフロスポーツ

 今月末には、パリ五輪のアジア2次予選がウズベキスタンで行われる。そのチーム(なでしこジャパン)に食い込んでくる選手は現れるだろうか。10日のメンバー発表が楽しみである。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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