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WEリーグ・大宮に最年少指揮官がもたらす新たな色。「選手たちが感じるものを大事にしながらやりたい」

松原渓スポーツジャーナリスト
リーグカップで変化に富んだ戦いを見せる大宮アルディージャVENTUS(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 WEリーグカップは、大半のクラブが新体制で臨む初の公式戦だ。

 8チームが新監督を迎え、短期間でチーム作りの真っ只中。ここまで3試合を終えて、目を引く戦いを続けているのが大宮アルディージャVENTUSだ。

 WEリーグでは1年目は9位、2年目は6位と苦戦したが、3年目の今季は柳井里奈監督を迎え、初戦から変化に富んだゲームを見せている。

 まず、多彩な選手起用が目を引く。柳井監督はカップ戦3試合で22人を起用した。これは、昨年女王の浦和と並んで最多。特筆すべきは、そのうち21人をスタメンで起用し、積極的なチャレンジの中で新チームの骨格を鍛えていることだ。

 カップ戦はここまで1勝1分1敗。INAC神戸、ベレーザの上位陣に1勝1分でしっかりと勝ち点を積み重ね、2試合を残して決勝進出の可能性を残している。

柳井里奈監督(写真提供:WEリーグ)
柳井里奈監督(写真提供:WEリーグ)

 柳井監督にとって古巣でもあるINAC神戸との初戦は、相手の3倍超の15本のシュートを放って4-1で勝利。ジョルディ・フェロン監督新体制のINAC神戸がワールドカップ帰りの代表組を温存する中、34歳の指揮官は「簡単に後ろに下がるな」「失点しても前に行こう」と、アグレッシブな戦いを標榜。前半に3点を奪ってリードを広げ、後半は相手の変化に合わせてシステムを4-4-2から4-1-4-1に変えた。

 だが、これがはまらないと見るや、すぐに戻す。

「選手たちが感じるものを大事にしながらやりたい」と、選手と共に戦い方の最適解を探る柔軟な采配が功を奏し、INAC神戸に対して2021年のクラブ創設史上初勝利を飾った。

 一方、2試合目の埼玉戦は「リーグ戦に向けて多くの選手を起用したい意向をクラブに汲んでいただき、若いフレッシュなメンバーを起用した」(同)と初戦から8人を入れ替えて臨んだものの、0-2で敗戦。試合中の修正を試みるも、ゴールを奪うことはできず。柳井監督は「細かい部分をゲームの中で修正しきれなかった監督としての私の問題」と、結果を潔く受け止めた。

 そして、再び9人を入れ替えて臨んだ今月10日の東京NB戦は、昨年皇后杯女王に1-1。ボールを持たれる時間が長かったが、粘り強い守備でシュートコースを消し、約8カ月ぶりの公式戦となったGKスタンボー華が好セーブを連発。カウンターからFW井上綾香が決めた1点で、昨年の皇后杯女王と勝ち点1を分け合った。

 大宮は、他のチームに比べると昨年から選手の入れ替えが少なく、ここまでの3試合を見る限り、INAC神戸から加入したMF阪口萌乃、仙台から加入したFW船木里奈の2人も違和感なく溶け込んでいる。

 練習はポゼッション率を上げる戦い方を意図したメニューが多めで「パスのクオリティにはこだわっている」(同)という。INAC神戸戦ではその成果が見られたが、東京NB戦では一転、女子ワールドカップで日本がスペインを苦しめた堅守速攻を見せた。

「ボール保持率がすべてではないけど、8対2(で持たれる展開)はないよね、と伝えました。(理想は)6対4とか、(大宮)ベントスもつなごうとしているじゃん、という積み上げを見せたい」

 そう語る指揮官の根底にある理想は、「選手の長所を生かす」こと。戦術はそのための器であり、今後は個を伸ばすチームづくりにも期待が高まる。

【WEリーグ史上最年少の女性指揮官】

 2021年に始まったWEリーグでは、5人目の女性監督であり、WEリーグの指揮官では史上最年少(34歳)だ。

 JFA(日本サッカー協会)は女性指導者の育成を進めており、コーチやスタッフでも女性の数は増えている。一方、監督となると、WEリーグで1年以上指揮を執った者はいない。その事実からも、プロチームの監督という立場の難しさが感じられる。

 だが、柳井監督は指導者として培ってきた信念や言葉の力で、その壁に挑んでいる。

MF林みのりと柳井監督(写真提供:WEリーグ)
MF林みのりと柳井監督(写真提供:WEリーグ)

 26歳の若さで引退したが、現役時代は年代別代表歴があり、2011年ワールドカップ優勝世代ともプレーした。大宮ではDF鮫島彩、DF有吉佐織、DF上辻佑実の87年組より年下だが、指導者歴はすでに9年目に突入している。

 現役時代の経験値や、選手との関係性も含めた対話型の柔軟な采配は、他の指揮官とは異なる強みだろう。

 海外に目を向けると、FIFA女子ワールドカップで、2つの異なる国(オランダとイングランド)を率いて2大会連続の決勝に導いたサリナ・ヴィーフマン監督(オランダ)や、35歳の若さで東京五輪を制したカナダのベブ・プリーストマン監督など、レベルアップを続ける女子サッカー界でサクセスストーリーを描いている女性監督は少なくない。

 ちなみに、カナダが東京五輪で優勝した際、キャプテンのFWクリスティン・シンクレアはプリーストマン監督よりも年上だったが、やはり互いの信頼関係とフェアな競争が、チームの原動力となっていた。

「年齢は数字に過ぎない」  

 WEリーグ王者の浦和を牽引する41歳のFW安藤梢の言葉だ。

 それは、指導者にも言えることだろう。柳井監督は、日本の女性指導者の新たな道を切り開くことができるか。大宮の戦いと共に、その采配に注目したい。

WEリーグ3年目で上位進出を目指す(写真提供:WEリーグ)
WEリーグ3年目で上位進出を目指す(写真提供:WEリーグ)

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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