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スウェーデンがなでしこジャパンの“柔軟性”を警戒。多様な戦いを見せる両国のハイレベルな90分間に期待

松原渓スポーツジャーナリスト
スウェーデンとの準々決勝に臨むなでしこジャパン(写真:ロイター/アフロ)

東京五輪のリベンジへ

 8月11日、なでしこジャパンが女子ワールドカップ準決勝進出をかけて、世界3位のスウェーデンと対戦する。

 両チームのここまでの結果と内容を考えれば、今大会のベストゲームになる可能性がある。

 スウェーデンは、人口は日本の10分の1以下だが、女子サッカーの競技人口は97,000人(15歳以上/2020年時点)で、日本の3倍以上。国際大会では2019年のW杯で3位、オリンピックでは2大会連続準優勝と、常に上位をキープしてきた。東京五輪でペテル・ゲルハルドション監督に強さの秘訣を聞いた際の答えはこうだった。

「選手たちはハイレベルなクラブ、たとえばバルセロナ、バイエルンミュンヘン、パリサンジェルマンなどでプレーをしています。そうした、スキルが高い選手たちが揃っているからです」

スウェーデン女子代表
スウェーデン女子代表写真:ロイター/アフロ

 それだけを聞くと、強力な個の集合体を想像するかもしれない。だが、東京五輪の準々決勝で日本と対戦した際に脅威を感じたのは、その個を最大限に引き出す戦術的な幅の広さ。そして、強烈なパスをぴたりと止めて正確に蹴る技術の高さだった。

 日本は、その試合に1-3で敗れた。ピッチに立っていたDF南萌華は、当時の映像を見ることに抵抗を覚えるほど、悔しかったという。

「高さとスピードもある中で上手さもあって、全てを上回られていた印象で、何もできなかったなという思いがあります。(海外挑戦で)イタリアに渡ったのも、あの試合がきっかけだったというぐらいの衝撃を受けた試合でした」

 だが、当時のチームと今回のチームは違う。今大会で、日本はタイプの違う4カ国に対して戦い方を柔軟に変化させて結果を出し、自信を積み重ねてきた。

 一方、スウェーデンは、ベスト16で延長線の末にPK戦で世界王者のアメリカを下し、勢いに乗っている。この試合は互いのフィジカルを活かし合うパワーゲームの色合いも強かったが、日本戦ではまったく異なる戦い方で、戦略的な柔軟性を示してくるだろう。

日本はどう見られているのか?

 2年ぶりの対戦を前に、ゲルハルドション監督は警戒を強めている。

「日本はユニークで柔軟で、パスが上手い。カウンターアタックですぐに攻撃に転じることができるし、ゲームプランを作るのも上手い。以前は4-4-2で試合をしていましたが、今は違う。守備のマンツーマンもあるし、攻守のバリエーションがあります。そういう意味で難しい対戦相手だと思います」

 同監督はこの会見で、粘り強い守備がカギになることを強調した。スウェーデンも日本同様、ここまで4試合で失点はわずかに「1」。それだけに、守備に自信を持ち、日本の多彩な攻撃を警戒している。

 その攻撃を象徴する存在として、いくつかの海外メディアが、「ここまで5ゴールを挙げている宮澤ひなたをどう止めるのか」と質問。ディフェンスリーダーのダマグレナ・エリクソンは、「日本は全体で攻撃する明確なスタイルがあるので、そういう形での攻撃はどこからでもくると考えて準備しなければいけない。自分たちはコンビネーションについてよく知っているので、一人にフォーカスするのではなく、チーム全体を把握してどこから脅威が始まるのかを考えたいと思います」と答えた。会見に登場したエリクソンと共に、DFアマンダ・イレステットも日本へのリスペクトを熱く語り、その言葉から個々の分析力の高さを感じさせた。

宮澤ひなた
宮澤ひなた写真:REX/アフロ

 なでしこジャパンの選手たちも強敵をリスペクトしつつ、挑戦者としてこの試合を全力で楽しもうとしている。

 宮澤は、ベクトルをゴールに向けつつも「常に相手が嫌がるベストな立ち位置を考えて頭を回転させるのが楽しい」と言うように、相手を冷静に観察。自分に対するマークが厳しくなることも想定内だ。「相手の人数や、目線や表情を見て、判断できるシーンが増えてきています」と、力強く語った。

「足がもげるまでチームのために走りたい」

 スウェーデンは、スピードを生かしたサイド攻撃や、高さを生かしたセットプレーが武器。正確なロングキックやクロスを上げさせない守備が鍵になる。

 コンディション面では、日本が状況的には優位だ。ベスト16で120分間を戦ったスウェーデンに対し、日本は90分間で勝ち切った。加えて、中5日でスウェーデンよりも準備期間が1日多く、移動距離も圧倒的に少ない。ただし、スウェーデンは欧州リーグの連戦に慣れている選手が多いと予想されるため、その点は差し引いて考えるべきだろう。

 見どころは、試合の中で両者がどのように戦略を変化させて主導権を握っていくか。日本はまだ今大会、一度も先制されていない。だが、そうなったとしても90分間の中でその逆境を跳ね返す力を見せてほしい。

 ニュージーランド国内のオッズを見ると、日本の勝利を予想する人の方が多いが、立ち位置は紛れもないチャレンジャーである。南は言う。

「(2年前に敗れた)あの試合があったからこそ、今があると思います。生まれ変わったぐらいの気持ちで臨みたいですし、足がもげるまでこのチームのために走り切りたいと思っています」

南萌華(右)左は遠藤純
南萌華(右)左は遠藤純写真:ロイター/アフロ

 気持ちのこもった熱いプレーとともに、女子サッカーのレベルアップを象徴するような、ハイレベルな駆け引きに期待している。試合は、日本時間16:30にキックオフとなる。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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