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なでしこジャパンが磐石の戦いでノルウェーを撃破!準々決勝の相手は世界3位の強豪・スウェーデン

松原渓スポーツジャーナリスト
ノルウェーを破ってベスト8へ(写真:ロイター/アフロ)

 女子ワールドカップはノックアウトステージに突入。日本は5日にノルウェーと対戦し、3-1で勝利。2大会ぶりのベスト8進出を決めた。

「負ける想像がつかないです。自分が積み上げてきたことを出せれば、絶対に通用する部分があると思う。まだまだこのチームでサッカーしたいし、みんなでもっともっと高いところにいきたいと思っています」

 試合前日の練習後、MF長野風花は弾むような口調で話していた。2018年末、ノルウェーに4-1で勝った親善試合がなでしこジャパンのデビュー戦だった。その良いイメージもあったが、自信の根拠はそれだけではない。

長野風花
長野風花写真:長田洋平/アフロスポーツ

「あの時(2018年)はフィジカル的にもメンタル的にも技術的にもまだまだユースの選手という感じで、すべてが物足りなかったと思います。いろんなリーグを経験して、いろんなサッカーを知って、自分の幅が広がったなと思います」

 韓国、国内の2部と1部、アメリカ、そしてイングランド――。長野は妥協せずに新しい環境に飛び込み、5年間で4つのリーグを経験してきた。ワールドカップのメンバーに選ばれることを目標とするのではなく、世界の強豪国に勝つために鍛錬を積んできた。海外組だけでなく、日本のWEリーグでプレーする選手たちも、世界基準を意識したプレーやフィジカル強化に取り組んできた。

 コンディションの差も、ノルウェーとの勝敗を分けた要素の一つだろう。同国は主力で2018年のバロンドール受賞者でもあるA・ヘーゲルベルグが万全の状態ではなかった。一方、日本は23人全員がベンチ入り。主力のコンディションも良く、誰がいつ、出てもいいように気力を漲らせていた。試合に向けたコンディション作りに関して、宮本ともみヘッドコーチはこう明かす。

「監督はコンディションを上げることと、戦術を落とし込むバランスをすごく考えていて、フィジカルコーチの大塚慶輔コーチやメディカルスタッフ、ドクターたちと会話しながら、その中の一番いいところを取っています。全員が試合に向けて登録できる状態になっているのは、(スタッフの)皆さんの力の賜物だと思います」

宮本ともみコーチ
宮本ともみコーチ写真:ロイター/アフロ

 前回大会までは、選手23名に加えて、スタッフは最大12名の35名の登録が許可されていた。だが、今大会から男子W杯と同じ、50人までの帯同が許可されている。日本は今大会に、24名のスタッフが帯同。コーチングスタッフに加えて、分析担当のテクニカルスタッフや、メディカルスタッフも充実。男子日本代表をサポートしてきた西芳照シェフも女子W杯では初めて帯同し、チームを支えている。

「ここまで3戦、自分たちのやってきた準備がピッチでうまく体現できた感覚があるので。そこが強みだと思うし、つなげていきたいです」

 キャプテンのDF熊谷紗希は今大会、チームの準備の質に絶対的な自信を見せてきた。

【3ゴールと、明暗を分けたハーフタイムの修正力】

 ノルウェーが5バックでカウンターを狙ってくることは、想定内だった。

「今までの試合を見て、テクニカルスタッフから(の情報で)も、(相手のディフェンスが)4枚になる時と、5枚の時があった。5バックもありうることは試合前のミーティングでも話していましたし、そんなに驚きはなかったと思います」(池田太監督)

ノルウェー女子代表
ノルウェー女子代表写真:ロイター/アフロ

 ノルウェーの武器は高さを生かしたダイナミックな攻撃。空中戦では勝てないことがわかっていたからこそ、日本はチャレンジアンドカバーと、セカンドボールへの意識を徹底した。E・ハーヴィとS・ハウグは、ASローマでDF南萌華の同僚。南は2人の特徴とホットラインを警戒し、チームに共有していた。

 立ち上がりからボールを支配した日本は、前半15分、MF宮澤ひなたが入れたクロスが相手のオウンゴールを誘い、いい時間帯に先制。その5分後に、相手のゴールキックから一気に日本陣内に運ばれると、中盤で受けたG・ハンセンに中央を破られ、左サイドからのクロスをG・レイテンにヘディングで決められて失点。まさに警戒していた形で決められ、大会初失点を喫したが、それも含めて想定内だった。

「失点することもあるかもしれないと話していましたし、失点してしまった時の準備もチーム全体でできていた」とMF長谷川唯は冷静に振り返る。失点後は熊谷を中心に円陣を組んで確認。ノルウェーの勢いを凌いで前半を1-1で折り返した日本は、後半、ギアを上げた。

宮澤のゴールで先制(7番が宮澤)
宮澤のゴールで先制(7番が宮澤)写真:ロイター/アフロ

 ハーフタイムの指示は的確だった。

「2人のボランチがボールを受けに下がっていたので、どちらかはもう少し攻撃に入って行ってもいいんじゃないか、と話しました。あとはサイドの選手をうまく使って、相手の密集をほぐしてチャンスを生かそうと話しました」(池田監督)

 この修正をしっかりとピッチに反映させた日本は、後半開始5分で2点目を決める。ペナルティエリア内で宮澤のパスを受けた長谷川がボールを落とす。これはミスになったが、V・リサのバックパスを狙っていたDF清水梨紗が冷静にGKの逆をついて勝ち越し。

清水のゴールで勝ち越し
清水のゴールで勝ち越し写真:ロイター/アフロ

 その後、1点を追うノルウェーがロングボールを押し出した攻撃に切り替えると、日本はスペイン戦でも見せたカウンターを炸裂させる。67分の攻撃は理想的だった。GK山下杏也加から始まったビルドアップは、ノルウェーのハイプレスをかいくぐって清水、MF藤野あおば、長野と繋がり、長野がダイレクトで左のスペースに展開。ボールを受けたMF遠藤純がシンプルに逆サイドに振ると、FW田中美南が走り込んだ。パスがずれてゴールには繋がらなかったが、質の高いカウンター攻撃は日本の狙いがはまっていることを示し、3点目の伏線となった。

 74分にはノルウェーがヘーゲルベルグを投入。反撃を強めるが、日本も交代で入ったFW植木理子が巧妙な駆け引きとプレスで相手のラインを混乱させる。そして80分、藤野のスルーパスに走り込んだ宮澤が冷静に左足でゴールネットを揺らし、3−1。90分には、ノルウェーの決定的なシュートを山下が左手一本でスーパーセーブ。

 ハーフタイムの修正、交代、ピッチ上の対応力と個の力。地力の差を示した日本が、3-1で勝利を収めた。

左手でスーパーセーブを見せた山下
左手でスーパーセーブを見せた山下写真:ロイター/アフロ

【次の相手は世界3位のスウェーデン】

 熊谷は「3点目は特に、チームのメンタル的にもすごく大きかった」と、前線の得点力に感謝。「そこに応えられて良かった」と、相手の反撃を1点に抑えた守備にも手応えを示した。90分間で与えたコーナーキックはわずかに「1」。ノルウェーの高さを戦略的に封じた。

 珍しく、歓喜を爆発させたのは山下だ。見せ場は最後にやってきたが、GKの真価は、ボールが来ない時にこそあるのだろう。攻撃の場面でもディフェンスの距離感を修正し続け、ノルウェーのカウンターに備えてリスクマネジメントを徹底した。

「準備してきたことを出せました。普段、感情はあまり出さないようにしているんですけど……出てしまいました(笑)。いつ負けても後悔がないように出し切ろうとしているので、負けても十分やり切った、と言えると思います」

 宮澤は、2011年に澤穂希さんが決めたW杯の最多得点(5点)に並び、日本も今大会のゴール数を14点に伸ばした。また、ここまで警告数(イエローカード)はゼロ。熊谷はキャプテンとして歴代2位の出場数(61試合)を達成。日本は試合を重ねるごとに、新たな記録に近づいている。

「みんながついてきてくれているし、自分が目指した言い合えるチームになれている。本当に誇りに思っています」

熊谷紗希
熊谷紗希写真:ロイター/アフロ

 ずっと欲していたものを手に入れたような表情で、熊谷は言った。

 11日の準々決勝の相手は、世界ランク3位(日本は11位)のスウェーデン。アメリカとの延長戦の死闘の末、PK戦を制した。

 日本は2011年のワールドカップでは準決勝でスウェーデンに勝っている。だが、17年以降、同国はペテル・ゲルハルドション監督の下で攻撃的なチームづくりを進め、前回のW杯は3位、東京五輪では準優勝。日本は東京五輪の準々決勝でスウェーデンに3-1で敗れ、大会を去った。

 戦術的にも組織的にも洗練された両国の対戦は、ハイレベルな一戦になるだろう。ただし、日本は中5日で、スウェーデンは中4日。90分間で完勝した日本に対し、スウェーデンは120分間を戦っており、状況は日本にとって追い風となる。

 準備の質も含め、勝機は十分にあるはずだ。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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