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今季初のクリーンシートで上位を堅持。N相模原の最終ラインを支えるDF大賀理紗子の存在感

松原渓スポーツジャーナリスト
大賀理紗子(写真提供:ノジマステラ神奈川相模原)

【今季初のクリーンシート】

 511日ぶりのホーム戦勝利で、次の「一歩」を踏み出した。

 約2カ月間のウインターブレイクを経て再開したWEリーグ第9節。ノジマステラ神奈川相模原(5位)は、相模原ギオンスタジアムにジェフユナイテッド市原・千葉レディース(9位)を迎え、2-0で勝利。今季初のクリーンシートを達成し、ホームでは2021年10月10日以来となる祝杯をあげた。

 N相模原は、菅野将晃監督が4年ぶりに復帰。徹底してパスを繋ぎ、走り抜くサッカーが浸透してきた。攻撃では、FW南野亜里沙を軸に、脚力と高さに定評のあるFW松本茉奈加がサイドで縦の推進力を加える。アカデミーから昇格した長身ドリブラーFW笹井一愛がアクセントを加え、2月からは関東大学女子サッカーリーグ得点王のFW浜田芽来が加わり、前線の迫力が増した。

 前半8分に、右サイドを抜け出した松本のクロスに浜田が合わせて先制。その後は千葉にボールを支配される時間もあったがしっかりと耐え、71分にはコーナーキックでDF大賀理紗子のシュートのこぼれ球を笹井が頭で押し込み、千葉の反撃を凌ぎ切った。

 攻撃もさることながら、8試合目にして今季初のクリーンシートを達成。前線から、連動した守備力の高さが光った。安定したセービングでゴールに鍵をかけたGK久野吹雪が言う。

「ディフェンスラインの選手、前目の選手が相手にシュートを打たせるゾーンに入らせないようにしてくれたので、最後のシュートに対してしっかりと構えられて、楽な気持ちで対応できました」

 ウインターブレイク中は、より高い位置でのポゼッションを目指し、攻撃面と共に、守備も強化。「(ロングボールで)上を越されたときに、戻りながらのプレスバックで奪えた」(菅野監督)というコンパクトな守備と、シーズン前から走り込みを重ねて培ってきた走力を生かし、スペースを与えなかった。

【守備の大黒柱が見せた輝き】

 N相模原の最終ラインを抜群の存在感で統率しているのが、センターバックの大賀理紗子だ。

 背後のスペースのカバーリングに長け、精度の高いフィードも武器。サイドバックでもプレーでき、3バックにも4バックにも対応できる。菅野監督は、大賀のプレーについてこう太鼓判を押す。

「ディフェンス面で、予測も含めてチャレンジもカバーも素晴らしいものを持っている選手。コンディションが良ければ絶対にいいプレーができると思っていますし、今日もそういうプレーに何度も助けられました」

 2019年に日本体育大学からN相模原に加入して4年目。高校までは千葉のU-18でプレーしており、この試合はホーム戦勝利とクリーンシート達成とともに、古巣対決での初勝利というおまけ付きだった。

久々のホーム戦勝利にほっとした表情を見せたN相模原イレブン(写真提供:ノジマステラ神奈川相模原)
久々のホーム戦勝利にほっとした表情を見せたN相模原イレブン(写真提供:ノジマステラ神奈川相模原)

 その安定したパフォーマンスを支える要因の一つは、センターバックを組むDF畑中美友香との連携だろう。「美友香は前に強く、自分はどちらかというとカバーが得意。うまく役割分担しています」(大賀)という。MF松原有沙やDF伊東珠梨ら、センターバックを組んできた選手は前に強く、迷いのない判断でスペースを埋めていく。

 また、1対1の場面では相手に合わせて守り方を変えるクレバーな駆け引きこそ、大賀の真骨頂と言える。その調整力の高さは、日体大時代から輝きを放っていた。

 相手との間合いを図りながら、長い手足を使ったコンタクトスキルで相手を牽制。ゴール前では最後まで粘り強くシュートブロックに足を伸ばす。FWに敵のエースストライカーがいる場合、その対人スキルはさらに際立つ。

 空中戦では169cmの長身と予測を生かして先手を取る。昨年、N相模原でプレーした182cmのナイジェリア代表FW、サンディ・ロペスとの日々のトレーニングで磨かれたものも大きいようだ。

 この試合ではコーナーキックで競り勝ち、2点目の笹井のゴールをお膳立て。同じく相手コーナーキックの守備では、長身選手が揃う千葉に対して“頭脳派”の一面を垣間見せた。

「最初からマークする相手に寄せると、(キッカーが蹴る瞬間に)その選手が走り出した時にはがされることがあるので、最初は相手と距離をとって、相手が走り始めた時に体を当てることを意識しています。相手は動き出した瞬間に体を当てられた方が嫌だと思うし、高さでは勝てない相手に『いかにいい体勢でシュートを打たせないか』を常に考えています」

 プロとして意識しているのは、「ケガをしないこと」だという。

 なでしこジャパンに初招集された2020年の夏に前十字靭帯断裂、後外側支持機構損傷のケガを負い、公式戦復帰に1年以上を要したことが、一つのターニングポイントだった。

 2021年からN相模原がWEリーグに参入してプロ契約になり、9月のWEリーグ開幕戦で公式戦復帰。

 危機察知能力を高めて動き出しの質を高め、筋力トレーニングを増やして1対1の勝率を向上させると、同年10月に池田ジャパンの候補合宿にも名を連ねた。それから約1年半、リーグ戦、カップ戦、皇后杯を含めて公式戦35試合、チーム唯一の全試合フル出場を果たしている。

2019年に加入し、主軸としてプレーしてきた
2019年に加入し、主軸としてプレーしてきた写真:森田直樹/アフロスポーツ

 昨夏に話を聞いたときには、「今でも毎日膝の状態は違っているので、体にフィットしていないと思う時は一つひとつの動きを確認しながら練習しています」と話していた。

 さらに、今季は菅野監督の下で「走り」を強化。走っている分、体重を減らさないために補食を食べることもトレーニングの一環だ。いつもは理路整然と話す大賀も、走りの話になると思わず苦笑を漏らす。

「このウインターブレイク中も、かなり走りました。いつも『なんでこんなに走るんだろう?』って思いながらなんとか走り切っています(笑)。ただ、試合中に2、3回ぐらいキツくなる時間帯がくるんですが、そのときに『まだ走れるな』とプラスに考えられるようになりましたし、『みんなもまだ走れそうだな』という自信につながっていると思います」

 高い位置で奪い、ショートパスをテンポ良く繋いで素早くゴールに迫る。N相模原が目指すサッカーの輪郭は明確だ。だからこそ、結果が出なくてもブレずにチャレンジを続けてきた。その成果は、内容にも現れ始めている。

「高い位置で奪いに行ける場面が増えました。ウインターブレイク中の練習では正直、(前からのプレスが)うまくはまらないこともあったんですが、修正と話し合いを重ねて、今日の試合で結果が出たことでいいイメージを持てました。1カ月半チャレンジし続けた中で、みんなが同じ方向を向けていたんだなと思います」

 次の試合は、3月12日にアウェーのノエビアスタジアム神戸で首位のINAC神戸レオネッサと対戦する。今季無敗で、8試合17得点を奪っているI神戸の強力な攻撃陣を無失点に抑えることができるか。

 大賀は2試合連続のクリーンシートを目指しつつ、さらに貪欲な目標を掲げる。

「強気なディフェンスで、インターセプトからそのまま攻撃のスイッチを入れるようなボール奪取をしたいです」

 ボールを奪って、そのままゴールにドリブルで突き進む――。そんなシーンが今季、すでにいくつか見られている。大一番で、守備の大黒柱が見せるアグレッシブな守備にも注目してみたい。

攻撃に直結するプレーにも注目だ
攻撃に直結するプレーにも注目だ写真:松尾/アフロスポーツ

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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