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なでしこジャパン、ワールドカップ前の強化試合が“中継なし”。海外との差、選手の思いは

松原渓スポーツジャーナリスト
世界的にファンが増えつつある女子サッカー。日本は…(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカの4カ国対抗戦SheBelieves Cupに出場しているなでしこジャパン。アメリカ、カナダ、ブラジルというランキング上位国を相手に、結果こそ出ていないが、内容面では互角以上の戦いを見せている。一方で、この大会が日本では中継されず、インターネットでも配信されていない。W杯5カ月前のこの状況に、国内の女子サッカーファンや代表OGが次々に声を上げている。

 その先陣を切ったのが、アメリカのNWSLでプレーするFW川澄奈穂美(ゴッサムFC)と永里優季(シカゴ)。川澄は「ファン・サポーターの皆さん、離れていかないでください」とツイート。ファンにテキスト速報で試合を届けている。

 永里は英語で、「今年はワールドカップイヤーなのに、クレイジーだ」と呟き、一連のツイートの中で「ブランディングとマーケティングも重要です」と付け加えた。

 今大会で日本が対戦する3カ国は放映やストリーミング配信でライブ映像を発信しており、現地で日本の現状を知った他国の記者には「信じられない」と驚かれた。

 日本サッカー協会(JFA)の関係者によると、民放やNHKと直前まで交渉していたそうだが、「(放映権の)買い手が見つからないまま大会を迎えてしまった」のだという。

 買い手がつかなかった背景はさまざまだ。欧米を中心に女子サッカー熱が高まっていることで、放映権が高騰しており、W杯の放映局が現段階で決まっていないことも大きい。これまでは、本大会を放映する局が事前の親善試合についてもカバーすることが多かった。

 2011年のW杯優勝以降、各国が女子サッカーに力を入れ、なでしこジャパンがW杯やオリンピックでなかなか結果を出せていないことや、国内のプロリーグ「WEリーグ」の認知度が上がらないこともあるだろう。プロ選手が増え、プレー環境は2011年よりも向上しているが、人気はついてこない。

 今大会にチームの団長として参加しているJFAの佐々木則夫女子委員長は、「今はテレビだけじゃなく、ネット中継で見る方法もある。日本の皆さんに見ていただくようなアクションは もっと繊細にしなきゃいけなかったという反省があります」と語った。

 今大会に関して、JFAはアメリカサッカー協会と交渉し、フルマッチ映像をディレイ配信することを発表した。これまでにない状況で、交渉や手続きにも時間がかかったようだが、試合から5日後の21日夜に初戦のブラジル戦のフルマッチ動画が公開された。

【プレーする選手たちはどう感じているのか】

 今大会が生中継されないことについて、選手たちもそれぞれの思いを口にしている。FW岩渕真奈(トッテナム)は、「女子サッカーのために見てもらえる場を作るためにも、結果を出すことに責任を持たなければいけない。少しでもいいシーンを増やしていきたい」と、代表選手としての責任を口にした。

岩渕真奈
岩渕真奈写真:ロイター/アフロ

 今季からイングランドリーグに活躍の場を移したMF長野風花(リバプール)は、自身の体験を元に、「見てもらう」ことの重要性を述べた。

「(2011年に)日本がワールドカップで優勝した時は私は小学生でしたが、1つ1つのプレーに感動して、男子のサッカーにはない魅力を感じました。その感情を、今度は自分がプレーで伝えなければいけないと思っています。でも、放映や配信がなかったら、そういうプレーすら見てもらえない。どうしたらいいんだろう?と考えても、結局、最後に行きつくのは『もっと注目してもらえるような結果を残すしかない』ということです」

長野風花
長野風花写真:REX/アフロ

 アメリカでは、さまざまな広告やSNSで女子サッカーの情報発信に努めており、リーグ戦の観客が1万人を超すこともある。WEリーグの1試合あたりの観客数は1,600人前後。一方、アメリカのNWSL(ナショナル・ウィメンズ・サッカーリーグ)では平均8,000人近い観客が入る。

 選手たちの「見せ方」やファンサービス、チケッティングなど、細部にわたって工夫されている。かける予算やスタッフも多く、プロモーション映像の質の高さは一目瞭然だ。

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 根本には競技人口の違いがある。今大会はアメリカの3都市(オーランド、ナッシュビル、フリスコ)で行われているが、どの会場にもアメリカ代表のユニフォームを着た少女たちの姿が多い。

 日本は世界では年代別のW杯など、育成ではアメリカ以上に結果を残してきているが、普及においては遅れをとっているのだ。

 WEリーグの東京NBでプレーするFW植木理子は、「国内リーグがどうしたら盛り上がるか」を大学の卒論のテーマにするほど、競技の盛り上がりについて選手目線で考えてきた。今大会で放映がないことについては、「見てもらえない」ことへの危機感と共に、日本の現状を客観的な視点で語っている。

植木理子
植木理子写真:森田直樹/アフロスポーツ

「もちろん、放送してほしいし、そうでないと人気が下がっていく一方だと思います。ただ、目に見える結果を出して、自分たちがお客さんを呼べるようになってから言えること。アメリカ女子代表は女子サッカーでお金が回っているからこそ男女の賃金平等をアピールできたと思うので。まずはWEリーグでもっとお客さんを呼べるようにならないと、(選手から)主張するのは難しいなと思います」

 必死で戦う選手たちのプレーや競技の魅力を発信するためにどうしていけばいいのか。日本サッカー協会をはじめ、競技関係者にとっても今一度、向き合わなければいけないテーマだ。

 今大会でスポットが当たった「試合が中継されない」問題を機に、日本女子サッカーが辿ってきた過去の栄光と足りなかったことをもう一度見つめ直し、知恵を集め、それを具現化していくことが必要だろう。

 7月のW杯で、未来のなでしこたちがなでしこジャパンの戦いを目に焼き付けることができるように。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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