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4試合14ゴール!圧倒的な攻撃力でベレーザが2大会ぶりの皇后杯女王に

松原渓スポーツジャーナリスト
ベレーザがWE初タイトルを飾った(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 キャプテンの村松智子が銀の優勝カップを高々と掲げる。澄んだ夜空に、初々しい笑顔が弾けた。

 1月28日にヨドコウ桜スタジアム(大阪)で行われた皇后杯決勝戦は、INAC神戸レオネッサと日テレ・東京ヴェルディベレーザの東西強豪対決が実現。試合は4点を奪った東京NBが強さを見せつけ、2大会ぶりのタイトルを獲得した。

 縦に速い攻撃を武器とし、抜きん出た勝負強さでリーグ首位を走ってきたI神戸を、それを上回る攻撃力で圧倒した。東京NBは、毎試合2ゴールずつを決めて決勝進出の原動力になったFW植木理子が攻撃を牽引。

 前半38分、DF宮川麻都の右からのクロスをニアサイドでうまく合わせてリードを奪うと、後半の立ち上がりにはコーナーキックから右足ボレーを沈めて2-0。終盤にはI神戸のミスが続いたところを見逃さず、FW小林里歌子が3点目。終了間際にはFW藤野あおばが前線で奪って自らフィニッシュに持ち込み、勝負を決定づける。

 守ってはDF岩清水梓と村松のセンターバックコンビが経験値の高さを遺憾なく発揮し、クリーンシートを達成した。

植木(右)が2ゴールでチームを牽引
植木(右)が2ゴールでチームを牽引写真:森田直樹/アフロスポーツ

 2020年から21年にかけて主力の移籍や海外挑戦が重なり、チーム編成が大きく変化。ケガ人などの厳しい台所事情も、変化に伴う痛みに拍車をかけた。

 I神戸に対しては直近の2シーズン、ホームとアウェーで4連敗。リーグ戦は2シーズン連続3位で、昨年は無冠に終わった。浦和と対戦した昨夏のリーグカップ決勝では3点のリードを守りきれず、PK戦の末に敗れた。衝撃的な逆転負けの記憶を克服するために東京NBが磨いてきたのは「守り切る力」ではなく、相手から反撃の意思を奪うほどに攻め抜く力だった。

「3点をリードした時に、あの負けあの記憶が少しよぎりましたが、ピッチの中で集中を切らすな、と全員が声を掛け合いました。ようやく、チームとしての挫折が報われた気がします」(植木)

「2点とっても3点とっても攻撃し続けよう、と言い続けてきました。あの敗戦がチームの糧になって、成長につながっていると思います」(村松)

 今大会は、4試合で14得点2失点。その強さはどこから生まれたのか。顕著だったのは、個々の成長だ。

 全4試合で2ゴールずつを決め、ストライカーとしての進化を示し続けたのが植木だ。

「ベレーザのタイトルに何度か関わっていますが、自分の力でチームを勝たせた、と思えたことが一度もなかったんです。でも、味方のおかげで今大会ではゴールをとり続けることができて、やっとこのチームに恩返しができたと感じました」

「大事な試合で、チームを勝たせるゴールを決める」

 シンプルだが最も難しいその目標を有言実行できたのは、ボールを呼び込むスキルが向上したことも大きいようだ。竹本監督は、「相手との駆け引き、ボールをもらう前の準備が本当に成長している。海外に通じるクオリティだと思います」と、成長著しい23歳にさらなる期待を抱く。

藤野あおば
藤野あおば写真:森田直樹/アフロスポーツ

 また、19歳の藤野あおばのプレーには毎試合、目を見張った。

 スピード、強さ、テクニックの三拍子を揃え、ドリブルから足を振る速さは国内無比。ペナルティエリア付近でスイッチが入ると、2人がかりでも止めるのは難しい。今大会はどのチームからも警戒されていたが、相手によって柔軟にプレーを変化させるインテリジェンスに加え、決勝では守備でも違いを見せた。

 他にも、19歳のMF木下桃香、22歳のGK田中桃子ら生え抜きの選手が主軸として安定感を増し、各ポジションの厚みも増した。

 昨年と比べてもう一つ顕著に変化したのは、攻撃のバリエーションが増えたことだ。ボールを支配していても、引いた相手を崩せないーーパスサッカーを追求する中では、そんな展開に苦しむ試合もある。だが、皇后杯ではポゼッションもカウンターも必要に応じて使い分け、セットプレーも含めて多彩な形から点を取った。

 その点で大きな変化をもたらしたのが、小林里歌子だ。今季はケガ明けで徐々にコンディションを上げながらの合流となったが、12月の皇后杯4回戦で久々の先発復帰を果たして以降、全体的に攻守の強度が一段階上がった。小林は前線のどのポジションでもプレーでき、潤滑油にも、フィニッシャーにもなる。守備範囲が広く、ゴールへの最短距離を知っているのだ。

小林里歌子
小林里歌子写真:森田直樹/アフロスポーツ

「一緒にプレーできるのが嬉しいし、ベレーザのサッカーをするために必要な人。ゴールを奪うための起点を作ってくれるのでやりやすいし、里歌子さんが戻ってきたことで、スピード感がある中での攻撃の形がすごく増えました」

 そのように、植木も絶対的な信頼を寄せる。

 植木、小林、藤野。3人の看板FWが揃ったことで、昨年にはない勝負強さが感じられるようになった。

 そしてその攻撃力を支えたのが、ベテランと中堅が融合した守備陣の安定感だ。

 シーズン前にDF清水梨紗が海外移籍で抜けた穴がなかなか埋まらなかったが、昨年11月以降、左サイドバックを本職とするDF宮川麻都が右SBに定着し、守備のバランスが安定した。植木の1点目は宮川の攻撃参加から生まれたビューティフルゴールだった。

 村松と岩清水のCBコンビには経験値と阿吽の呼吸があり、国内外で経験豊かなDF宇津木瑠美もいる。準決勝で左サイドバックを務めた宇津木の左足ロングフィードから、植木が抜け出して決めたダイナミックなゴールは、新たなベレーザを象徴する形だった。

 また、この決勝では新加入のDF西川彩華が左SBを務め、縦の関係を組むMF北村菜々美と共に、I神戸の強力な右サイドを牽制した。

 竹本監督は、チーム全体のコミュニケーション力が向上したことを強調する。そのキーマンが、30代の岩清水と宇津木だ。2人が積極的に声をかけ、若手選手たちから「貪欲さ」を引き出した。「イワシさんとルミさんの存在は本当に大きい」と村松も言葉に力を込める。

 岩清水にとって、皇后杯は11度目のタイトル。だが、これまでの10回のタイトルとはまた違う感慨深さがあったようだ。出産後に先発復帰を果たしてから約1年。育児とプロ生活を両立させながら、国内最高峰の舞台に戻ってきた。

「以前の自分に戻ったか、と言われたらまた違う自分だと思っています。ただ、ある程度トップで戦えるところまで戻ってこられて、パフォーマンスが出せるようになったので、今日に関しては自分を褒めようかなと思います」

岩清水梓(左は西川彩華)
岩清水梓(左は西川彩華)写真:森田直樹/アフロスポーツ

 20年以上、クラブに尽くしてきた大黒柱は謙虚に笑った。

 初めてキャプテンとして表彰台に上った村松は、カップをどう掲げたらいいものか戸惑ったという。だが、岩清水にアドバイスをもらいながら、しっかりと成功させた。嬉し涙は久しぶりだった。

「チームメートに本当に支えてもらいました。代表してカップを掲げただけですけれど…このチームで今、キャプテンができて本当に嬉しいです」

 長かった2年間の雌伏の時を経て、新たな一歩を踏み出した東京NB。3月に再開するWEリーグでは、4位からの巻き返しに注目だ。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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