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東洋大学が大学女子サッカー悲願の日本一に。関東勢のレベルアップで群雄割拠の新時代へ

松原渓スポーツジャーナリスト
東洋大が初Vを飾った

【東洋大が大会無失点で初V】

 大学女子サッカー界に、新チャンピオンが誕生した。

 1月6日に味の素フィールド西が丘で行われた全日本大学女子サッカー選手権決勝(通称:インカレ)。

 関東予選を1位で勝ち上がった東洋大と、同3位の山梨学院大が共に初の決勝進出を果たし、1-0で激闘を制した東洋大が頂点に立った。

決勝では初の対戦カードとなった
決勝では初の対戦カードとなった

 決勝までの内容を見れば、両チームとも勝つべくして勝ち上がってきた印象で、いい意味でサプライズはなかった。そして、決勝もそうだった。対戦相手の監督や選手たちが「東洋は強い」と声を揃えたように、その完成度は際立っていた。

 ボールを支配してゲームをコントロールし、勝負どころを押さえてゴールネットを揺らす。どの相手にもそれができる技術と自信が感じられた。それは、猛者揃いの関東圏で、皇后杯関東予選と関東大学女子サッカーリーグ(関カレ)1部の2大タイトルを制した自信も大きかったようだ。

石津遼太郎監督
石津遼太郎監督

「こんなに勝ったシーズンはなかったですし、全部初タイトルなので。本当に素晴らしいシーズンを選手たちと過ごすことができました」

 石津遼太郎監督は同校OBで、7年前からチームに関わり、監督として3年目で頂点に立った。33歳と若いが、腕を組んで静かにピッチを見守るたたずまいには、大舞台を何度もこなしてきたような雰囲気があった。

 大宮アルディージャのアカデミー出身の同氏は、攻守にアクションしながら主導権を握るサッカーをルーツに持ち、練習では「ペナルティエリアの中央で2タッチ以下でチャンスを作ること」を強調してきた。決勝ゴールは、その真骨頂とも言える形だった。

山梨学院大の堅守を破った
山梨学院大の堅守を破った

 66分に左サイドから崩し、ペナルティエリア内でFW門脇真依がシュート。GKが弾いたこぼれ球をMF稲山美優が折り返し、FW北川愛莉がフィニッシュ。山梨学院大は体を張った守備で東洋大の猛攻を跳ね返し、カウンターを仕掛ける場面もあったが、結果的には同大の5倍近いシュートを放った東洋大がゴールをこじ開けた。

 4試合クリーンシートを達成したキャプテンのGK今井佑香は、「わたしたちがボールを持つ時間が長かったからこその無失点です。守備陣だけでなく、全員が素晴らしかったです」と胸を張った。

 下馬評通りの強さで他校を引き離した要因の一つは「タレント力」。メンバー表の名前の横にある「前所属チーム」の欄は壮観だ。WEリーグの強豪クラブのアカデミーや、全国の強豪高校のチーム名がずらりと並ぶ。サッカースタイルや練習環境の良さに惹かれて入った選手もいて、東北や関西、沖縄からも入部を希望してくる選手がいるという。

北川愛莉(白・東洋大)と嶋田華(青・山梨学院大)
北川愛莉(白・東洋大)と嶋田華(青・山梨学院大)

「関東の1部リーグに定着してから毎年いい選手が来てくれるようになって、技術的に高い子が多いので、ボールを持ってゲームを進められるようになりました。その中で、北川(愛莉)とか門脇(真依)とか、フィニッシュをしっかり仕留められる選手が出てきた。それが、この結果(優勝)につながったと思います」(石津監督)

 とはいえ、今大会は決して順風満帆だったわけではない。大会直前に新型コロナ陽性者が複数出てしまい、十数名が帰宅を余儀なくされたという。その中には、レギュラーやスーパーサブの選手もいたが、代わりにチャンスを得た1年生や2年生たちが生き生きと躍動した。部員数は38名と他校に比べて少ないが、選手層は厚かった。

 決勝ゴールを決めてMVPに輝いた北川は、関カレのMVPも受賞。大学女子サッカーが輩出したスターは、来季はWEリーグの大宮アルディージャVENTUSへの加入が内定している。

 山梨学院大は関カレで2度敗れた東洋大に3度目の勝負を挑んだが、あと一歩及ばなかった。

 それでも、11人がハードワークし、縦への推進力あふれるサッカーで意地を見せた。同大は全国から選手が集まり、部員は67名を超える人気校だ。今大会は、関カレ得点王のMF浜田芽来や、フィジカルと技術を兼ね備えた2年生のDF嶋田華らを中心に、相手によってメンバーを変えられる層の厚さがあった。

浜田芽来
浜田芽来

 村上裕子監督は、昨年まで高校の名門・日ノ本学園高校を統率し、2年ぶりに復帰。山梨学院大で創部から8年間礎を作った前任の田代久美子監督(現・AC長野)からチームを引き継ぎ、昨年のベスト4から一つ上のステージに引き上げた。

「選手が楽しくピッチで躍動することが私にとっての幸せなので、そういうカラーはブレさせずにやっていきたい」という。大学女子サッカー界からは、第一線で活躍する女性指導者が多く誕生しており、村上監督も今後が楽しみな指導者の一人だ。

村上裕子監督
村上裕子監督

【関東は群雄割拠に】

 大学女子サッカー界は、関東勢のレベルアップが著しい。以前は早稲田大と日体大の2強時代が長かったが、現在は群雄割拠の時代に突入している。

 今大会は、ベスト4のうち3校が関東勢だった。また、関東の8枠のうち最後の一枠に滑り込んだ日本大学は、今大会のダークホースとなった。部員数は24名、4年生が2人しかいないという東洋大以上の少数精鋭だが、昨年準優勝の静岡産業大と前回王者の早稲田大を破って初の準決勝進出。今年から監督に就任した持田紀与美監督は、選手と同じ寮で寝食を共にし、一体感を大切にしてきたという。

「以前は早稲田や日体大が絶対王者でしたが、今は東洋大や帝京平成大、山梨学院大なども上位に入ってきていて、関カレでは下位のチームが上位に勝つこともあります。うちはインカレベスト4という目標は達成しましたが、ここからが難しい。来年も関東の厳しい戦いをしっかり戦って、この舞台に立ちたいです」(持田監督)

 また関東以外で唯一、ベスト4入りを果たした吉備国際大(中国地方)は、なでしこリーグとの両輪でチームを強化し、トップリーグや代表にも選手を輩出してきた。しかし、準決勝では東洋大に0-5と完敗。太田真司監督は「力の差を感じた」と、正直な感想を口にした。

「関東にいい選手が集まっていて、指導者の方も情報量や知識に長けている方が多く、さらにレベルが上がっています。うちは地方なりの戦い方で、なでしこリーグでしっかりと選手たちを育成しながら、関東に追いついていきたい。どこの大学もコレクティブに技術と走力を高めているので、そこをしっかり押さえつつ、もう一回、大学女子サッカーを牽引していく立場になりたいですね」

 新チャンピオン誕生とともに、関東勢のレベルアップを印象づけた今大会。ワールドカップイヤーの今年は、大学女子サッカー界からも新たなスターが生まれるかもしれない。

*写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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