W杯同組のスペインに惜敗のなでしこジャパン。強豪2連戦を通じて明確になった現在地
女子W杯まで8カ月。なでしこジャパンが年内最後の活動で欧州遠征を実施し、イングランド、スペインの2カ国と対戦した。
11日にFIFAランキング4位のイングランドに0-4と完敗を喫し、中3日で迎えたスペイン戦は0-1の惜敗だった。
同6位のスペインは、来年のW杯でも対戦が決まっているライバル。年内最後の試合で勝利とはならなかったが、内容面では今後に希望が持てる試合だった。
スペインは、欧州チャンピオンズリーグの常連であるバルセロナを筆頭に、国内リーグの発展と代表の強化を両輪で進めてきた。だが、9月に代表選手たちが監督の更迭をサッカー連盟の会長に直訴し、同月には15名の選手が招集を辞退するなど、問題は収束の気配を見せていない。ただ、そのような不安定な状況でも国際親善試合でFIFAランク1位のアメリカを破るなど、着実に力をつけている。今回は若手選手も多いチームだったが、戦い方のベースは同じ。しっかりとボールを動かしながら、随所に個の力を見せた。
日本は10月に国内で行ったナイジェリア戦(〇2-0)とニュージーランド戦(〇2-0)、そして今回のイングランド戦の3試合に続き、この試合も3バックを継続。後ろを3枚にすることで前に人数をかけ、高い位置でボールを奪いやすくするメリットがあるが、背後のスペースを狙われるリスクも高くなる。イングランドはフィジカル的なスピードに加えて、判断スピードやパススピードも速く、「ファーストディフェンダーの強度が課題」(池田監督)として残った。
スペイン戦に向けた3日間のトレーニングでは、プレスの同時性を高めることや、攻撃面で背後へのアクションを増やすことに取り組んだという。
スタメンはイングランド戦から4人を交代。1トップにFW田中美南、2シャドーにはイングランド戦で終盤に出場してアピールしたMF藤野あおばが先発。MF猶本光、MF林穂之香がダブルボランチを組んだ。
スペインもイングランド同様、11人が立ち位置を変えながらボールを動かし、パススピードも速い。パスを警戒すればドリブル突破、ドリブルを警戒して間合いを空ければミドルシュートと、個々の引き出しが多い。
しかし、日本もこの試合では距離感よくボールを動かし、上々の立ち上がりを見せた。MF長谷川唯の展開からDF清水梨紗とMF遠藤純の両ウイングバックを起点としたサイド攻撃、藤野や田中、猶本が絡んだ中央からの崩しなど、スピード感あふれる攻撃が見られた。
それだけに、立ち上がり9分の失点は虚を突かれた形だった。
MFクラウディア・サンチェスが日本陣内中央あたりから放ったミドルシュートがクロスバーに弾かれ、そのこぼれ球にFWアルバ・レドンドがフリーで詰めていた。WEリーグではあまり見ないシュートレンジだが、スペインが22分と30分にも同じような距離から強烈なミドルを枠内に飛ばしたところを見れば、これが世界基準。W杯本番では、試合の趨勢を決める先制点の重みはさらに増すだろう。
その場面を除けば、日本はスペインと互角以上に戦えていた。19分には田中が背後へ絶妙の動き出しで猶本のパスを受け、GKと1対1のチャンスを創出。24分には自陣から遠藤、長谷川、清水とつないで崩した。
また、得点の匂いが色濃く漂ったのがセットプレーだ。32分に相手陣内の右サイドから遠藤が蹴ったフリーキックに、ファーサイドでDF南萌華と藤野がフリーで詰めていたシーンは、完全に相手の裏を取っていた。セットプレーは専門家を呼ぶなど力を入れ、時間をかけて取り組んできたポイントだけに、決定力を高めたい。
【2試合で見えた課題と収穫】
シュート数はスペインの6本に対して日本が13本、枠内シュートもスペインの3本に対して6本と、決定機の数は日本の方が多かった。だが、最後までゴールネットを揺らすことはできなかった。2試合連続無得点という結果に終わったことについて、池田監督は強い危機感を示した。
「ゴールを決めないと勝てない。そこの精度への追求は続けていかないといけない」
今回の欧州2連戦は、戦い方の幅を広げるためのオプションとしてトライしている3バックのシステムで、戦術的にも完成度の高い2カ国とどれだけ戦えるかが一つの見どころだった。イングランド戦ではファーストディフェンダーの強度や守備の同時性、球際で奪う力などが課題に挙がった。
キャプテンのDF熊谷紗希は、「一人一人の守備範囲を広くすることが重要。イングランド戦は個々が守れている範囲が狭すぎて、一つのパススピードや立ち位置で解決されている部分があった。チームとしてスペースを守るところも必要ですが、最後に(個々が)ボールに行くところが、もっとあっていい」と振り返っている。
守備範囲を広げていくためには、今回の2カ国を基準としてシュートやパスの飛距離や精度、スピードへのさらなる”慣れ”や適応が必要だろう。
「欧米の選手のボールの動かしのスピード、フィジカルも判断スピードもありますが、一つ一つの速いボールをしっかりコントロールできる技術はわれわれもあげていかなければいけない」と、池田監督は言う。普段からそのプレースピードの中でプレーしている海外組にはアドバンテージがあるが、国内でその感覚を継続して取り組むことは容易ではない。だが、不可能でもない。
国内組でもそのプレースピードに適応できることを証明したのが、18歳の藤野だった。10月に代表デビューしてまだ4試合目だが、その吸収力と成長にぶりは目を見張る。
藤野のスピードが欧州の強豪にどこまで通用するのか筆者も楽しみにしていたが、イングランド戦ではラスト20分間プレーし、1対1のボールキープやゴールへのアグレッシブな仕掛けで見せ場を作った。スペイン戦では、単純なスピードだけでなく、シュートモーションに至る速さやドリブルの緩急で相手を翻弄する場面も多く、55分と75分には相手にイエローカードを与え、いい位置でセットプレーを獲得。自身が課題としていた終盤の運動量についても、この試合では動きの質を落とすことなく、90分間走り抜いた。
「ファールじゃないと止められない、というくらいの選手になれれば相手にとって怖い選手になれる。ただ、流れを切られてしまうと相手がセットした状況でプレーしなければいけないので、より優位な状況でプレーするために相手を剥がしていくことは自分の課題」と、1対1のさらなる強化に目を向けた藤野。「球際での勝負のこだわり、そこの強度をお互いに求め合うことのレベルの高さが違った」と、ピッチ内でアンテナを張り巡らし、両国の強さのエッセンスを吸収したようだ。
とはいえ、新しい芽が出てきているのは日本だけではない。スペインは、このインターナショナルマッチデーで行われた11日のアルゼンチン戦(〇7-0)と日本戦の2試合で、国内で活躍する8人の若手を代表デビューさせたという。
中でも、今年8月のU-20W杯で世界一の原動力となったFWサルマ・パラルエロ(陸上400m走と400mハードルで18歳以下の国内記録保持者)は、アルゼンチン戦で代表デビューし、なんとハットトリックを記録。
日本は主力を中心に戦い方の引き出しを増やし、チームの土台を固めていくことが必要な時期だが、点が欲しい時や負けている時に切り札となる選手の台頭にも期待したい。
藤野の台頭は、チームにとって一つのプラス要素となったが、同様に、WEリーグで個の強さを見せるFW清家貴子も見てみたかった。10月のリーグ開幕から首位を走る浦和の原動力になっており、流れを変えるジョーカーになれる有力候補だろう。
2試合を通じて多く課題を突き付けられた一方、収穫もあった。初戦の課題を中3日で修正し、スペイン戦では3バックの守備がはまる場面が少なくなかった。課題だったファーストディフェンダーのアプローチや守備の同時性が高まった理由について、2試合に出場した南は、その成果をこう語っている。
「イングランド戦では3バックの両サイドがマークを掴んでいない状態が多かったので、後ろが揃っているときは相手のインサイドハーフを掴みに行くことにチャレンジしました。タイミングを見て積極的にプレッシャーを掛けられたことで、そこで奪えて攻撃に繋げることができました」(南)
攻撃面では、背後へのアクションが確実に増えたことで、中盤のスペースを効果的に使って前を向ける場面が多かった。長谷川は、「相手DFラインとの1対1や2列目が飛び出したらフリーになるという場面、サイドの裏のスペースも空いていたのでそこは取れていました。ただ2試合で点が取れなかったのは前の選手として責任を感じます」と振り返っている。
これで、年内の代表活動は終了した。
ワールドカップイヤーとなる来年の予定について、佐々木則夫女子委員長の話によると、強豪国との国際親善試合や国内での強化試合ができるように調整しているという。再び、格上との試合が実現するように願っている。
強豪2連戦で世界の中での立ち位置を明確にし、なでしこジャパンは新たなスタートラインに立った。