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MF塩越柚歩がボランチでプレーを“改造中”。WEリーグカップ王者・浦和の伸びしろを象徴する存在に

松原渓スポーツジャーナリスト
塩越柚歩(写真:松尾/アフロスポーツ)

 10月1日のWEリーグカップ決勝。日テレ・東京ヴェルディベレーザとの激闘を制し、初代王者に輝いたのは三菱重工浦和レッズレディースだった。

 浦和が残り15分で3点ビハインドを振り出しに戻して、PK戦にもつれ込む劇的な展開だった。浦和と東京NBの対戦カードは、これまでも撃ち合いになることが多かった。互いの強みを前面に出し合う試合は、サッカーを見慣れていない人でも楽しめる要素が盛り沢山だ。

 浦和は、WEリーグでは昨年の皇后杯に続く2つ目のタイトル獲得となった。ただ昨年と違うのは、試合出場数が少なかった選手を積極的に起用したり、システムや配置に変化を加えるチャレンジをしながら勝ち抜いたことだろう。慣れないチャレンジにはリスクも伴うが、個人やチームが急成長を見せたり、普段以上の力が引き出されることもある。

 昨季はボランチでの出場が多かったFW安藤梢や、サイドバックを主戦場としてきたFW清家貴子が、カップ戦では前のポジションで結果を残した。そして、決勝戦では、MF塩越柚歩のボランチ起用が目を引いた。

 塩越はフィジカルが強く、テクニックに優れ、ドリブルやシュートなど複数の武器を持つ。ユースからの生え抜きで、主力間の強力なホットラインの一角を成す。ユーティリティ性も武器で、これまでに1.5列目やサイドハーフ、サイドバックなどでのプレーは見たことがあるが、ボランチは新鮮だった。

 塩越自身、「今までやった記憶がないポジションですが、流動的にプレーするのはレッズレディースの良さで、みんながうまくカバーしてくれています」と、手探りでトライしていることを明かした。

 初めてボランチ起用されたのは9月25日の埼玉戦。決勝進出がかかった重要な試合だったが、中盤の潤滑油としてそつなくプレーしていた。そして、2試合目がこの決勝だった。

 楠瀬直木監督は、起用の狙いをこう語っている。

「上手い選手がボランチをやるべきだと思っているので、固定はしないように考えています。塩越は自分でも仕掛けられますが、もっと人を使えるようになってほしいですし、柴田(華絵)から、守備の摘みどころを盗んでいってもらいたいという狙いもあります。ペナルティエリアの中に入っていくことも、逆にペナの中で守ることもできる選手になってくれたらと思ってプレーを改造中です」

 そして、決勝では目に見える結果を残した。0-3からの猛追を見せた後半に、積極的な攻撃参加で相手ゴールを脅かし、2点目と3点目に繋がるPK獲得に関わった。

ボランチでも起用され、プレーの幅を広げている(左は東京NBの岩﨑心南)
ボランチでも起用され、プレーの幅を広げている(左は東京NBの岩﨑心南)写真:西村尚己/アフロスポーツ

 一方、3失点には責任を感じていたようで、自己評価は厳しい。「うまくボールを引き出せなかったし、守備でも後手に回っていいプレーを出せなかった。(カバーしてくれた)みんなに感謝したいし、細かいところを詰めないといけないと思います」と、試合後は反省しきり。ただ、「後半は立ち位置を修正して流れを作りだせた」と、成功体験も得たようだ。

 味方のミスを含めて中盤を幅広くカバーしながら、攻守の歯車を動かす柴田と、近い位置でプレーすることで見えてくるものは多そうだ。今後は指揮官が期待する守備面での危機管理や味方を生かすプレーに着目しつつ、得点力にも期待したい。

 塩越はWEリーグ初年度のベストゴールに選ばれた反転シュートや、今季初戦の大宮戦のミドルシュート(ゴールシーンは動画の2:37〜)など、重要な試合でスーパーゴールを決めてきた。ボランチでは、そのシュートレンジの広さがさらに生きそうだ。

 東京五輪にも出場したが、池田ジャパンではまだコンスタントに代表候補入りするには至っていない。ただ、チャレンジの中でプレーの幅を広げれば、再招集への道は開けるだろう。新しいポジションで学ぶことの中には、代表の中盤で存在感を高めるためのヒントも詰まっていると思う。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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