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新戦力と若い力が躍動する長野。WEリーグ決勝進出チーム決定は最終節までもつれこむ混戦に

松原渓スポーツジャーナリスト
リーグ戦に向け、好スタートを切った長野(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

 10月に開幕するWEリーグに向け、公式戦として開催されているWEリーグカップ。

 新戦力や若手選手に経験を積ませながら、リーグ戦に弾みをつけたいーー。各チームの思惑がぶつかり合い、各地で熱戦が繰り広げられてきた。

 その中で、10月1日の決勝に進出する可能性があるのは4チームに絞られた。

 グループAはAC長野パルセイロ・レディースと三菱重工浦和レッズレディース。グループBは日テレ・東京ヴェルディベレーザ(東京NB)とINAC神戸レオネッサが決勝進出を争っており、決着は9月25日のグループステージ最終戦までもつれ込む混戦となった。

 昨季リーグトップ3の神戸、浦和、東京NBはある意味で順当だが、いい意味で予想を裏切る躍進を見せたのが昨季7位の長野だ。現代表候補が集中しているトップ3と違い、長野にはいない。また、今季は主力の移籍や引退などがあり、メンバーの約4分の1が入れ替わった。他クラブで昨季、出場機会が少なく燻(くすぶ)っていた有望選手たちを青田買いした印象で、平均年齢は22.6歳まで下がっている。

 しかし、今季ヘッドコーチから昇格した田代久美子新監督の下、新戦力も融合した攻撃的なサッカーで3勝2分と結果を残したのだ。

田代久美子監督
田代久美子監督写真:西村尚己/アフロスポーツ

 24日に長野Uスタジアムで行われた新潟戦は、開始2分にフリーキックからFW瀧澤莉央が電光石火の先制ゴール。37分には、DF岡本祐花が強烈なミドルを突き刺し、新潟の反撃を後半の1点に抑えて2-1で勝利。

 無敗でグループ暫定首位に浮上し、決勝通過に望みを残した。25日に試合が行われる浦和が勝てば得失点差でグループステージ敗退となるが、田代監督は「やることはやったので、あとは人事を尽くして天命を待ちたいと思います」と、チームの戦いぶりに胸を張った。

【個性を生かす適材適所】

 昨年から明らかな変化を感じるのは、攻守の距離感やテンポが良くなり、ゴールに向かう推進力が増したことだ。

 昨季は1試合あたりのシュートが7本、20試合で15得点と得点力不足が課題だった。一方、今大会は1試合あたり約10本のシュートを放ち、5試合で7得点を決めている。

 田代監督は、チーム作りのキーワードとして「個性を最大化する」ことと、「縦に速い攻撃」を掲げている。昨シーズンから積み上げてきたハイプレスに、奪った後の縦のスピードが加わった。

 指揮官はカップ戦を通じた収穫として「毎試合得点できていること」、「5試合で5人の選手がゴールを決めたこと」を挙げ、攻撃の連動性に手応えを示した。

「得点の形はショートカウンターが多く、奪ったボールを縦につけて追い越していくところは全体で共有できた部分で非常に良かったなと思います」

 瀧澤と岡本の他にゴールを決めたのは、19歳のFW稲村雪乃、20歳のMF伊藤めぐみ、18歳のFW川船暁海。いずれも地元出身の次世代ホープたちだ。

 また、昨季リーグ上位の仙台(1-1)、浦和(2-2)との試合では、先制されても追いついたり逆転したりと、試合中の修正力を発揮。ボールを失う回数が減った背景には、適材適所の配置や新戦力の活躍が挙げられる。

 カップ戦でチームトップの3ゴールを決めたのが、2年目の瀧澤莉央だ。昨季は1.5列目でのゲームメイクや黒子に徹することが多かったが、今季は2トップになり、持ち前の技術や得点力を前線で発揮。アマチュア契約からプロ契約に変わったこともプレーに好影響をもたらしている。

瀧澤莉央
瀧澤莉央写真:西村尚己/アフロスポーツ

「プロになって自分の体と向き合う時間が増えました。筋トレやケアで疲労を取るようにしたら体が軽くなって、オフの時間の使い方もいい影響につながっていると思います。足元で受けるのが得意ですが、2トップのもう一人と連携して、裏に抜ける動きも意識して取り組むようになりました」(瀧澤)

 瀧澤を生かす中盤には、展開力と精度の高い左足を武器とするMF福田ゆい(←仙台)、アグレッシブな守備や運動量に定評のあるMF菊池まりあ(←神戸)らが加わった。

 瀧澤は、「(新加入選手は)個々の能力が高く、福田選手や菊池選手はキックの精度が高いので、いいクロスボールが上がってくる」と話す。

 中盤でゲームメイクを担うのは、3年目のMF肝付萌。昨年のシーズン中に、サイドバックからボランチにコンバートされた。理想とするボランチにチェルシーのMFエンゴロ・カンテの名前を挙げているように、157cmと小柄だが1対1の守備力が高く、ドリブル、パスとプレーの選択肢も豊富。新潟戦でボランチを組んだキャプテンのMF大久保舞は、「萌にゲームメイクを任せてより前目でプレーできる」と、変化を口にする。

肝付萌(左は浦和の角田楓佳)
肝付萌(左は浦和の角田楓佳)写真:西村尚己/アフロスポーツ

 また、最終ラインは昨季は3バックと4バックを併用していたが、カップ戦は4バックで戦い抜いた。センターバックには仙台から経験値の高いDF奥川千沙が入り、守備が安定したことで両サイドバックの攻撃参加も活性化している。

 3年目の岡本祐花は、昨季は3バックの一角だったが、4バックの左サイドバックにポジションを変え、カップ戦は全試合フル出場で1ゴール1アシストと活躍。同じく右のDF奥津礼菜もサイドハーフでのプレー経験があり、積極的な攻撃参加から2ゴールに絡んだ。

「センターバックの2人(奥川と岩下胡桃)がつなげて蹴れるので、サイドで高い位置を取っても大丈夫だという安心感があるし、前線の選手も時間を作ってくれるので自分が上がる時間が増えました。元々サイドハーフをやっていたので、上がる回数が増えて攻撃に参加できるのは楽しいですし、それが結果につながったのですごく嬉しいです」(岡本)

サイドバックにコンバートされ躍動している岡本祐花
サイドバックにコンバートされ躍動している岡本祐花写真:西村尚己/アフロスポーツ

【リーグ開幕まで1カ月】

 カップ戦で見せた新戦力の融合や若手選手の活躍はリーグ戦への期待を高めるが、一方で明確な課題も見えてきたと田代監督は言う。

「ボールを保持したときに引かれたり、背後を狙って蹴ってくる相手に対してはショートカウンターが利かないので、ビルドアップする力や、緩急を使ってスピードアップしていくところはカップ戦で見えた大きな課題です」

 昨季上位チームの多くはもう一つのグループに入っており、リーグ戦ではそうした強豪と初対戦することになる。守備力と個の力を兼ね備えた神戸や東京NBからゴールを奪うのは容易ではないだろう。

 それでも、このカップ戦で通用する手応えを得た自分たちのスタイルを磨きつつ、戦い方の選択肢を増やすことができれば、目標とする得点力アップや6位以内は見えてくるはずだ。

 WEリーグ開幕は10月22日。カップ戦で見えた課題を修正し、完成度を高めた各チームがどんなサッカーを見せてくれるのか期待している。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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