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WEリーグのネクストブレイク候補。FW藤野あおばがU-20ワールドカップを経て磨いた「個」の力

松原渓スポーツジャーナリスト
U-20W杯では準優勝に貢献した(写真:REX/アフロ)

【好パフォーマンスを支えるもの】

 WEリーグで、18歳の新星が勢いを増している。

 日テレ・東京ヴェルディベレーザのFW藤野あおばだ。

 8月から行われているリーグカップでは、直近の3試合で3ゴール。3トップや2トップの一角で攻撃を牽引し、10月に開幕するリーグ戦でブレイクが期待される逸材だ。

 藤野の代名詞はスピードだ。状況判断、初速、ドリブル、シュートまでの動きなど、一つひとつが速くて力強い。緑のユニフォームにオレンジのスパイクの鮮やかなコントラストはピッチ上で目立ち、速さを際立たせている。

 8月にコスタリカで行われたU-20女子W杯では飛び級でメンバーに選出され、背番号10を託された。ポジションは主に中盤の右で起用され、攻守にハードワークを惜しまず、準優勝に貢献した。

「前線には少ないチャンスをものにしてくれる選手たちがいるので、与えられたポジションで役割をしっかり果たせば、チームの勝利に少しでも貢献できる、という思いでハードワークを意識しています」

 大会中にそう語っていた藤野は、重要な局面でチームを支えた。初戦のオランダ戦(○1-0)は、立ち上がりに2本の強烈なシュートを放って流れを引き寄せ、海外勢との対戦経験が少なかったチームに自信を与えた。準々決勝のフランス戦(△3-3)では、延長後半アディショナルタイムのラストプレーで相手GKと競り合い、PKを獲得。「外せば終わり」という強烈なプレッシャーの中で同点弾を決め、PK戦では3人目のキッカーの重責を果たし、劇的な逆転勝利を牽引した。

「(PKは)得意じゃないし、緊張もしました。蹴る瞬間は、試合を決めるために思い切って振り抜きました」

 プレーの引き出しの多さと、重圧の中でも冷静に駆け引きできるメンタルの強さ。それらが藤野の好パフォーマンスを支えているのだろう。

【ゴールへの推進力が増した理由】

 コスタリカからの帰国後、チーム練習をこなす時間はほとんどなかったが、9月3日の広島戦で3トップに復帰。後半から出場して逆転ゴールを含む2ゴールを決めると、次の神戸戦(△2-2)で2ゴールに絡み、17日の相模原戦では均衡を破るゴールを挙げた。DF村松智子のロングパスに抜け出してDFラインの裏をついた形だったが、その3分前にはペナルティエリア外からの強烈なシュートがクロスバーを叩いている。

 相模原も対策しなかったわけではない。相模原の菅野将晃監督は、「通常の1対1では、シュートモーションの段階でブロックに入られてシュートに至らない場面も多いけれど、彼女は相手の守備のスライドも上回る速さでシュートが打てる。(力のある)新世代が出てきたなという感じがします」と、藤野を警戒。人数をかけて突破を阻みにかかったが、藤野は周囲とのコンビネーションプレーで、その守備網を打開した。

エリア外からの強烈なシュートも武器
エリア外からの強烈なシュートも武器写真:長田洋平/アフロスポーツ

 藤野は昨季、十文字高校から加入したが、もともとベレーザの下部組織(セリアス)出身。テクニックや周囲を生かすスキルがベースにある。その上で、個人に磨きをかけてきた。特にU-20W杯の経験は大きかったようで、大会前に比べると、ゴールへの推進力や相手に与える脅威は増したように感じる。

「(U-20)ワールドカップを通じて対人に強い外国人選手の当たりの強さを体感し、その経験を生かしてプレーできています。ゴールやアシストなど、攻撃的なところで力を発揮してチームに貢献したい。積極的に仕掛けて、ゴールを目指します」(藤野)

 一方で、課題も毎試合見つけている。神戸戦では攻撃時のアイデア不足と運動量、相模原戦では、前半の決定機で決めきれなかったことを悔やんでいた結果だけでなくプロセスにもこだわり、貪欲にゴールを狙う。

 カップ戦でグループBのベレーザは、2勝2分で、決勝進出に一歩リードした。ライバルの神戸が来週の広島戦に勝った場合は、得失点差の勝負になる。その結果を待ちつつ、10月1日の決勝、そして10月22日のリーグ開幕戦に向けて調整していく。

「決勝までは2週間あるので、コンディションを調整し、グループステージで出た課題を解決していきます。相手のゴールに迫るプレーや、シュートやクロスに対してゴール前に入っていくダイレクトなプレーの精度を高めて臨みたいです」(竹本一彦監督)

 カップ戦は、今週末と来週末の試合でグループステージを終える。10月1日の決勝、そして1カ月後に始まるリーグ戦に向けて、各チームの仕上がりにも注目している。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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