Yahoo!ニュース

山本柚月のゴールでヤングなでしこが難敵・オランダを撃破!明暗を分けたのは綿密な対策と情報応用力

松原渓スポーツジャーナリスト
アレハンドロ・モレラ・ソトスタジアムでオランダに勝利した

 U-20女子W杯が、コスタリカで開幕した。U-20日本女子代表(ヤングなでしこ)は、初戦でオランダを1-0で下し、大会連覇に向けて好スタートを切った。

「初戦で決まると言っても過言ではないと思うし、必ず勝利を掴まないといけない。内容はどうあれ、結果だけにこだわって戦いたいと思います」

 試合前にそう話していたのは、主将のDF長江伊吹だ。

 オランダはA代表が世界ランク6位(日本は11位)の強豪。近年は戦術面を発展させ、高さやスピードといった身体能力の高さをより効果的に活かすようになった。育成年代も方針は一貫していて、今大会に向けて同年代のフランスやアメリカ、ドイツなど強豪国との試合をこなしてきた。

 一方、ヤングなでしこは昨年5月のチーム始動以来、コロナ禍の影響で海外遠征を行なっていない。対外試合は、大会直前の韓国戦(○1-0)とカナダ戦(○2-1)の2試合のみ。その実戦不足は体の強い男子高校生とトレーニングするなどの工夫で補ってきたが、W杯初戦で特にリーチの差があるオランダと対戦し、優位に試合を進めることができるか。

 自分たちの立ち位置を知る意味でも、重要な初戦だった。

 会場で、日本のユニフォームを着た海外のサポーターをちらほら見かけた。コスタリカ人らしいボランティアスタッフは、こちらが日本人と気づくと、「前回大会のチャンピオンだね!」と声をかけてきた。

 日本がU-20W杯で初優勝した2018年の栄光は、女子サッカー界で比較的新しい歴史のページに刻まれている。ただ、今回のチームで当時の優勝を知るのは池田太監督だけだ。また、飛び級の選手が8人もいて、平均年齢は18.8歳と、過去のU-20代表チームと比べても若い。前回大会の成功によって膨らんだ周囲の期待が、ネガティブなプレッシャーになるのではないか?と心配していた。

 だが、それは杞憂だった。ピッチ上で躍動する選手たちからは、「ワールドカップを楽しみたい」という思いがほとばしっていた。

 日本は理想的な試合の入りを見せ、主導権を握った。オランダの攻撃をサイドに誘導し、相手陣内でボールを奪って攻撃に転じる。流動的な動きであっという間にペナルティエリアに侵入すると、豊かな連係プレーでゴールに迫った。

 前半4分と7分にFW藤野あおばが立て続けのシュートで相手にプレッシャーを与え、それに続くように他の選手も次々にシュートを放った。

 枠を捉える回数の低さは気になったが、攻撃をシュートで終わらせる流れは、カウンター攻撃を受けるリスクを相殺していた。

 待望の先制点を決めたのはFW山本柚月だ。23分、ペナルティエリアの手前でボールを受けたFW浜野まいかから、オフサイドラインギリギリで抜け出してボールを呼び込む。そして、角度のない位置からダイレクトで決めた。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)による確認が入るほどの際どいタイミングだったが、ゴールが認められ、ピッチ上に歓喜の輪が広がった。

 強豪オランダに1点のリードではやや心許なく、試合を決定づける2点目が欲しかったが、追加点は遠かった。そして後半、ロングボールを多用したパワープレーに転じたオランダが盛り返す。

 雨季特有の雷を伴うスコールが重なってボールが滑りやすくなり、クリアが曖昧になってサイドを突破されかけたシーンもあった。しかし、ペナルティエリア内ではDF石川璃音、長江、DF田畑晴菜の3バックが粘り強く対応。終盤はボールを大きくクリアして時間をコントロールし、貴重な1点を守り抜いた。

「前半はボールの動かし方や相手とのポジションで優位に立つことができて、準備してきたことが発揮できました。そこでもう1点取りたかったのが本音ですが、勝利できて本当に嬉しいですし、選手もしっかり戦ってくれました」

 池田監督はそう振り返った。W杯初勝利を掴み、チームは大きな一歩目を踏み出した。

【勝敗を分けたもの】

「奪われた後の切り替えや、最後まで走り切る力は見せられたと思うので、そういうところで(オランダとの)差がついたかなと思います」

 勝敗を分けたポイントについて振り返る長江の声には、興奮と安堵が入り混じっていた。雨と汗でユニフォームはシャワーを浴びたかのようにびっしょりだったが、最後まで集中力を切らすことなく、チームを鼓舞し続けたのだ。

 山本の決勝点をアシストし、プレイヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたFW浜野まいかは頼もしい感想を述べた。

「W杯の舞台で、観客もキラキラして見えました。たくさんの方が応援してくれていたので、プレッシャーとか相手の圧力もあまり感じることなく、楽しくプレーできました」

 この試合で世界に最もインパクトを与えた一人が、ボランチのMF大山愛笑だろう。「もともと緊張しないタイプ」というが、初のW杯の舞台でも驚くほど落ち着いていた。

 ボランチのコンビ歴が長いMF天野紗との呼吸はぴったりで、大山は中盤の底で広いスペースをコントロールしながら、天野の攻撃参加をサポート。味方と連係して相手選手を挟んでカウンターの起点になり、相手の裏をかくスルーパスやミドルシュートでも魅せた。

「私が中盤で守るゾーンは広いですが、前の選手をうまく動かして中盤や最終ラインで奪いきることを目指していました。しっかり周りを動かせたかなと思います」

大山愛笑
大山愛笑

 DF小山史乃観は左サイドでオランダにスペースを与えず、予測と技術で相手のスピードをほとんど消していた。そうした自らのスキルを大舞台で発揮できた理由はなんだと思うか聞くと、小山は迷いなくこう言った。

「前半の入りで、自分たちが持っている(スカウティングの)情報と同じだったので、『いけるな』と感じました。どの選手とマッチアップしても対応できるように準備していました」

 綿密なスカウティングと、その情報を応用できる個の力は、大会を勝ち上がるためのキーになるかもしれない。テクニカルスタッフはなでしこジャパンと同じで、レギュラースタッフの寺口謙介氏に加え、今大会は能仲太司女子副委員長がU-20日本女子代表チームの団長を務めている。能仲氏は、2011年のW杯優勝やロンドン五輪銀メダルをテクニカルスタッフとして支えた功労者である。

 また、今大会はコロナ禍で行われているため、陽性者が複数出た場合を想定して、スタッフは15名が帯同しているという。その厚いサポート体制も、ヤングなでしこの挑戦を支えている。

 日本は次戦、中2日で8月14日(日)に同会場でガーナと対戦する。ハードな日程だが、どんな逆境も楽しみながら乗り越えていけそうな期待感もある。ガーナ戦では持ち前の攻撃力に決定力を加え、グループリーグ突破に王手をかけたい。

*写真は筆者撮影

(取材協力:ひかりのくに)

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

松原渓の最近の記事