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なでしこジャパンが準決勝敗退。W杯まで1年半、課題克服で巻き返しなるか

松原渓スポーツジャーナリスト
3連覇への道を断たれたなでしこジャパン(写真提供:AFC)

 アジア3連覇への挑戦は、厳しい形で幕を閉じることとなった。

 なでしこジャパンはインドで開催されているAFCアジアカップ準決勝で、2月3日に中国と対戦。試合は延長戦にもつれ込む激闘となったが、2度のリードを守りきれず、PK戦の末に敗れた。ボール保持率は日本が67%(中国33%)、シュート数22本(中国は7本)と圧倒。内容的にも“まさか”の敗戦だけに、女子サッカー界に衝撃が走った。

 先制点を決めるまでは、理想的な流れだった。前からの守備で相手に反撃の隙を与えずにボールを支配し、相手陣内で試合を進めた。そして26分、中盤から左サイドにテンポよく展開すると、MF宮澤ひなたが左足で強烈なクロスを送り、走り込んだFW植木理子がヘディングで角度を変えて右隅に流し込む難易度の高いゴールを決めた。

 しかし、その後は決定機をいくつも逃した日本。後半立ち上がりに右サイドを破られて失点すると、パススピードや切り替えのテンポが徐々にペースダウンしていく。

 一方の中国も疲労で足が止まり始め、一進一退の試合は延長に突入。すると、延長前半13分にMF長谷川唯のフリーキックを植木が再び頭で沈め、値千金の追加点。しかし、日本はこのゴールも守りきることができない。試合終了間際の延長後半14分、右サイドからのクロスをエースのワン・シャンシャンに決められ、再び振り出しに戻った。

 PK戦は、先行の日本が相手GKに2本止められたのに対し、中国は二人目以降は全員が決めた。最後は、中国の勝利への執念が勝ったような結末だった。

 22本で2得点――。決定力の低さは、今大会を通じて見られた課題だった。また、この試合はベンチワークも「??」と、スッキリしなかった。

 過密日程と酷暑下での連戦で溜まった疲労は、選手たちの動きから時間とともにキレを奪っていった。味方へのサポートやパスを受ける前の準備が遅れ、いつもはミスが少ない選手のミスも目立った。

 中国はグループステージで1試合少なく(開催国インドが新型コロナの影響で撤退したため)、日本よりも疲労は少なかっただろう。その分、早めの交代で手を打ちたいところだったが、池田太監督は慎重だった。

 後半にフレッシュな選手を4人投入してきた中国に対し、日本は64分にMF遠藤純が入ったのみ。絶対に点を取らなければいけない状況で、ベンチから攻めの姿勢を貫いたのは中国の方だった。

「攻撃と守備のバランスを考えていたのと、パワーのある選手をどのタイミングで使うかのプランや得点失点のことを含めて、そういう交代になった」と、指揮官はその理由を説明している。

池田太監督(写真提供:AFC)
池田太監督(写真提供:AFC)

 FW菅澤優衣香やFW田中美南は、ケガやコンディションの問題もあったようだ。ただ、ミドルシュートのあるMF隅田凜やMF猶本光、サイドには機動力の高いMF成宮唯が控えていた。パワーのあるDF高橋はなを前線に入れて起点を作る作戦も有効に思えた。相手が欧州の強豪国ならいざ知らず、中国には2016年以来負けていない。誰がピッチに立ってもヒロインになれるぐらいの力の差があったと思うし、積み上げてきたチーム力を示して欲しかった。

 終盤のゲームコントロールが徹底されていなかったことも、掴みかけていた勝利がこぼれていった要因だ。

 植木の2点目で再びリードを奪った後、池田監督は延長前半に成宮を、終盤には最終ラインに高橋を投入して守備固めに舵を切った。一方で、細部までは徹底しきれていなかった。リードを守れず終盤に追いつかれる展開は、グループステージの韓国戦(△1-1)でも見られた。

「守りきらなければいけない時間帯で、具体的にどう戦うのか。誰がキープして誰が相手陣内の角(コーナー)に運んで、という(具体的な)ことは全員の共通認識が必要だと思うし、その時間帯にセットプレーを与えない。そういう認識はこれを教訓にしていかなければいけないと思います」

 新体制で初の国際大会だったが、それは中国も同じ。主将のDF熊谷紗希は準備不足を言い訳にせず、険しい表情で敗戦を受け止めた。

 辛い敗戦だが、希望も見えた。

 ここぞという場面での植木の「一発」は、新生なでしこジャパンの武器として鮮烈に印象付けられた。

植木理子(写真提供:AFC)
植木理子(写真提供:AFC)

 今大会は5試合で5ゴール。特に、開始32秒で決めた韓国戦の“電光石火弾”と、この試合で決めた2つのヘディングは、いずれも植木の良さが発揮された形だった。ただ、ストライカーとしては大きな課題も持ち帰ることに。

「なでしこジャパンで大きな国際大会に出るのが初めてだったので、気合いが入っていたし、ゴールを決めたことは自信になりますが、チームを勝たせるゴールを決めることができなかった。後半、何本かあったシュートチャンスを決めていればこの試合展開にはならなかったので、自分の未熟さを感じた大会でした」

 植木は、冷静な口調で言葉を並べた。

 日本女子サッカー界にとって、ストライカーの育成や決定力の向上は長く課題とされてきた。

 WEリーグでは、スピードやパワー、決定力を備えた10代の若手選手たちも頭角を現してきている。その選手たちが世界で点を取れるストライカーになるために何が必要なのだろうか。

 リーグ全体の強度を今まで以上に向上させていってほしいが、一朝一夕とはいかない。そのため、特にアタッカーは、FW岩渕真奈や長谷川のように海外の強豪リーグで腕を磨くことができれば理想的だ。あとは、WEリーグのクラブが海外の強豪クラブと提携して、有望な若手FWをレンタル移籍(交換)で送り出し、短期(1年〜)でも経験を積む機会を作れないだろうか?

 ただ、全体の底上げという意味では、まずは世界トップレベルの外国人選手をWEリーグに招聘したい。

 また、WEリーグは試合数が少ない。それは国内リーグのレベル向上を阻害する要因の一つだ。それは、今大会に臨んだなでしこジャパンがコンディション調整に苦労したこととも無関係ではないはずだ。

 来年7月に予定されているW杯までに、できることはいろいろある。アジア女王ではなくなった日本が、ここからどんな巻き返しを見せてくれるのか、見守りたい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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