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MF長野風花が魅せる技巧と駆け引き。韓国戦のキーパーソンになれるか?

松原渓スポーツジャーナリスト
長野風花(写真提供:AFC)

 AFC女子アジアカップで、なでしこジャパンのボランチ、MF長野風花が存在感を示している。

 柔らかいタッチで淀みなくボールを動かし、膠着した試合に流れを生み出す。

 真骨頂は、攻撃の起点となる正確なパスだ。ボールは意思を持った生き物のように、明確なメッセージを味方に届ける。

 長野は現在22歳。チームでは下から3番目の若手だが、プレーにはベテラン選手のような風格も感じさせる。

 それは、非凡なキャリアと無関係ではないだろう。世代別代表ではU-17代表とU-20代表で二度、世界タイトルを獲得した早熟のボランチだが、長野の目標は、なでしこジャパンでその頂に立つこと。

 成長できる環境を自らの足で掴み取り、プロ生活は5年目に突入している。

 なでしこジャパンが池田太監督の下で10月に新体制となってから、4試合中3試合に先発した。合計出場時間は273分で、右サイドバックのDF清水梨紗(325分)、サイドハーフのMF宮澤ひなた(282分)に次いで長い。

 24日のベトナム戦。マンツーマンで粘り強く守る相手の堅守に手を焼くなか、後半途中から出場した長野は、7度目のボールタッチで魅せた。

 中央でMF隅田凜からパスを受けると、長野は右に少しボールを動かし、相手3人を自分に引きつけた。

 その左右にできたスペースで味方とパス交換、あるいは浮き球で右の背後を狙うか。そのどちらかだと思った。だが、予想は見事に裏切られた。長野は視線で相手選手たちを騙し、密集の足下を通す大胆な縦パスを選択したのだ。

 意表を突かれた相手の足が止まった隙に、日本は一気にペナルティエリア内に侵入した。得点にはつながらなかったものの、相手を翻弄する遊び心と計算し尽くされたスキルフルなプレーが、心地良い余韻を残した。

 駆け引きの上手さは、フル出場した21日のミャンマー戦でも見られた。

「直線的に(ゴールを)狙うのではなくて、パスの強さを変えてみたり、ボールを動かして(パスを味方に)つけながら、相手の食いつき方を見てプレーしていました」

 緩急をつけたパスでリズムを作り、オフザボールでも積極的に動いてゴールへの伏線を作り出し、5-0の勝利に貢献した。

守備での貢献度も高い
守備での貢献度も高い写真:ロイター/アフロ

 長野は今季、WEリーグのマイナビ仙台レディースで、チームの上位躍進を支えてきた。試合前には、美しいパスサッカーで一世を風靡したMFシャビ(元バルセロナ)のプレーを見てイメージトレーニングをするのだという。

「柔よく剛を制する」

 長野のプレーがそのように見えるのは、シャビの影響もあるのかもしれない。ボールを持つと、次は何をするのだろう?とワクワクするのだ。

 ただ、11月の欧州遠征では悔しい思いもしている。強靭なフィジカルを持つアイスランドやオランダに対して見せ場も作ったが、ゴールは奪えず、1分1敗に終わった。

「私がもっとゲームをコントロールしながら、攻撃でも守備でも、もっと(グラウンドの)幅を使わなければいけないと思いました。アジアカップでは、ゴールに向かう決定機をより多く作ることが目標です」

 今大会はその明確なテーマを持って臨み、毎試合、着実にチャンスを作り出している。

 27日の韓国戦では、キープレーヤーの一人になるだろう。長野は2018年に、韓国女子サッカーリーグの仁川現代製鉄レッドエンジェルズでプレーしたことがある。代表チームの大黒柱であるMFチ・ソヨン(チェルシー)とも練習を共にしたことがあり、互いのことはよく分かっているはずだ。

「韓国の選手はフィジカル、スピードが他の(アジアの)国とは違います。球際では本当に強くボールを奪いにくるので、その勢いを自分たちが受けないようにすることが一番大事だと思います」

 守備力や運動量でもチームを助ける長野だが、やはり期待したいのは攻撃の起点になるプレー。観客のため息を誘うような美しいパスで、チームに勝利をもたらしてほしい。

なでしこジャパンの攻撃の起点となるか(写真提供:JFA/PR)
なでしこジャパンの攻撃の起点となるか(写真提供:JFA/PR)

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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