【強豪との2連戦で好スタート】

 強豪との2連戦で1勝1分け。昨季なでしこリーグ2部に甘んじていたことを考えれば、理想的なスタートを切ったと言えるだろう。

 AC長野パルセイロ・レディースのことだ。今季から開幕した女子プロサッカー「WEリーグ」で、長野は第2節を終えた時点で首位の三菱重工浦和レッズレディースに次ぐ2位に浮上した。

 9月12日の開幕戦は、アウェーでアルビレックス新潟レディースに3-1で勝利。そして、18日のホーム開幕戦では、日テレ・東京ヴェルディベレーザを迎え、0-0のスコアレスドロー。

 特に長野Uスタジアムで1,957名の観客が見守ったベレーザ戦は、白熱した攻防に。

 長野は攻撃力のあるベレーザに対しても引いて守るのではなく、前線からのハイプレスと連動したハードワークで、点を取りに行った。攻め込まれる時間が多い中、鋭いカウンターから決定機も作り、互角の印象さえ与えた。

 男子のAC長野パルセイロのサポーターも多かったらしく、ハーフタイムには、客席から「これは面白いな!」と、弾むような声が聞こえてきたほどだ。

 そのアグレッシブな守備を最終ラインで支えていたのが、DF五嶋京香(ごしま・きょうか)だ。東京五輪に出場した選手や元代表選手たちの活躍に注目が集まる中、五嶋は彼女たちに負けじと輝きを見せていた。

 昨季はなでしこリーグ2部で戦っていた。それだけに今季はWEリーグで、国内トップクラスのアタッカーたちと対戦できることを楽しみにしてきた。シーズン前に彼女の話を聞いたときも、「自分ができることとできないことが、はっきりしてくると思います」と、厳しい世界で揉まれることを心待ちにしているようだった。

 だからこそ格上相手に手にした勝ち点1に喜ぶ彼女の姿を想像していたが、試合後の五嶋に笑顔はなかった。ベレーザの悔しそうな雰囲気とは対照的に、長野にはほっとした表情を見せる選手もいたが、五嶋は満足していないようだった。

「サポーターの皆さんの前で、勝ち点1を取れたことは前向きに捉えたいですが、勝ち点3を取りたかった。それが正直なところです」

 その言葉には、結果がすべてのプロリーグを戦うことへの自覚とそれを果たせなかった悔しさ、何よりも五嶋の強い覚悟が滲んでいた。

ホーム開幕戦は1,957名の観客が見守った(筆者撮影)
ホーム開幕戦は1,957名の観客が見守った(筆者撮影)

【強みを磨いた6シーズン】

 一見すると、飄々(ひょうひょう)とプレーしているように映る五嶋だが、内に熱い気持ちを秘めたファイターだ。

 身長は156cm。WEリーグで最も小柄なセンターバックだ。だが、自分より10cm以上背が高いアタッカーにも競り勝ち、俊敏な動きでボールを奪う。彼女が自身の強みとして「ヘディング」と「インターセプト」を挙げているほどだ。

 自分よりも背が高く、リーチの長い選手たちを相手にしても、たしかな守備力を発揮できる要因は何だろうか。

 まずは、的確なコーチングが光る。五嶋は90分間、絶えず声を出し続ける。その声で味方を動かして自分のところに誘い込み、ボールを奪う。

 2つ目は、予測力だ。日々、1対1の練習を重ねる中で、予測の質に磨きをかけてきたそうだが、試合勘を継続的に維持してきたことも大きい。五嶋は2015年に高卒ルーキーとして加入し、2年目から試合に出続けてきたのだ。

 10代の選手がコンスタントに出場機会を得ることは容易ではない。だが、五嶋はどの監督の下でも信頼を得て、1部と2部で公式戦100試合以上を戦ってきた。

「いかに体を当てずにボールを取るか。そのために自分から駆け引きを仕掛けることもあります」

 そうして培ってきた予測力と試合勘があるからこそ、マッチアップする相手の出方を、ギリギリまで我慢して見定めることができる。そして、相手の足からボールが離れる瞬間や、FWに縦パスが入る寸前を狙い、的確な一撃で仕留める。味方のカバーに回った時の対応も安定していて、フィニッシュの場面では体を投げ出してゴールを守る。

 そして、対峙する相手や試合の傾向を短時間で掴む「観察力」だ。

「新潟の道上(彩花)選手はボールを収めるタイプでしたが、ベレーザの植木(理子)選手や小林(里歌子)選手は裏への抜け出しや、ラストパスが武器だと思っていたので、1つ先のプレーだけではなく、2つ先のプレーを予測していました」

 ベレーザ戦では66分、ゴール前で至近距離から放たれたシュートに、間一髪のタイミングで体を滑り込ませてブロック。79分には、「通れば1点」というベレーザのラストパスを鋭い出足で奪い、カウンターに繋げた。まさにセンターバック五嶋の真骨頂だった。

 もっとも、その強みは一朝一夕で作られたものではない。

 大分県出身で兄の影響で5歳の頃にサッカーを始めた五嶋は、元々は攻撃的なポジションでプレーしていた選手で、長野でレギュラーになった16年は、サイドハーフやサイドバックもこなしていた。

 筆者の手元にある16年の取材ノートには、当時、ベレーザの中盤でプレーしていたMF長谷川唯(現ウェストハム・ユナイテッド)に、鮮やかなテクニックでかわされながら二度、三度と粘り強く、しつこく食らいついていた五嶋の姿が記されている。当時は今よりも荒削りで、泥臭いプレーをしていた。

 あれから5シーズン。たゆまぬ努力と先輩たちの背中から学んだ経験を生かし、15年の2部優勝、16年の1部3位の快進撃、19年の2部降格と、栄光と挫折を経験した。その中で、泥臭さに「うまさ」や「知性」を融合させ、プレーは深みを増した。

写真:森田直樹/アフロスポーツ

 在籍年数は、GK池ヶ谷夏美(8年目)に次ぐ7年目。そして、WEリーグ初年度の今季、キャプテンを任された。長野は加入1、2年目の若手選手が多い。24歳の五嶋は若い選手たちにも声をかけ、チーム全体への目配りを欠かさない。

【理想のセンターバック】

 そんな五嶋の存在は、長野だけではなく、彼女のような小柄な選手たちにとっても勇気となり励みとなっているに違いない。

 そもそもクロスやロングボールに対応することが多いセンターバックは、高さが一つの武器として捉えられる。だが、小柄であるからこそ発揮できる強みもある。

 たとえば、バルセロナのレジェンドのひとり、DFカルレス・プジョルは178cmで、欧州の男子選手の中では決して大柄ではなかった。だが、状況に応じたポジショニングやボール扱いに長け、闘志溢れるファイターとして、スペイン代表でも長く活躍した。

「ツネ様」こと、元日本代表のDF宮本恒靖氏(前ガンバ大阪監督)も、身長は176cm。センターバックとして高さはなかったが、鋭い予測と技術、優れたキャプテンシーを発揮し、Jリーグやオーストリアリーグ、そして長年、日本代表で活躍し、2度のW杯出場を果たした。

 女子では、出産を経てピッチに立ち続けているベレーザのDF岩清水梓が第一人者だろう。代表では2006年から10年以上、世界の猛者と渡り合い、世界一にも輝いた。身長は163cmで、国際大会では背が低い方だったが、予測力と勝負強さ、そして圧倒的なコーチング力で日本の最終ラインを支えた。

 五嶋にセンターバックとしての理想を聞いたことがある。その時、東京五輪でU-24代表をオーバーエイジとして支えたDF吉田麻也(UCサンプドリア)のプレーについて熱く語ってくれた。ビルドアップの技術の高さや、得点に直結するFWへのパス、最後の砦としてチームに与える絶対的な安心感ーー。

 五嶋は、チームを勝たせるセンターバックになるために、自身に厳しいハードルを課す。

「新潟戦で1本だけ、(1対1で)負けたところが引っかかっています。100パーセント負けないことを目標にしているので、そこを突き詰めて、当たり負けないようにしていきたいと思います」

 次節は、9月26日に相模原ギオンスタジアム(神奈川県)で、ノジマステラ神奈川相模原と対戦する。ノジマは、前線に182cmのFWサンデイ・ロペス(ナイジェリア)と、160cmで決定力のあるFWケーニヒ・シンディ(ドイツ)という2人のゴールハンターがいる。

 日本人選手とは異なる高さや強さに、五嶋はどう対応するだろうか。見応えのあるマッチアップに期待したい。