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MF杉田妃和が大切にする「ファーストプレー」。DFブロンズとの勝負がなでしこの立ち上がりを引き締めた

松原渓スポーツジャーナリスト
杉田妃和(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 なでしこジャパンは7月24日の東京五輪第2戦でイギリスと対戦。74分のFWエレン・ホワイトのゴールにより、0-1で敗れた。だが、1対1や局面の駆け引きでは、見どころもあった。

 12分、MF杉田妃和が左サイドで仕掛けてファウルをもらったシーンは、コロナ禍でなければ、スタジアムが歓声や拍手に包まれていたに違いない。

 杉田が対面したのはイングランドのスタープレーヤー、DFルーシー・ブロンズ。FA WSL(FA女子スーパーリーグ)のマンチェスター・シティ所属で、昨季はディフェンダーからは異例の選出とも言えるFIFA最優秀選手に輝いた29歳の頭脳派サイドバックだ。イングランド代表で出場した2019年フランスW杯でシルバーボール(準MVP)に輝いた選手でもある。

 なでしこジャパンが強豪国との対戦で課題にしてきた、立ち上がり15分の入り方――それをどう解消するのか。以前、杉田に聞いたことがある。杉田はこう答えた。

「マッチアップする選手や近くにいる相手に対して、1対1でも球際でも、最初の勝負が大事になってくると思うので、ファーストプレーは特に大事にしています」

 イギリス戦では、まさにそのファーストプレーがチームに勢いを与えた。

 杉田は、2度目にボールを触った15分にも再びブロンズとマッチアップ。ここでも仕掛けてコーナーを獲得した。守備では、早い時間帯に相手陣内で1対1でボールを奪ってチャンスに繋げた場面や、相手の得点源であるFWエレン・ホワイトを日本のペナルティエリアから追い出し、そのまま体を入れてボールを奪うこともあった。

 元々ボランチ専門だった杉田が左サイドハーフでプレーするようになったのは、昨年からだ。国際大会では今大会が初めてだった。五輪初先発の舞台でマッチアップしたのが百戦錬磨のブロンズだったが、無難なプレーではなく、あえて相手の嫌がるプレーにチャレンジした。

「サイドハーフでのプレーは親善試合でしか経験したことがなかったので、強い相手に対してどう仕掛けていこうかと考えました。サイドの突破は自分の持ち味ですし、日本人はそういうプレーをしないと思われている中で仕掛けたら、イギリスの選手も嫌だろうな、と思って仕掛けました。抜いた後にファウルをもらって、攻撃に勢いを与えることはできたかなと思いますが、もっとゴールの近くで仕掛けたり、クロスで惜しいシーンを作りたかったです」

 22歳で出場した19年のW杯は、ボランチで全試合に出場。だが、昨季途中にINAC神戸レオネッサで、ゲルト・エンゲルス監督により左サイドを任されてから、持ち前の守備力と推進力、そして豊富な運動量を生かし、新境地を開いた。今年、就任した星川敬新監督の下ではFWで起用されることもあり、ゴール前のスキルも磨いた。6月の合宿時には、「サイド突破やクロスなど、得点に絡むことができるので、ボランチよりも楽しいなと思うことがありますし、プレーの幅が広がりました」と、楽しさを語っていた。

 紅白戦や練習試合では、立ち位置をいろいろと変えて、相手にとって嫌なポジションを探り続けた。昨季からはジャンプやリーチを長くすることに取り組み、「目線を高くできるようになって、スピードが出てきたかなと思うようになりました」と、フィジカルトレーニングの成果も実感している。

 元々、ドリブル時も背筋がまっすぐに伸びて姿勢が良く、両脚で同じように蹴れるため、対峙する相手はボールを持った時に予測しにくく、苦労する。脚が長く、コンタクトにも強いので、感覚的には海外の間合いに近いのかもしれない。

 杉田は、強豪国の選手たちとのマッチアップについて、年代別代表と比べて、「トップ(A代表)になると相手の駆け引きが上手くなって、自分のタイミングで行けなかったり、取りたいポジションを取らせてくれないので、ゲームの流れや味方のサポートを考えて、頭も体も常に動かしていかなければいけないんです」と、明かしたことがある。

 苦しい試合でも、表情を変えずに走り抜く。メディアの前では飄々とした受け答えで、クールな印象も与えるだけに、以前リーグ戦の終盤の上位争いでINACが大敗した時、杉田の涙を見た時は意外だった。思いがけず、その熱い思いが堰を切ったように溢れ出すことがあるのだろう。

 「練習から常に100%を出す」。杉田が大切にしていることの一つだ。静かに語られる言葉の端々に、人一倍の負けず嫌いと強いこだわりが宿る。

 イギリス戦後、杉田は最後に取材エリアに現れた。

「1試合目より2試合目は良くなってきているところもありますが、前半の最初や、流れの悪い時にぽろっと失点してしまうので、細かく繋ぐだけでなく、はっきり切るようなプレーも必要だと思います。切り替えて、次の試合もチャレンジします」

 初戦は、1点ビハインドの76分からピッチに立って流れを引き寄せ、2戦目は立ち上がりから持ち味を発揮した。27日のチリ戦で、杉田はどんなプレーを見せてくれるだろうか。その心に燃える勝利への思いをエネルギーに変えて、思い切りピッチで表現してほしい。

写真:YUTAKA/アフロスポーツ

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【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

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スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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