【メキシコが見せた“本気”】

 なでしこジャパンは、6月13日にカンセキスタジアムとちぎで行われた「MS&ADカップ」で、メキシコと対戦。東京五輪を想定し、10日のウクライナ戦(8-0で勝利)から中2日で行われたこの試合で、5-1と快勝した。五輪メンバー発表前最後となった今回の2連戦では、計17人の選手が先発し、2試合とも交代枠の「6」をフルに使い切った。そして、2試合を通じて多彩な形から8人の選手がゴールを決め、メンバー生き残りへのアピールが光った。

 高倉麻子監督は試合後、「みんなが結果を出すので本当に頭が痛くて……」と、喜びと悩みが入り混じった様子で語り、「彼女たちの人生がかかっていることは私自身が受け止めながら、ベストと信じた選手を選んでいきたいです」と、選考を前にした心境を語った。最終メンバーは、今月18日に発表される。

 今回のメキシコ戦は、栃木県内で開催される初の代表戦となった。コロナ禍で観客制限はあるが、この試合は3,890人が入り、近隣の駐車場は、栃木県のナンバーをつけた車でいっぱいに。気温が33度だったウクライナ戦に比べるとキックオフ時の気温はやや低めだったが、スタジアムのボルテージは高まっていた。

 日本はウクライナ戦からスタメン6人を交代して臨んだ。GK池田咲紀子、4バックは右からDF清水梨紗、DF熊谷紗希、DF南萌華、DF宮川麻都。ダブルボランチはMF中島依美とMF林穂之香、両サイドは左にMF長谷川唯、右にFW籾木結花。そして、FW岩渕真奈とFW田中美南が2トップを組む4-4-2のフォーメーションでスタートした。2016年以降の高倉ジャパンでは初めて、先発の過半数(熊谷/岩渕/長谷川/林/田中/籾木)を海外組が占めた。

 メキシコはFIFAランキング28位(日本は11位)で、北中米カリブ海サッカー連盟ではアメリカ(1位)、カナダ(8位)に次ぐチームだ。モニカ・ベルガラ監督は同国の元代表選手で、指導者としては2018年のU-17女子W杯準優勝など、年代別代表で結果を残してきた。「女子サッカーの国際試合はすべてチェックしている」という熱心な指揮官で、試合前日の記者会見では、「ベストな状況で試合に臨むことが、今回いただいたご招待に対する感謝の表れです」と、1カ月後の五輪に向けたなでしこジャパンの強化のためにも全力を尽くすことを明言。ウクライナと同じ7日の朝に来日し、6日間の調整をして、万全の状態でこの試合に臨んでいた。

メキシコ女子代表
メキシコ女子代表写真:松尾/アフロスポーツ

 スペインのレアル・マドリード(女子)や、アメリカの大学でプレーする選手も多く、日本に比べると体格が良い。サッカーは攻守共に組織的で、ウクライナに比べて個々の力や戦術面では明らかにレベルが上だった。

 ウクライナ戦で、試合の入り方が課題となった日本は、この試合では集中した入りを見せている。選手同士が近い距離感でサポートし合いながら効果的にボールを動かし、メキシコのプレッシャーをかわしてゴールに迫った。メキシコのフォーメーションは、欧米のチームに多い4-3-3。以前は同じ形を採用するアメリカやイングランドに対して、日本は中盤のミスマッチを利用されて後手に回ることがあったため、その点でも良い相手だ。アンカーのMFナンシー・アントニオのマークが浮きやすかったが、試合の中で修正しながら中盤の主導権を握った。

 だが、なかなかゴールが決まらず、逆に28分にはミスからFWステファニー・マジョルに一気にシュートまで持ち込まれた。ここはGK池田のファインセーブに救われ、ことなきを得ている。

 そして、少ないチャンスを決めようとメキシコが勢いづく不穏な流れを断ち切ったのは、やはりエースの岩渕だった。

 35分、籾木のパスを相手陣内中央で受けた林が、相手を引きつけて岩渕にパスを送ると、岩渕は大柄の相手センターバックを細かいタッチのドリブルで翻弄し、ゴール右隅に蹴り込んで先制。このゴールを皮切りに、1点リードで前半を折り返した日本は、後半に4得点と攻撃力を爆発させる。

 まずは後半立ち上がりの46分、南のロングパスを相手陣内左サイドで受けた岩渕が縦に仕掛けて、GKとDFの間を抜く速いクロス。ゴール前に田中がトップスピードで走り込んで決め、カウンターからリードを広げた。

追加点を挙げた田中美南
追加点を挙げた田中美南写真:松尾/アフロスポーツ

 その3分後の49分に左サイドを崩されて1点を返されたが、5分後には相手陣内で得たフリーキックで、中島が機転を利かせた素早いリスタートを見せる。パスを受けた岩渕の折り返しに籾木が走り込んで決め、3-1。その後、58分にMF塩越柚歩、MF木下桃香、71分にMF杉田妃和、FW遠藤純が交代でピッチに立ち、システムを4-2-3-1に変更した。塩越がワントップ、杉田がトップ下に入る初めての形でテスト色が強まったが、攻撃は再び活性化。

 74分、熊谷のロングパスを受けた塩越がポストプレーで遠藤に落とし、遠藤はドリブルで仕掛けて深い位置からマイナスのクロスを送ると、逆サイドでボールを受けた木下が相手の股を抜く技ありシュートを決めて4-1。チーム最年少の18歳が代表初ゴールで試合を決定づけた。

 さらに、81分にはDF高橋はなとMF三浦成美を投入し、試合を締めにかかる。86分には中島の正確なフィードが遠藤の動き出しにぴたりと合い、遠藤が右足で豪快に蹴り込んで代表初ゴール。疲れの見えるメキシコに対して得点を重ねた日本が、5-1の快勝で試合を締めくくった。

【アタッカーは激戦区に】

 コロナ禍で強豪相手とのマッチメイクが難しい中、この試合も結果的に点差は開いたが、メキシコはベルガラ監督の言葉通り、最後まで戦う姿勢を失わず、日本にとってもチャレンジし甲斐のある90分間だった。

 左右のサイドからクロスを放り込まれる場面を数回作られたのは、直近の3試合では見られなかった課題だ。そのうちの一つを決められたが、これがアメリカやスウェーデンなら、スピードのあるサイドアタッカーと決定力のあるストライカーで確実に決めてくる。クロスを上げさせないための守備を突き詰めていかなければならない。前線からの守備で相手を追い込んでも奪いきれないシーンは、ウクライナ戦同様、この試合でも見られた。奪いどころを共有するイメージは、コミュニケーションを重ねて質を高めているが、球際のアプローチにはまだ個人差がある。

 海外組は、外国人選手たちと普段の練習からマッチアップする中で、マンツーマン気味の守備や、奪いにくる球際の激しさなど、国際試合に通じる感覚がアップデートされたことを口にしている。

 だが、欧州の最前線で長く戦ってきた熊谷の寄せはさらに強い。「抜かれない守備というよりは、ボールを奪いにいく守備をやっていきたいと思っていますが、もう1歩、2歩寄せられるところはあったと思います」と、球際の強度も課題に挙げた。最終ラインからの声かけは、守備のコースの切り方に加えて、さらに強度を上げるような要求もしているという。

熊谷紗希(右)
熊谷紗希(右)写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 一方、熊谷は攻撃面について、「相手のフォーメーションや戦い方を試合の中で掴みながら、自分たちで話し合って(臨機応変に)ポジショニングや立ち位置を変えながら戦うことができて、2試合で次につながるチャレンジになったと思います」と、手応えを口にしている。

 前半、いくつかのチャンスを逃して先制するまでに時間がかかったが、結果的にチームとして多彩なパターンで点が取れたことは、自信につながる。この2試合で塩越、宝田沙織、木下、遠藤と、代表経験の浅い選手や若手選手が代表初ゴールを記録。籾木は4月のパラグアイ戦から4試合連続ゴール、杉田は初ゴールを決めたパナマ戦から2試合連続ゴールと好調だ。18名の選考の中で、FWと両サイドハーフは熾烈な争いが予想される。その観点で、前線のポジションを考えてみたい。

 中2日の連戦を戦い抜く上で複数のポジションができることは重要だが、勝つためには相手の脅威となる生粋のストライカーも必要だ。

 その点、重要な試合でゴールを決め、アシストも多い岩渕は替えが利かない。ただ、連戦による疲労度を考えると、岩渕のように強豪相手にもゴールを決めてくれるFWがもう一人は欲しい。

 国際大会の経験豊富なFW菅澤優衣香に期待がかかるが、田中もチームの得点源になり得る選手だ。ゴールという「結果」にこだわり続けてきた田中は、その強い気持ちが焦りにつながって逆にゴールから遠ざかっているように映ることもあった。だが、この試合では、メキシコの最終ラインにとってたしかに怖い存在となっていた。それは、岩渕、長谷川、籾木ら、代表や所属チームで長くプレーしてきたメンバー同士の連係の良さもあるが、昨年から環境を変え、プレーの幅を広げたことも大きいのだろう。2019年までプレーしていた日テレ・東京ヴェルディベレーザではゴール前で仕事をする純粋なセンターフォワードの印象が強く、4年連続得点女王にも輝いた。だが、昨年加入したINAC神戸レオネッサでは、中盤に降りてゲームを作る場面も増えており、この試合ではその形からいくつかのチャンスを演出している。今年2月はじめから今月末まで、期限付き移籍でドイツのバイヤー・レバークーゼンでプレーしていた。

「間合いとか、ボールに対して突っ込んでくる勢いへの対応力は、半年間やってきてプラスになりました」と、短い期間ではあったが、屈強な海外選手に対する“免疫”を獲得している。また、攻守の細部について、ピッチ上で感じた違和感をうやむやにせず、積極的に発信できるコミュニケーション力も田中の強みだろう。

 中盤では、この試合で魅力を全国区にアピールしたのが林だ。代表キャップ数は「5」とフル代表での経験は浅いが、U-20女子W杯は2大会連続で出場して2016年は3位、18年のフランス大会ではボランチとして初優勝を支えた。

林穂之香
林穂之香写真:松尾/アフロスポーツ

 林にとって、今の代表は7割近い選手たちが年代別代表時代の“戦友”で、コンビネーションは滑らかだ。現在23歳だが、昨年まで所属したセレッソ大阪堺レディースでは、平均年齢20歳以下の若いチームをキャプテンとして率い、なでしこリーグ1部で4位まで躍進させた。そして、今季からはスウェーデン1部のAIKフットボールというチームに加入し、ゴールを決めるなど存在感を示している。スウェーデンは代表チームがFIFAランク5位の強豪で、東京五輪でも優勝候補の一角だ。林は北欧の大柄な選手たちの中でプレーしていることで外国勢相手の予測力も上がり、対人プレーで成長を見せている。また、これまで代表ではショートパスでリズムを作りながら中盤のバランスを取ることが多かったが、スウェーデンでは展開力も求められており、4月の合宿時には、「スルーパスなどで、アクセントもつけられるようになりたいです」とも話していた。メキシコ戦で岩渕の1点目を演出したアシストは、まさに言葉通りの成長を感じさせる一手だった。

 それだけでなく、相手の攻撃の芽を摘み、選手が流動的に動く中盤のスペースを埋めながら、ドリブルで相手を引きつけてかわす積極的なプレーも見られた。

 なでしこジャパンの心臓部となるボランチは中島、杉田、三浦の3人が担ってきたが、林も3人に近いレベルで試合の流れを読める。そのため、途中交代でも先発でも流れを変えることができる。杉田はサイドやFWでプレーする可能性もあるため、林が中盤に入ることでボランチの選手層は解決されるのではないだろうか。

 左サイドハーフは、岩渕とともにこのチームのキーマンである長谷川が軸となるだろう。二番手には、同じく左サイドを主戦場とする遠藤が、2試合とも限られた時間の中で2つのアシストとゴールという目に見える結果を残した。チームに勢いをもたらすキーパーソンになるかもしれない。スピードが武器の一つだが、ボールを持った時のスピードが上がっており、この2連戦では、ウクライナとメキシコのDFをドリブルで置き去りにするシーンがあった。また、所属するベレーザでは左サイドバックや右サイドハーフなど複数のポジションを経験し、守備力や利き足ではない右足の精度も高めている。18年のU-20W杯では優勝の立役者の一人となり、19年W杯では最年少で選出されるなど、若くして得難い経験を積んできた21歳は、スケール感を増していて頼もしい。

遠藤純(中央)、木下桃香(右)
遠藤純(中央)、木下桃香(右)写真:松尾/アフロスポーツ

 右サイドハーフでは、籾木は国際経験もあり、欧米勢相手にも結果を残していて計算できる選手だ。所属するOLレインでは、アメリカ代表のFWメーガン・ラピノーをはじめ、各国代表のアタッカーたちの中で厳しいレギュラー争いに晒されており、試合勘については心配もあった。だが、限られた時間で結果を残す感覚は、研ぎ澄まされているように感じる。

 両サイドハーフは塩越、木下も候補に入る。2人は強豪国との対戦経験がないが、チーム内での連係はスムーズで、共にゴールという結果でアピールした。全体のポジションのバランスによって、18名に入る可能性はある。

 年代別代表に飛び級で入り、活躍してきた木下は、スピードとテクニックがあり、両足を使える。代表初ゴールは「シュートの威力がないので、普段から股を抜いてGKの逆を突くことを意識していました」という狙い通りの形。ただし、本人は「もっと相手が強くなった時にゴールを奪えるかというと、今の自分はまだ力不足だと思います」と、課題と自覚している守備も含めて、地に足をつけて前を見据える。

 今回は、ベレーザのチームメートが多いこともアドバンテージだった。18歳でW杯優勝メンバーになった岩渕は、「自分も長年、途中出場が多かった中で、点を取ることで得られる自信がすごくあると思いますし、桃香の初ゴールはチームにとってもポジティブなことです。一緒にピッチには立てませんでしたが、同じ時間を共有できて嬉しいです」と、新たなルーキーの台頭を喜んでいた。木下が未来のなでしこを担う一人になっていくことは間違いないだろう。

 予想が難しいのはサイドバックだ。右は清水が不動のレギュラーだが、やはり6連戦を想定すると控えに本職のサイドバックがいて欲しい。

清水梨紗
清水梨紗写真:松尾/アフロスポーツ

 左サイドバックは、今回のメンバーの中ではMF宮川麻都、MF北村菜々美、DF高橋はなの3人が候補となったが、宮川と北村は右もでき、高橋はFWもこなせるユーティリティ性の高い選手だ。また、塩越や遠藤も、練習や試合でサイドバックのポジションを試されている。本職の左サイドバックとしては、今回は外れているが、DF鮫島彩の存在を忘れることはできない。

 今回の2連戦には呼ばれていない選手の中でも、18名に選ばれる可能性はある。万全のコンディションで大会に臨める選手を選ぶことを、高倉監督は明言している。

 メンバー発表後、なでしこジャパンは6月21日から7月5日まで、2週間にわたる長期合宿を実施する。その後、7月10日から大阪でトレーニングキャンプを行い、同14日には京都のサンガスタジアムby KYOCERAで国際親善試合(対戦相手は未定)を行った後、7月21日に五輪初戦のカナダ戦を迎える。

 この5年間で、代表のユニフォームに袖を通して戦ってきた多くの選手たちの顔が浮かぶ。アジアカップやW杯、国際親善試合など、計32カ国と60試合を戦った中で、助け合い、切磋琢磨し合ってチームを作り上げてきた。

 その中から、なでしこの未来へバトンを繋ぐ18名が、6月18日、午後3時に明らかになる。