【得点への意欲】

 司令塔、配給役、潰し役、守護神。ドリブラー、ポストワーカー、チャンスメーカー、ジョーカー。サッカー選手のプレースタイルを形容する表現は様々だ。戦術が多様化し、一人で複数の仕事を担う選手は増えている。

 三菱重工浦和レッズレディースのMF塩越柚歩は、複数のタスクを高いレベルでこなすことができる選手だ。

 ポジションはサイドハーフで、166cmの恵まれた体格と加速力、テクニックを生かしたドリブルやキックを武器に、チャンスメイクからフィニッシュまであらゆる局面に関わる。選手が流動的に動きながら攻守を連動させる浦和のサッカーを成立させるキープレーヤーの一人だ。そして、今季は“仕留め役”としての存在感も増している。

 塩越は昨季、なでしこリーグ全試合に出場して6年ぶりのリーグ優勝に貢献し、ベストイレブンに選出された。また、10月にはなでしこジャパンに初招集され、五輪代表候補に名を連ねた。

 今季は、9月に開幕する女子プロサッカー「WEリーグ」に参加するプロ選手として、新たなキャリアをスタートさせている。アマチュア選手だった昨年までは、朝9時前から午後3時まで仕事をして夕方から練習をしていたが、今年からはチームの全体練習が午前に繰り上がり、午後は自分の時間として使えるようになった。

 塩越は、今年2月の始動時に、WEリーグ元年の覚悟をこんな言葉に込めている。

「去年、試合に出ていたからといって今年も出られるとは思っていません。チームとしては積み上げてきたものをより強くして発揮しながら、結果がついてくるようにすることが目標です。その中で、全試合に出場して出場時間をさらに延ばすことと、去年以上に点に絡むプレーを増やしたいと強く思っています。自分が点を取る!という貪欲さは足りない部分だと思っているので、成長したいと思っています」

 今年4月から始まったプレシーズンマッチでは、全4試合に先発して3試合にフル出場。チーム内では、昨季のなでしこリーグ得点女王でエースのFW菅澤優衣香と並ぶ3ゴールを決め、リーグでも2位タイだ。3ゴールとも、味方とのコンビネーショで崩し、相手GKと駆け引きして狙ったコースに仕留めている。リーグ戦18試合で3ゴールだった昨季と比べるとシュート数も多くハイペースで決めており、始動時の言葉通り、ゴールへの高い意欲がうかがえる。

 だが、9月のリーグ開幕に向けてチームはまだ本調子ではない。浦和は他のチームに比べて、昨季からほとんどメンバーが変わっていないことがアドバンテージになっている。だが、主力に代表候補が複数人いるため、チーム全員でコンビネーションを合わせる時間が限られる。各チームの浦和対策も進んでいるが、浦和にとっては情報が少ない新体制のチームとの対戦が多く、プレシーズンマッチでは1勝2分1敗と苦戦を強いられた。

 楠瀬直木監督は、その結果と内容から浮かび上がった様々な課題を受け止めつつも、「今は、一人でも多く(7月の東京)五輪の代表に入って活躍してほしいという思いがあるので、選手たちがチームに戻ってきてからしっかり修正をしたい」と、割り切った考えを明かした。

 代表は、6月10日にウクライナ(エディオンスタジアム広島)、13日にメキシコ(カンセキスタジアムとちぎ)との国際親善試合が決まっている。6月1日には、その2連戦に臨むメンバーが発表され、23名の中には塩越の名前もあった。

写真:西村尚己/アフロスポーツ

【覚醒したポテンシャル】

 塩越は、中学1年生の時に浦和のユースに加入してから浦和一筋だ。ハイレベルな環境で力をつけ、恵まれたフィジカル、複数のポジションをこなすことができるサッカーセンスで10代で頭角を現し、年代別代表でも活躍してきた。現在23歳だが、ユースから昇格した18歳当時から今と変わらない身長があり、柔らかい身のこなしで相手の間をスルスル抜いていく軽やかなドリブルや、ゴールネットを突き破りそうな強烈なシュートを放っていた。その頃はサイドバックでプレーすることも多く、ユース時代からトップチームの練習に加わっていたこともあり、代表クラスの経験豊富な選手たちの中に入っても臆することなくプレーしていた。

 自分の性格を「人見知り」と明かしたことがあるように、物静かな和風美人の印象も与えるが、プレーはアグレッシブで力強い。そのギャップも塩越の魅力だろう。

 ただし、ゴールは少なかった。2016年から19年までの4シーズンで、公式戦72試合に出場しているが、ゴールは「3」にとどまっている。浦和の前線はポジション争いが激しく、好不調の波もあったためなかなか先発に定着せず、出場時間は限られていた。

 転機は、膝のケガから復帰した19年に訪れている。同年に浦和の監督に就任した森栄次監督(現総監督)は、ポジションを固定せず、しっかりとボールを繋ぐサッカーを追求。「止める・蹴る」高い基礎技術や戦術理解、選手同士のコミュニケーション力を要求し、その過程で個々のポテンシャルをさらに引き出した。

 塩越もその一人だ。19年末の皇后杯では、主力として5年ぶりの決勝進出に大きく貢献した。前線で決定的なパスやクロスで味方のゴールを演出。「森さんのサッカーが自分にフィットしていると感じています」と、プレーを楽しみながら成長している手応えを口にしていた。

 そして昨年、第2節のアルビレックス新潟レディース戦で後半からピッチに立ち、2-2で迎えた終盤に鮮やかなミドルシュートを決めた。左サイドからドリブルで切り込み、上半身を捻りながら全身のパワーをボールの芯に込めたシュートは力強く、目を見張った。この逆転勝利でチームを勢いづけると、第3節から先発に定着。持ち前の攻撃力とユーティリティ性を存分に生かして、チームの快進撃を支えた。

昨季、6年ぶりの国内タイトルに貢献した
昨季、6年ぶりの国内タイトルに貢献した写真:西村尚己/アフロスポーツ

 森総監督は昨年、塩越の魅力についてこう語っている。

「彼女は中盤でプレーの柔軟性があり、相手の間でボールを受けて捌(さば)くことや、その(パスを出し、受ける)タイミングなど、よく周りが見えていて、起用する側としても面白い選手です。中盤でもスペースを作ったり、相手のプレッシャーを回避できる選手だと思います」

 今季、森総監督とともに二頭体制でチームを率いる楠瀬監督は、昨季までのスタイルを引き継ぎ、チーム全体で攻守の精度と強度をさらに上げていくことを目指している。

 5月30日に行われたサンフレッチェ広島レジーナ戦で、塩越は気温30.8度の厳しいコンディションの中、幅広いエリアをカバーしながらフル出場し、ゴールも決めた。しかし、結果は2−2のドロー。浦和は相手の3倍超の19本のシュートを放ったが、試合巧者の広島にミスや守備の一瞬の綻びを突かれた。試合後、塩越はチームの声をこう代弁した。

「後半、フォーメーションを変えて球際も強くいけるようになった中で2点取れたのは良かったですが、追加点が取れなかったことと、終了間際に失点して勝ちきれなかったところは反省点です。球際の厳しさや、走り負けないことがまだ足りないということは、自分だけではなく、みんなが感じていると思います。これがプレシーズンマッチで良かったと思えるようにしていかないといけないなと思いました」

 サッカーについて語る言葉は以前から理路整然としていたが、今は、チームの主軸の一人として「チームを勝たせたい」という“熱さ”が、プレーやインタビューの言葉からほとばしるようになった。守備でも、体をぶつける球際の寄せ方に迫力が増し、消耗の激しい炎天下でも体力をセーブすることなく、タフに走り抜いた。

「与えられた時間で、100%の力を前半から出し切るイメージでプレーしています。走れば走るほど調子が出ますし、ボールを持って長い距離を走っている方が調子が出るんです」

 チームの躍進とともに、昨年から心身ともに急成長を遂げてきたその過程で代表に招集され、フル代表のピッチに立つチャンスを掴んだ。

【東京五輪の最終メンバー候補に】

 代表では、昨年10月の初招集以降、4回の候補合宿にはすべて招集されてきた。なでしこジャパンの高倉麻子監督は、招集時に塩越に期待することについて、「ボールを持った時の瞬間的なスピードやゴール前に入っていくパワー」と「ユーティリティ性」を挙げている。

 五輪は短期間の連戦で、交代枠が「5」と、これまでより多い。その中で指揮官が18名全員に求める要素は、「ハードワークができること」と、「守備の約束事への理解度の高さ」、「攻撃時に、ワンプレーで違いを生み出せる力」だ。

 塩越自身は、最初の合宿時には硬さも見られたが、年代別代表時代からともにプレーしてきた選手が多い中で、徐々に持ち味を見せる場面が増えてきた。紅白戦ではサイドハーフやサイドバックでプレーすることが多かったが、5月の合宿時の男子チームとの試合ではFWでもプレーしている。チームメートの菅澤と2トップを組んで前線の起点になり、初めて組む選手ともスムーズな連係を見せた。「代表は気遣いができる選手が多く、周りを見てプレーを変えてくれるので、試合中にパッと目を合わせてプレーすることが多いです」と、様々な状況の変化に対応できる手応えを掴んでいるようだった。

 高倉監督は、「体が強く、ミドルシュートのパンチ力もあってボールキープにも長けています。ボールの収まり加減も良かった」と、5回の活動を通してのプレーを評価している。一方で、「まだ周りに合わせる感じが見られるので、より積極的なプレーをしてほしいですし、自分からボールを呼び込むようなアクションが増えるともっといいなと思います」と、“宿題”も課している。

 4月のパラグアイ、パナマとの2連戦ではピッチに立っておらず、代表キャップ数はまだ「0」だ。それでも、五輪に向けた最終選考となるこの6月の国際親善試合でアピールする機会を得た。FIFAランキングは、日本の11位に対してウクライナが31位、メキシコは28位。両チームとも、守備面で強さや組織力があるという。今回は海外組も加わり、五輪に向かうチームの輪郭はよりはっきりするだろう。

「自分の良さを100パーセント出し切る、という部分で後悔はしたくないです」

 5月の合宿時に、そう語っていた。以前はか弱く、優しく聞こえた声が、力強さを感じさせる張りのあるトーンに変わったのは、浦和でじっくりと時間をかけて積み上げてきた自信ゆえだろうか。

 ウクライナとメキシコとの2連戦で、目標としてきた代表のユニフォームに袖を通した塩越が今の自分をどのように表現するのか、注目だ。持ち前のユーティリティ性や、ゴールを目指す迫力あるプレーは、9月に開幕するWEリーグへの期待感も高めてくれるに違いない。

※表記のない写真は筆者撮影