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3-2で男子ユースに逆転勝利。なでしこジャパンが2020年最後の活動で得た手ごたえ

松原渓スポーツジャーナリスト
年内最後の活動をJヴィレッジで行った(写真:keimatsubara)

 なでしこジャパンが11月23日から29日にかけて、年内最後となる活動をJヴィレッジ(福島県)で行った。

 10月中旬に行われた合宿に続き、高倉麻子監督は、なでしリーグで好パフォーマンスを見せた選手を中心に27名を選出。今季、得点ランク2位の15ゴールを決めたマイナビベガルタ仙台レディースのFW浜田遥、優勝した浦和レッズレディースで全試合に出場したMF水谷有希、リーグ2位のINAC神戸レオネッサでレギュラーの座を掴んだGKスタンボー華の3名が初選出され、2011年のW杯優勝経験者でもあるFW高瀬愛実(INAC)が高倉監督下では初招集されるなど、フレッシュな顔ぶれとなった。

 加えて、唯一の海外組であるオリンピック・リヨン(フランス)のDF熊谷紗希が、今年3月のアメリカ遠征以来となる合流を果たした。スポーツ庁による特例措置により、2週間の隔離を免除される形で参加が可能になったのだ。8月のUEFA女子チャンピオンズリーグ決勝でゴールを決めて5連覇に貢献し、今年の国際サッカー連盟(FIFA)各年間最優秀賞の女子最優秀選手にもノミネートされるなど、充実したシーズンを過ごしている熊谷。屈強な海外勢と渡り合ってきた球際の強さや、味方に送る指示の質などに、初めて一緒にプレーする若い選手たちも大いに刺激を受けたようだ。

 10月の合宿では守備の構築に時間が割かれたが、今回は攻撃面での積み上げが中心となった。高倉監督はその狙いについて、「攻撃陣は特徴の違う選手が揃っているので、(ゴール前で)チームの狙いやアイデアに関していくつかの提示をしながら、組み合わせで変化を生み出せるようにしたいと思っています。形を作って選手をはめこむということではなく、個々の一番いいところを出せるようなチーム作りをしていきたいです」と、語った。

【攻守の狙いを明確に】

 流動的な動きが求められる2列目は、ハイレベルなポジション争いが見られた。

 MF中島依美(INAC)、MF長谷川唯(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)、MF杉田妃和(INAC)、猶本光(浦和)、遠藤純(ベレーザ)、MF塩越柚歩(浦和)や水谷(浦和)ら、複数ポジションでプレーでき、即興でコンビネーションを生み出せる選手が揃う。

 

 最終ラインにも動きが見られた。20歳のDF宝田沙織(C大阪堺)がビルドアップで質の高いパスを何本も通せば、今回、U-20世代から新たに加わったDF高橋はな(浦和)が、1対1の強さを見せていた。左右のサイドバックには、突破力のあるDF清家貴子(浦和)と、スピードを生かしたプレーを得意とするDF北村菜々美(C大阪堺)が新たな色を加えた。

 1カ月という短期のスパンで合宿を続けてきた中で、選手間の意思疎通もよりスムーズになった印象だ。前回よりもパススピードが上がり、動きのスピードや切り替えの速さも増した。

 DF鮫島彩(INAC)は、攻撃面での取り組みについて、最終日に課題と収穫をこう振り返っている。

「攻撃面で『チームとしてこれをやっていこう』という(決め)事が細かく、明確で、練習中はスタッフや選手同士の声かけもあったので、強く意識して取り組むことができました。前線の選手に、パススピードの速いパスを差し込む場面を増やすことに取り組む中で、狙いすぎて引っかかる部分もありましたが、全体的にいいボールが前回よりかなり入るようになったと思います」

 相手陣内の高い位置からボールを奪いに行く守備面のコンセプトも、熊谷や新しい選手が加わった中で再共有された。スピードのある海外勢に対して、ロングボールで背後を取られるリスクとの向き合い方について、海外組である熊谷はこう話す。

「高い位置でボールを奪えた方が攻撃に繋がるし、球際で戦えることは私自身の特徴も生かせると思います。それを90分のゲームの中でどれだけ続けられるかは、見極めていかなければいけないと思います。日本人相手なら、前から奪いに行っても(繋いで)はがす努力をしてくるでしょうけど、海外はもっと早い判断で(裏に)蹴ってくると思うので、一発でやられるぐらいならプレッシャーをかける位置を下げなければならない場面も出てきます。そこで、(裏に蹴られないためには)球際で蹴らせないようにしたり、ボール保持者にどれだけプレッシャーをかけられるかがポイントになると思います」(熊谷)

 10月に続き、セットプレーの守備にも時間が割かれた。守備面では大部由美ヘッドコーチとともに、今年7月に着任が発表されていた今泉守正コーチからもアドバイスの声が響いた。アメリカのフロリダ州立大学でアシスタントコーチを務めるなど、活動の拠点をアメリカに置いている関係で10月には参加できなかったが、今回は初めて参加。JFAアカデミー女子統括ダイレクターやナショナルトレセンコーチなどで日本女子サッカーの指導経験は長く、女子サッカー大国のアメリカでキャリアを積んだ経験も新たな力になりそうだ。

 JFAアカデミー福島時代に指導を受けた経験がある水谷は、「戦術的な説明もしっかりとわかりやすく伝えてくれて、懐かしさがあります」と、話していた。

セットプレーの練習も重点的に行った
セットプレーの練習も重点的に行った

【男子チームとの“海外勢対策”で示した修正力】

 取り組みの成果を試す機会となったのが、男子高校生とのトレーニングマッチだ。コロナ禍で海外遠征や対外試合を組むことができない中、海外勢のパワーやスピードを想定して戦える貴重な機会である。4日目に男子のふたば未来学園高校と、最終日にはいわきFC U-18と40分ハーフのトレーニングマッチを実施。10月の合宿では前者に2-1で勝ち、後者には1-3で敗れたが、今回は4-0と3-2のスコアで連勝を飾った。

 ふたば未来学園との試合は、4-4-2のフォーメーションで臨んだ前半は、一進一退の展開でスコアレスドロー。メンバーを変えて4-2−3−1で臨んだ後半に主導権を握った。ワントップの田中美南(INAC)をターゲットに、中盤の杉田、長谷川、猶本、中島が流動的な動きで攻撃を活性化。猶本のパスを受けた長谷川がGKの頭上を越すロングシュートで先制し、DF清水梨紗(ベレーザ)のクロスに杉田が合わせてリードを広げると、長谷川と北村のワンツーから最後は杉田が押し込んで3点目。田中が相手DFとの駆け引きから、長谷川のスルーパスに抜け出して4点目を決めた。

 この試合の収穫は、多彩な攻撃のバリエーションが見られたことと、もう一点は、点差が開いたことで、予定にはなかった4-3-3(4-1-4-1)のフォーメーションを試せたことだ。「選手の特徴が出やすい布陣でもありますし、相手のバランスを崩せるようなオプションを考えています」(高倉監督)という狙い通り、流動的な動きの中で各自の攻撃力を活かし合うことができていた。2得点を挙げた杉田は、「(自分が)サイドハーフだと高い位置からクロスに入っていきやすいし、サイドからいいクロスが何本も上がっていました」と、攻撃の厚みに手応えを示した。

 これまで、国際試合では海外勢は4-3-3を使う国が多く、4-4-2を基本とする日本は、中盤で生じるギャップが不利に働くケースが多かった。そうした場合を想定して、日本も4-3-3のオプションを使えるようにしておきたい。

 長谷川は、「選手の組み合わせによってフォーメーションを変えて戦えたら幅が広がると思うので、ポジティブなチャレンジだったと思います」と振り返り、田中も、「4-3-3に変わって前線に厚みが出るのは面白いなと思いました。突然の変更で細かいところは共有できていなかったので、今後、『チームとしてこうやろう』という形ができたらさらに良くなると思います」と、新たなオプションに可能性を見出していた。

 最終日に対戦したいわきFC U-18は、走力、パワー、技術ともにさらにレベルの高い相手だった。前半は相手の素早いプレッシャーを受ける形になってしまい、2失点。メンバーを変えて4-2-3-1に変えた後半は、ポジショニングや選手同士の距離感が良くなり、効果的なパスワークで形勢を逆転させると、まず中島のミドルシュートで1点を返す。その直後には、清水のクロスに抜け出した浜田が豪快なロングシュートで同点に。終盤には、MF三浦成美(ベレーザ)が長谷川とのパス交換から、飛び込んできたGKを浮かしたボールでかわす技ありの逆転弾を決めた。

攻撃を活性化した中島依美
攻撃を活性化した中島依美

 MF林穂之香(C大阪堺)や長谷川も惜しいミドルシュートを放つなど、遠目から積極的にゴールを狙う姿勢が光った。2試合で勝利に貢献した中島は、試合中の周囲への声かけも目立った。代表での立ち位置の変化を問われ、覚悟の強さを言葉ににじませた。

「所属チームでもそうですが、たとえばゲームの中で状況に応じて発信するところで、『自分が先頭に立ってやらなければいけない』と感じているし、プレーでも違いを見せるところを意識しながらやっています」

 中島と同じく今年で30歳を迎えた高瀬も、ピッチ内外でチームを盛り上げた。「自分がトライしてエラーする、そういう姿勢を見てもらうことで、若い選手たちに思い切ってプレーしてもらえたらと思います」と話し、経験のある選手たちの中でも一味異なる「味」を見せていた。

【五輪イヤーへ】

 10月と11月の2回の合宿を通じた収穫は、3点に集約されるのではないかと思う。

「新戦力の台頭で見られた各ポジションの活性化」、「戦術を深化させる中で選手間のコミュニケーションとコンビネーションが向上」、そして「ピッチ内外でチームをリードする選手が増えたこと」だ。

 合宿の最終日に、五輪が延期されたことで生じたメンバー選考への影響について問われ、高倉監督はこう答えている。

「1年延びたことで、リーグを含めて出てきた選手がたくさんいます。そういった選手を呼んでいく中で、新しい選手がまったく引けを取らないパフォーマンスを見せてくれているので、選手たちは厳しいところ(競争)に身を置くことになると思います。ただ、チームの根幹は変わっていないので、それを体現し続けている選手はこれからも呼び続けると思いますし、プラスアルファで成長を見せてくれる選手やプレーの幅が広がった選手はもちろん呼びます。また入れ替えが少しありながらチームを作っていく形になると思います」

 来年は女子プロサッカーリーグ「WEリーグ」が秋に開幕するため、例年とは異なり、プレシーズンが長くなる。そのため、7月に予定されている五輪までの期間は代表活動も多くなることが予想される。五輪が無事に開催されて、なでしこジャパンが結果を残すことができれば、WEリーグにも好影響を及ぼすだろう。それは、コロナ禍で他の競技同様に厳しい状況に立たされている、女子サッカー界の希望でもある。

来年は代表の活動が多くなりそうだ
来年は代表の活動が多くなりそうだ

※文中の写真はすべて筆者撮影

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のなでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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