攻守を最大化するための適材適所を探るバニーズ京都SC。楽しさを追求しながら勝利を目指す

選手の可能性を探りながら上位進出を目指す(写真提供:バニーズ京都SC)

【3つの策を徹底しながら再開後に備える】

 32年目を迎えたなでしこリーグ。1部から3部にあたるチャレンジリーグまで32チームで構成されているが、中でも長い歴史を紡いできたクラブの一つが、2部のバニーズ京都SCだ。

 そのルーツは、1990年に創設された「大阪FCレディース」にある。1991年の第3回日本女子サッカーリーグに「旭国際バニーズ」として参戦。当時の代表選手や外国人選手も在籍していた。95年以降はバブル崩壊とともに冬の時代を迎え、2000年に市民クラブとなり厳しい環境を乗り切ったが、2006年に一度解散。選手の再編成などを行い、「バニーズ京都サッカークラブ」として再スタートを切った。

 14年に3部のカテゴリーまで降格したが、18年に2部に昇格。代表合宿に選出されていたFW谷口木乃実や、元日本代表のDF加戸由佳、即戦力となるDF野間文美加らを獲得した。直近の2シーズンのリーグ戦成績は9位。3部の上位チームとの入替戦で辛うじて残留しているが、就任2年目の元井淳監督の下で今季は5位以内を目指し、その先に優勝を見据える。

 バニーズの練習は日中に行われ、選手たちは午後にスポンサー企業などで仕事をしている。

 4月上旬から6月上旬までの活動自粛中、元井監督はコロナ対策、暑さ対策、ケガ対策の3つを徹底しながら、再開時にべースを落とさないことを心がけてきたという。

「仕事のスケジュールが変更になる選手もいたので(在宅トレーニングを)詰め込みすぎないことも大切だと思い、最低限の体幹トレーニングと、筋トレ、持久力のベーシックなメニューを渡して各自に任せました。LINEやZoomでコミュニケーションをとる中で、選手の意外な面を見ることができたことはプラスになると思います。活動再開時のケガはブンデスリーガや各国を見ていても注意が必要だと感じます。選手たちはプロではないので長期離脱するようなケガをした場合、サッカーから離れるだけでなく仕事も休まなければならず、収入面等の心配も出てきますから」

 バニーズにとって、昨年、18試合で8ゴールと低迷の要因にもなった得点力不足は課題の一つだ。オフには中盤や最終ラインのレギュラー数名が退団したが、前線は戦力を維持できており、連係向上を得点増につなげたいところだろう。

 新加入選手は9名。中でも代表選出歴があり、1部で豊富なプレー経験があるMF渡辺彩香は即戦力となりそうだ。スピードを生かした突破が魅力で、FW、SH、SBでのプレー経験を持つ。昨季の2部の試合は、動画サイト「mycujoo」で今も数試合が見られる。昨季はフォーメーションが4-4-2や4-3-3、4-5-1と、相手や時間帯によって変化していたが、今季はどうなるだろうか。

元井淳監督(写真提供:バニーズ京都SC)
元井淳監督(写真提供:バニーズ京都SC)

「点を取るために適材適所になる配置を、2月、3月も考えていました。メンバーが約3分の1変わったので、各選手の特長を出しつつ攻撃面の質を上げ、守備では組織的にボールを奪うシーンを作って行きたいですね。いい形でボールを奪うことでチャンスにつなげたいですし、攻撃では『どう攻め切るか』が守備にもつながります。ボールを大切にする意識が高すぎて仕掛ける場面が少ないので、形にはめ込むのではなく、こちらが求めるプレーや優先順位に基づいて選手たちが主体性を持って取り組んでほしいです」

 来年、女子サッカーのプロリーグ「WEリーグ」が新設されることが決まり、今季のなでしこリーグは1部と2部、2部とチャレンジリーグ間の自動昇降格および入替戦を実施しないことが決まっている。過去2シーズン厳しい残留争いを戦ってきたバニーズにとって、順位を気にせず戦えることはどのように影響するだろうか。

「やるからにはすべてのゲームに勝つことを目指していますし、高い志を持って優勝を目指していますが、昇降格がないからこそいろいろなチャレンジをして、一人ひとりが力をつけて、最低でも5位以内には必ず入ろうと伝えています。交代枠が1試合5人になる(*)ので、選手層が厚いチームの方が柔軟に戦えると思いますし、いろいろな選手の可能性を追求することができると思います」

(*)国際サッカー連盟(FIFA)が今年末までの期限付きのルールとして提案した「5人交代制」ルールがなでしこリーグでも適用される。

 残り約3週間となった今季の開幕(7月18日)に向け、攻守を最大化するための“適材適所”を探りながら、準備は進んでいる。

【「楽しさ」を追求する司令塔】

 所属7年目を迎えるMF松田望は、バニーズの得点力アップの鍵を握る存在だ。経験豊かな司令塔は、左足の柔らかいボールタッチで試合をコントロールする。トップ下からサイドに流れたり、2列目からの飛び出しなど、自由な動きで攻撃にアクセントを与える。ラストパスには、受け手への丁寧なメッセージが込められている。

 松田は前線から全力でボールを追い、自ら守備のスイッチを入れる。なでしこリーグで16年のキャリアを持つベテランでありながら、そのプレーは弾けるように若く、エネルギッシュに映った。

松田望(写真提供:バニーズ京都SC)
松田望(写真提供:バニーズ京都SC)

 元井監督は松田について、女子サッカーに関わり始めた2012年頃から、対戦相手としても目を引く印象深い選手のひとりだったと語る。

「彼女は経験を重ねていますが、いい意味でサッカー少女のまま、楽しみながら向上心を持ってやっているので、ベテランという感じがしないですね。測定をやると、実は一番走れるんですよ。ガツガツやって背中で見せるというより、サッカーを楽しんでいることをプレーで見せながら若い選手にいい影響を与えてくれます」 

 ピッチで大切にしていることや、仲間について楽しそうに話す松田は、プレーから受ける印象とかけ離れてはいなかった。テンポの良い関西弁とユーモアを交じえた会話に、こちらが自然と笑顔になる。

 だが、質問に対する答えは、いい意味で予想を裏切るものばかりだった。たとえば、バニーズで7シーズンほとんどの試合でフル出場を続けてきた松田には、練習や試合前後にストレッチやケアで特別なルーティンがあるのではないかと予想していたが、彼女はあっさりと否定した。

「ああしなきゃ、こうしなきゃ、となるとストレスになるので、その時々で『これが足らへんな』と思うことをやるぐらいです。長くサッカーをやってきましたが、ストレッチも毎日はしていないしアイシングもほとんどやったことがないです。体に異変があったら無理はしないようにしていますよ。あとは…特には気にしていないです。あまり、コンディションにこだわるタイプじゃないんですよ。だからね、誰のお手本にもならないんですよ(笑)」

 自粛期間中の過ごし方についても同じだ。選手たちは監督から動画のメニューをもらった上でそれぞれのペースで取り組んでいたはずだが、松田は「嘘もあれかな、と思うので正直に言いますと…」とこう続けた。

「(チームメートの)みんなはそれぞれがしっかりトレーニングをしていたと思うし、きつい階段を登りに行っていた選手もいたようです。ただ、私はね…ほとんど何もしてません。仕事が休みの日は、ほぼ家のベッドで横になってましたから(笑)。この年になると、休めるときに休まないといけないんですよ。どうせリーグが始まったら動かなあかんし、今からそんなにいっぱい動いていたらしんどいかな、と思って。追い込まれないとやらないんですよ(笑)」

 90分間、運動量を求められるポジションでパワフルに走り、それを何年も続けるには相当な努力が必要だと思っていたから、その答えは新鮮に響いた。だが、その自然体の「自己流」を確立するまでに様々な経験と思考を経てきたのだろう。

「サッカーを楽しくやりたいから上手くなりたいと思うし、そのために練習しています。それで、見ている人に『バニーズのサッカーが面白いな!』と思ってもらえたら嬉しいです。だから、まずはチームのみんなが楽しめるように考えてやっています。あんまり人に対して厳しく言えないタイプです。優しいんでしょうね(笑)。それは冗談ですが、自分が若い頃に、上の人たちに厳しく言われてきたんです。それでためになったこともあるのですが、正直、『サッカー嫌やな』『楽しくないな~』と思う時期もありましたから。若い年下の子たちにはそうなって欲しくないな、と思っているんです」

 決定的な場面でパスがつながらなかったり、流れてしまった時に、松田が「ごめんごめん」とばかりに軽く手を上げ、すぐに切り替えた、動画で見たシーンを思い出した。周囲を伸び伸びプレーさせるために、彼女自身が割を食うこともあるだろう。だが、誰かのせいにはしない。「楽しいこと」と同じぐらい、松田が大切にしていることがある。

「例えば、お腹が空いている時の方が頑張れるじゃないですか。だから、満たされてしまうとやる気が出ないんですよ。サッカーに対してもそうだと思います。少し飢餓感があるぐらいの方が頑張れる。試合中は、ある意味ずっと『うまくいかへんな』と思ってますよ。だから、全部がうまくいったらサッカーをやめると思います。満足したい気持ちはあるけれど、でも、満足したら終わっちゃう。矛盾しているようですが、満足はしたいんですけれど、そういうもの(目標)を作りたくない自分もいるんです」

 そのジレンマさえも楽しんでいるように見えた。そんな松田に、あえて今季の目標を聞いてみると、「やっぱり『健康』です。健康第一ですから、気をつけてくださいね!」と返ってきた。サッカーを愛し、自身のプレーで多くの人を幸せにしたいと願う彼女は今シーズンも、きっとピッチを躍動しながらサッカーを楽しむ姿を見せてくれることだろう。

(※)インタビューは、6月中旬にオンライン会議ツール「Zoom」で行いました。